「二人羽織? 誰と?」
 「たぶん、私とテラくんだと思うけど」
 「え〜、テラくんはテラくんとしたい」
 「言うと思ったけどちょっと傷つくな?」

 冗談めかしてなまえが言うと、テラは一応「ああ、ごめんごめん」と謝った。「でも君、めちゃめちゃ幸運だよね。テラくんと二人羽織できるってさ」続く言葉になまえは「うす」と頷く。「夢でもラッキーっす」「だよねえ」軽いノリで応酬しつつ、テラは傍らのトルソーからまばゆいイエローの羽織を摘まみ上げる。四畳半ほどの狭く真白い部屋に、ぽつんと佇む洒落たトルソー。あまりにも異様な光景だが、しかしこの二人特段気にする様子もない。
 テラは羽織を広げしげしげと眺めつつ、「色はいいけど……」と僅かに眉根を寄せる。

 「似合うと思う。だってテラくんだもん」
 「そう……?」

 なんとなく乗せられている感がしなくもなかったが、テラはまあいいか、と一人ごちた。
 突然連れてこられた異空間。夢か現か判然としないが、一つだけはっきりしていることは、今ここにいるのはなまえと自分の二人だけという事実。そして得体の知れない指示とこの羽織。しょうがない。

 「さっさと済ませよ。テラくん今日用事あるから」
 「はーい」

 その場に座って、羽織を広げた。

 なまえも羽織の中に収まり、少し待つ。しかし指示を遂行したにも拘わらず、出口らしきものは現れない。

 「……何で?」

 なまえが呟く。その声に、いくばくかの不安が滲みつつあることには、なまえ自身気づいていなかった。
 腕の中にある丸い後頭部を見下ろし、テラはふと口を開いた。

 「あ、枝毛」
 「えっ、うそ」

 言われて、なまえはパッと両手で自分の髪を覆う。

 「ハサミない?」
 「え?」

 虚空に向けたテラの声に首を傾げる。而して、次の瞬間には二人の傍らにピカピカと銀色に光るカットハサミが忽然と現れていた。

 「すごっ」
 「切ってあげる。光栄に思え」

 そうしてテラは回した左手でなまえの髪をすくい、右手に持ったハサミで器用に枝毛を切り落としていった。
 静かな空間に、髪を切る小気味のいい音が響く。

 「……テラくんはさ」

 なまえが口を開いた。

 「どうしてそんなに髪きれいなの?」
 「テラクオリティ」
 「うそだあ。絶対週一サロン通いしてるでしょ」
 「しとらんわ」

 なまえはころころと笑う。テラはため息をつく。
 話題はそのままヘアケアのこと、スキンケアのこと、日々の美容などに及び、のんびりとした会話はしばらくの間続いていた。


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