そして、胸の奥底からじわじわと湧き上がる喜びそのままに、目元をほころばせた。
「ありがとう。すっごく嬉しい。……でも、いいんだよ? そんな気ぃ遣ってもらわなくても」
その返答に大瀬はパッと頬を染め、ぶんぶんと首を横に振った。
「っいいえ、滅相もないです。人様に気を遣うだなんて、このクソはそんな高尚な真似できません。本当に、ただ、なまえさんのお誕生日を自分もお祝いしたいだけで」
「だとしたら……ますます嬉しいな」
「あ、ぅ」
大瀬は一度そこで言葉を切った。
なまえと話しているとよくこうなるのだが、なまえは自分の七面倒くさい御託にも、いちいち律儀に付き合ってくれる。のみならず今のように思いもかけない優しい言葉で返してくれて、大瀬はそのたびに、自分がこんなに素敵な女性と言葉を交わしていいのかと胸が苦しくなる。
けれども本当にそう思うならば、自分の存在など早々に彼女の前から消して然るべきだ。それなのに、なかなかそうできずにいるのは図々しい自分の性格故か、それとも。
「大瀬くん?」
顔を覗き込まれ、大瀬はハッとする。なまえを放っておいて、自分の思考に浸っていたことにようやく気づく。「すっ、すみません」小さく頭を下げ、気を取り直した。
「え、と……では……なまえさんのお誕生日を、教えていただけますか……?」
「うん、もちろん。私の誕生日はねえ……」
そうして告げられたその日にちを、大瀬は頭の中で何度も繰り返し、大切な宝物のように心に刻んだ。
そしてその日のうちから、早速考え始めた。なまえの誕生日には、どんなプレゼントがいいだろうかと。
あれでもない、これでもないと考え、ネットを覗いては考え、自作の品々を眺めつつ考え、ほかの住人にも相談しようかと考えたがそれは少し思い直し、またネットを検索して考え、考え、考え。
そしてある日の朝。
とうとう知恵熱を出してしまった。
たまたま訪れたなまえはその話を聞き、寝込む大瀬の部屋まで上がり、布団に寝かされる彼の傍らに正座してため息をついた。
「もう……。なんだかそれだけで、十分嬉しいよ」
そう言って苦笑する彼女を横になったまま見上げ、大瀬はまたパッと頬を染めた。
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