ずっと、君を



「よー名前、久しぶりだな!」
「輝くん!」
仕事の関係で上京する事になった時、ふと3つ年上の幼馴染の事を思い出し連絡を取った。
熱血で阿呆そうな言動(主に駄洒落)と裏腹に弁護士になった彼とは数年会って居なかったけれど、久しぶりに見た彼は見送ったあの日からあまり変わってないように見える。
待ち合わせに指定された居酒屋さんは輝くんが良く来るお店なのか、店員さんは私達が入店してすぐに「いつもの席にどうぞ」と一番奥の個室に通してくれた。

「よく来るお店なんだ?」
「ん?あぁ、仕事仲間と、な」

乾杯、とグラスを当てて、やっとおいしいと感じるようになったビールに口を付ける。
仕事仲間と口にした彼が妙に歯切れが悪く、私は首を傾げた。

「どうしたの、仕事うまくいってないの?」
「あ!いやそういうワケじゃねーんだけど……笑わずにきいてくれるか?」
「えっ何……?」

やたらと深刻そうな顔で私を見る輝くんにつられて少し身構える。
何か言い辛い話なのだろうか。私が聞いて役に立てるとも思えないけれど

「……今な、弁護士辞めてアイドル事務所に居るんだ」
「え、事務員?」
「ちげーよ!アーイードール!!」

やっぱそういう反応するだろ〜!と項垂れた彼を見てケタケタと笑いながら枝豆を口に入れる。
実は弁護士を辞めた事も、315プロダクションというアイドル事務所に居る事も彼の家族から聞いて知っていたのだ。ただ彼の口から聞かないうちは聞いて良いものなのかを測りかねていただけで。

「あはは、冗談冗談。今度CDデビューするんでしょ?すごいね」
「……知ってたのかよ」
「うん、輝くんのお母さんから聞いてた」

ただ私も聞いた時は本当に驚いた。えっ輝くんって今28だよねとか、すごいチャレンジャーだな!?とか色々思ったものだ。
それも再会した時の彼の笑顔で吹き飛んだけれど。寒いギャグの所為で忘れがちだけど彼は顔は悪くない。身体を動かすのも好きだったからダンスもきっと上手だろう。

「まぁ……そこそこ応援するよ」
「はは、サンキュ!」
「でも歌とか輝くん大丈夫なの〜?」
「あ、馬鹿にすんなよ、これでもレッスンしてるんだからなー!」




一緒にCDを出す仲間の事とか、事務所の他のアイドルの事とか(なんとあのJUPITERも居るらしい)、プロデューサーさんの事とか。私には知り得ない世界の話が面白くて随分と長い時間飲んでいたように思う。それでも酔いつぶれたりしないのはアイドルという自覚があるからなのか、年下で妹分の私が相手だからなのか。

「本当に送らなくて大丈夫か?」
「平気、すぐタクシー拾うし。輝くんこそ酔っ払って変な事しないようにね」
「しねぇよ!」
「そうかな〜?だって成人したての頃とかさ……」
「だああ!昔の話はやめろって!」

輝くんと居ると、よく一緒に遊んだ昔が懐かしくてなんだか別れるのが惜しくなってしまう。
このまま送ってもらいなんかしちゃったら変に昔の感情が出てきそうなので丁重にお断りして、じゃあ、と手を振る。
きっと輝くんはこれからどんどん有名になって、私と会う暇なんて無くなってしまうんだろうな。
なんとなくそんな予感がする。あ、なんだこれ寂しい?悲しい?
そんな悶々とした感情を隠して「仕事頑張ってね」と笑えば、くしゃりと頭を撫でられた。

「……もうそんな子どもじゃないよ、私」
「ん〜〜でも、名前変な顔してたぞ」
「変ってなに変って」
「……俺と別れるのが寂しい〜みたいn……ぶっ」
「ばかじゃないの!ばかじゃないの!」

図星をつかれて思わずべチンと彼の両頬を平手で挟む。良い歳して寂しいだなんてかっこ悪いしそれを勘付かれてるのはものすごく恥ずかしい!!
帰る!っと怒ったように見せて彼に背中を向ければ、「気をつけろよ〜またな〜〜」と笑いを含んだ声が耳に入る。
その「また」が本当に来るのかはわからないけれど、くるりと振りかえって「またね」と返した私に向けられた笑顔がすごく輝いていたので良しとしよう。しょうがないから応援してあげるよ、輝くん。