湧先輩と部下


「わわっ」

ぼふんという空気が飛び出す音と黒い煙が、部屋全体に広がる。
またか、と私は呆れた表情を隠す事もせずに煙の先へと目を向けた

「湧先輩、それ今日で3回目ですよ」
「けほっ……もうちょっとで完成、なんだけどな……」

ゆるい表情と声で煙の中から出てきた彼は、そう言って私に向けてへにゃりと笑う。
このどうしようもない上司は夢中になるとどうもまわりが見えなくなるようで、そんな彼を助けて(世話をして)欲しいと言われ配属されたのが私だった。
最初こそ前線に立ちたかった私は乗り気ではなかったものの、今では結構彼と2人のこの場所を気に入っている。本人に言うつもりはサラサラ無いけれど。

「顔、凄い事になってますよ」
「えっ、ほんとう?」

ススだらけになっている事を指摘すれば、湧先輩はだらしなく着た隊服の袖でいいかげんに顔を拭う。それじゃあ取れる訳ないでしょう、と濡れたタオルを先輩に渡すために近寄れば、当然とでも言うように彼は眼鏡を外し目を閉じた。

「……?どうしたの?」
「……いえ。拭きますね」

まかさと思ったが本当に拭かれ待ちだったとは。
不覚にも感じてしまったかわいいという感情には気付かなかった事にして、私は濡れたタオルを彼の顔に押し付けた