#31ネタ。大瀬くんにラッキースケベして理解くんに怒られる話です。
ほんのり夢主→大瀬くん。

ーーーーーー






 よそ様のお宅でお呼ばれしていたら、ちょっとお手洗いを借りたくなった。誰にでもあるし、あり得る経験だと思う。

 この日も私はカリスマハウスにお邪魔して、依央利さん、テラさんと一緒にお茶をいただいていた。

 「すみません……ちょっと、お手洗いお借りしてもいいですか?」

 カップをソーサーに置いておずおず申し入れると、お二人は快く頷いてくれた。

 「どうぞ〜」
 「場所、わかります?」
 「あっ、はい。以前もお借りしたことあるので」

 そう応じて席を立つ。リビングの出入口まで歩いて行って、またお喋りの続きに興じるお二人の声を聞きつつ、後ろ手に扉を閉めた。

 さて、と一息ついて目線を前へ向ける。奥に長い廊下には、突き当りに窓、左右にはいくつかの扉が並んでいる。一見して、どれがどういう部屋に通じているものか、その差がわからない。これが一般的な戸建てとは違う、このおうちのすごいところだ。なんでも、かつてはどこか外国の大使館別荘として使われていたそうな。洋風の造りに加えて、豪邸と呼ぶに相応しい広さに、生粋の庶民である私は来るたび少し面食らう。

 それでも、一度使わせてもらった場所くらい覚えている。

 「ええと、確か……」

 記憶を辿りつつ、足を踏み出した。向かって右手側に触った覚えはない。水場はその反対。向かって左側だった。奥のほうはお部屋として使われていると聞いたから。

 「ここだったよね」

 私は一番手前に見えるドアノブに手をかけ、そのまま引いた。

 そう、引いてしまった。不用意にも。己の記憶を過信して。よそ様のお宅であるならば、ノックの一つくらいやって然るべきだったのに。


 「……え」

 扉を開いた、その先には大瀬さんがいた。
 振り返ってこちらを見て、丸く開いた目をぱちくりさせている。
 その上半身は、裸だった。いや、より正しく言うと、裸になりかけていた。つい今しがた脱いだばかりと思しきお洋服が、下げた両腕に引っかかっている。

 その格好のまま、大瀬さんの唇が何か言葉を発する前に。

 「すっ、すみません!!」

 私は大慌てで、扉を閉めた。焦るあまり、大きな音を立ててしまった。
 それと同じくらいではないかと疑うほど、心臓もまた大きな音を立てている。たまらず私は、その場でしゃがみこんだ。両頬に手をやる。恥ずかしくも思ったとおり、そこはかっかと熱を持って燃えている。

 いけない、と思うのに。失礼だと思うのに。
 私はくらくらとめまいを覚えた。

 なめらかな白い肌が、脳裏にくっきりと焼き付いて離れない。


 「みょうじさん? どうかしましたか?」

 声がして、ハッと顔を上げた。
 見ると、廊下の向かい側、真ん中の部屋の扉を開けて、理解さんがこちらを覗いている。

 「あっ、えっと。すみません」

 私はまた慌てて立ち上がる。

 「ちょっと、お手洗いの場所を間違えてしまって……」

 理解さんは私の顔を見て、それから私の背後の扉を見て、「ああ」と頷いた。

 「そこは脱衣場ですよ」
 「そ、そうみたいですね! 間違えました」
 「この家は部屋数が多いですからね。それにしても、何やら顔が赤いような……大丈夫ですか?」

 その問いに、ぎくっ、と音がしそうなほど私の肩は強張る。
 「もしかして、ご気分でも?」重ねて心配げに問われると、誤魔化すのもかえってあやしいように思える。

 「ええっと、その……」

 私は慎重に、言葉を一つずつ選びながら言った。

 「ドアを開けたら、中に、大瀬さんがいらして」
 「大瀬くんが」
 「お風呂に、入ろうとしてた……んですかね?」
 「お風呂に」
 「服を、その……着ていらっしゃらなくて」
 「服を。……」
 「そ、それでちょっと、びっくりしちゃって!」

 あはは、と取り繕うように笑いを添えてから、はたと理解さんの表情に気づく。
 どうしてか、お口をあんぐりと開けていた。

 「つ、つまり……」

 震える声が絞り出される。

 「君達は、結婚すると……?」
 「…………」

 私はよく考えた。
 考えても、よくわからなかった。

 「……はい?」

 と、思わず声を上げるが早いか、理解さんのホイッスルが炸裂した。

 「わーーーーーー!!!!!!」
 「えっえっ? わあああすみません!」
 「はっ、はははは裸を見るなんてそんな! 責任を取ってけけけ、結婚しなければならないじゃないか!!???」
 「ごっ、ごめんなさい! なんだかよくわからないけどごめんなさーい!」
 「理解くん!? いったい何の騒ぎ!?」
 「うるっさいなあ、も〜。落ち着け理解よ!」

 リビングから、依央利さんとテラさんもやってきた。理解さんは顔を真っ赤にして怒り続けている。私は平に謝り、謝り倒すしかなかった。


 その後、脱衣場の扉をほんの少し開け、大瀬さんが顔を覗かせてくれた。
 俯き加減の白い頬を朱に染めて、ごくごく小さな声で教えてくれたことには、絵具が服についてしまったので脱いでそのまま洗おうとしていた、と。お風呂に入ろうとしていたわけではなかったようだ。

 「お目汚し失礼しました……。さよなら」
 「さよならしないで!」


prev / next

main / top