disqualification
英語交じりの独特な話し方、常にあがった口はし。明るく陽気で誰とでも仲良くなれる。
けれど軽薄なわけではなく周囲の人間の変化によく気が付き、さりげないサポートも嫌味なく出来る、コミュニケーション能力と気遣いが鬼のようにすごい人。
それが私の、舞田類という人間への印象だった。
それに加えて実は努力家で仕事に対してとても誠実。おまけに仕事上のパートナーであるだけのはずの私を大切に扱ってくれる……これだけの条件が揃ってそういう感情を持たない女が居るのならば教えて欲しい。
私は、担当アイドルである舞田類に恋をしてしまった。
そんなばかな、と何度も感情を否定したし気のせいだと言い聞かせもしたけれど、一度自覚してしまったらもうどうにもならないのがこの感情の厄介な所で、気がつけば彼を目で追っているし、会話出来た日は一日幸せな気分になる。重傷。もう手遅れ。
せめて気持ちが伝わらないように、なるべく2人きりにならない。飲み会で隣は避ける、という細かいルールを自分の中で作ったけれど、その自分ルールがまさかこんな形で間違いだったと気付かされる事になるとは思わなかった。
「プロデューサーちゃん……」
「る、類……?」
ぐずぐずと鼻を鳴らしながら私の肩に顔を埋める類の背中を、少し迷った後控えめに叩く。
事務所で残業していた私の元に「悪いんだけど助けてくれない?」と電話を掛けて来たのは同じく私が担当するアイドルの山下次郎さんで、何事かと思えばS.E.Mのメンバーで飲みに来たら珍しく類が酔ってしまったと。
私にどうしろと……とも思ったが事務所の近くで飲んでいたらしく、もう近くまで来ているというので出迎えた結果がこれだった。
普段(若さからか)3人の中で一番お酒に強いはずの類の酔い具合に硲さんはとても慌てていて、手には水やスポーツドリンクが大量に入った袋を持っていた。どう考えても類が一人で飲める量ではない。
反対に次郎さんは「助けて」と言ったわりにはのんびりした口調で「おちつくまでここに居させてやって」と、困ったように私に笑いかけたのだった。
「類、水飲んだら?」
なんとか類を引き剥がしてソファに座らせ、ここに居ると言い張る明日も早い硲さんを説得して帰らせた後、情けない顔で私を見る類にペットボトルの水を持たせる。ちなみに次郎さんは当然のように硲さんと帰って行ったので、最初から私に類を任せるつもりだったらしい。明日文句を言おうと思う。
類は酔うと泣き上戸なのか……新しい一面を知ってしまった。この状況に困っている半面嬉しくも感じてしまう自分を慌てて頭から追い出して平静を装い隣に腰掛けると、頭を掴まれ引き寄せられた。一瞬何が起こったのか理解できず数秒呆けた後、丁度類の肩に自分の頭を預ける形になっている事に気付き熱が顔に集まる。
落ち着け私、相手は酔っ払い、酔っ払い……
「るるるるるいさん、ちょっと酔いすぎ」
だめだまったく落ち着けない!!!
そもそも私は類が好きで、この状況をいけないとは思いつつも喜んでしまってるわけで。
強く引き寄せた割には優しい手付きで髪を撫でられている今の状況に心臓も理性ももう爆発寸前だった。
男だけじゃなくて女でもオオカミって言うのかななんて、そんな勇気もないくせにぼんやりと考える
「名前は、俺がキライ?」
「は」
ドキリ、名前を呼ばれて心臓が跳ねる。そんな呼ばれ方、したことない。
恐る恐る体を離して見上げると、見た事のない苦しげな表情で私を見ている類の顔があった。
キライ、嫌い?私が類を?
「嫌いなわけないでしょ」
「……でも、最近冷たいよ」
「私、が?」
「うん」
頭に衝撃を受けたような感覚、と言うのだろうか。まさか私が避けていたのを気付いて、気にしていたなんて。
自分でルールを作りはしたものの、他のアイドルと比べて若干距離が近かった類の扱いを皆と同じにしただけのつもりで、それが他人の感情に敏感な彼のストレスになってしまっていたとは夢にも思わなかった。もしかしてそのストレスが、類がこんなになるまで飲んでしまった原因なんだろうか。
「ご、ごめんね。そんなつもりじゃなかった……んだけど」
「じゃあどういうつもり?」
「えーーーと……」
「やっぱり俺の事キライなんだ……」
「あああそれはない!それはないから泣かないで!!!」
ぱたぱたと子どものように大粒の涙を零す類を慌てて宥める。
だって、どう言えばいいの。あなたの事が好きだから、ばれないように類との過度な接触を避けてたって?
それこそ本末転倒だ。(結果的に)類を傷つけてまで取った行動に意味が無くなってしまう。
……そうプロデューサーの私が警告していると言うのに、彼に恋する私が頭をもたげる。
私に嫌われたと思って、傷ついて飲み過ぎて、泣いている。いつも明るくて輪の中心に居る彼が。
類にこんな表情をさせられるのは、もしかして自分だけなんじゃないかって、そんな自分勝手な優越感と勘違いに殺されてしまいそうだ。
「……名前?」
「っ!ちょっと、近い……!」
ぐるぐると考え込んでいると、突然両頬を掴まれて顔を上げられる。驚いて顔を上げれば、まだ少し濡れた類の瞳に自分が写っていて、そんな事が確認できるくらい近い距離に慌てて彼を胸を押した。動かない。類の胸に置いた手から、どくどくと心臓が動くのを感じた。
「この間の打ち上げ、俺が座ったのを確認してからミスターはざまの隣に座ったよね。一昨日事務所に俺が来た時も、すぐに出て行った。昨日は買い出しに行くのに俺が付いて行くって言ったら断った。いつもならいいよって言ってくれてたのに……」
「る、類……」
「俺は、ねぇ、プロデューサーちゃん。君が笑顔ならなんだって良いって、思ってたんだけど」
「類」
「プロデューサーちゃんの横は、俺が良いって思っちゃったんだ」
「まって、ねぇ」
「名前、好きだよ。I only have eyes for you」
嬉しさでどうにかなりそうなのだから、やっぱり私は駄目なプロデューサーだ。