前半、公式バースデーイラストからいろいろ妄想捏造。
後半、夢主の誕生日に触れます。過ぎてるorこれから で分岐あり。お好きなほうでご覧ください。

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 六月十四日の夜。
 ハウスの住人そろっての夕食を済ませ、大瀬はいつものように、一足先に自室へと引き上げた。照明はつけず、吹き抜けになったエントランス上部の窓から差す月明りだけを頼りに、階段を上っていく。
 階下のリビングからは、柔らかな光と共に住人たちの話し声がいまだ漏れ聞こえてくる。その賑やかな響きを音楽のように聴きつつ、大瀬は今日の夕食の献立について、なんとなく思い返していた。

 出来合いのものなど一つもない、全て依央利手製のメニューからなる夕食は、今日も今日とて大変おいしかった。
 けれどもその献立が、今日はいつにも増して手が込んでいたように思う。

 依央利は負荷を求めるあまり、しばしば高級フランス料理店のフルコースもかくやというような献立に手を出そうとする。以前、理解から伝え聞いた話によれば「なんか……何かのゼリー……? よせ……?」と、理解ですらろくに記憶に残せないような凄すぎるメニュー名をつらつらと唱えていたらしい。
 しかし、さしもの依央利も、時間の有限性だけはどうしようもない。よって普段の平日の夕食は、質、量こそ完璧ではあるものの、その献立は一般家庭にもまあ、あり得る範囲に収まっている。

 ところが、今日のそれは明らかにその範囲を越えていた。大瀬が名前も知らないような洒落た前菜をはじめとし、スープにサラダに選べるメイン、麺類、ご飯もの、和の総菜やガッツリ中華、果ては船盛まで用意されていた。魚は今朝釣ってきたという。
 食卓を埋め尽くさんばかりに並べられたその料理に大瀬は最初目を瞠ったが、ほかの皆は感嘆の声を上げながらも特段何のツッコミもせず食べ始めた。理解までもがそうだった。
 明らかに普段と違う食卓に、普段と変わらぬ皆の様子。故に大瀬も若干の戸惑いを覚えつつ、そのことには触れないでおき、ありがたく頂戴することにした。何度も言うようだが、どれもめちゃめちゃおいしかった。

 階段を上りきったところで、膨れたお腹をさすりつつ改めて考えてみる。
 今日、何かあったかな。
 しかし彼自身、思い当たるところは何も出てこなかった。そうこうするうちに、足は自室前までたどり着く。
 まあいいか、おいしいことには変わりないのだから。そう思い直し、扉を引き開け照明のスイッチを押した。

 「…………ぅえっ!?」

 直後、口から頓狂な叫びが漏れ出た。それに自分で驚き、慌てて室内に引っ込み扉を閉める。

 後ろ手にドアノブを握ったまま、散らかった部屋の床上を改めて見つめる。心臓がどきどきしていて、なんなら口からぼろんとこぼれ落ちそうだった。

 そこには、大瀬にはとても信じられない光景が広がっていた。色とりどり、形も大きさも材質も、さまざまな包装が施されたそれら。床の上に散らばっていた物を適当にどけて、空いたスペースに積み上げられている。

 大瀬はその場で膝からくずおれ、なかば這いつくばるような格好でそのうちの一つに震える手を伸ばした。グレーのシンプルな包装紙で包まれた、固くずっしりとした重みのあるそれ。開けずともわかる、中身はおそらく、本だ。
 包装紙表面の一部に目をやる。『Happy Birthday』のロゴが入ったシールの下には、几帳面なペン字でこう綴られてあった。『大瀬くん お誕生日おめでとうございます。 理解』。

 いつの間に準備されていたのだろう。それらは、プレゼントの山だった。
 六月十四日。大瀬の誕生日。
 大瀬自身、今の今まですっかり忘れていたその日を祝うべく、目の前のプレゼントたちは燦然とした輝きをもって、大瀬の目の前に降臨していた。

 「〜〜〜っファァ……!!」

 大瀬の口から、言葉にならない叫びが漏れた。それはもちろん、心の底からの喜びの声だ。
 同時に、夕食についての疑問も解決する。あの豪華過ぎるメニューの数々は、実は自分の誕生日を祝うためのものだったのだと。パーティーなどと言葉を用いれば自分が拒否するのは目に見えていたため、依央利は何も言わずに用意して食わせることで密かにその目的を達成していたのだ。やられた。

 本当を言えば、今すぐこのプレゼント達を抱きしめ床の上を転げ回りそのまま窓から転落して死にたいくらいに幸せだったが、それを実行するとかえって皆に迷惑がかかると大瀬もこれまでの生活で学んでいるのでぐっとこらえる。
 とにかく、手にしたままだった理解からのプレゼントを頭上に押し戴き、数度深呼吸してどうにか気持ちを落ち着ける。
 そしてようやく息が整ってきた頃、至極慎重かつ恭しい手つきで、プレゼントの包みをおそるおそるほどき始めた。


 それから、どれほどの時間が経っただろうか。プレゼントの一つ一つを、開ける前につくづくと眺め、開けてからも裏表返してじっくりと見分していたため、それなりに経過した頃だと思われる。

 ふと、大瀬は気がついた。プレゼントの個数が、計算とは合わないことに。
 自分がここまでに開封したプレゼントは、五つ。理解からの本にはじまり、テラからの洋服、ふみやからのお菓子、依央利からの手作り絵筆セットと拝見していった。猿川からの鎖鎌だけは、最初から剥き出しで床に転がっていた。柄のところにワンポイントでリボンが結んであるのが可愛らしい。

 住人の皆からと考えると、残るプレゼントは一つ。異様に大きな箱で用意された天彦からのぶんで最後のはずだが、しかしその傍らにもう一つ、白いリボンがかけられた淡いブルーの包みがそっと置かれている。
 これはいったい、誰からのものだろう。不思議に思いつつ、大瀬は先にその小さな包みを手に取った。天彦からのぶんは、なんとなく、あくまでなんとなく、最後に取っておくことにした。

 包みのリボンに、指をかける。しゅる、と小さく滑らかな音を立て、結び目がほどける。丁寧に折られた包装を開け切らぬうち、その中から、一枚の紙片がひらりと大瀬の膝上に落ちた。おや、と思い、大瀬はそれを指でつまみ拾い上げる。

 そこに書かれた文面を読み、大瀬は悲鳴を上げた。

 「〇×▲%□★&※◎!!??」
 「どうしました大瀬さん!?」

 それに驚き、天彦が飛び出した。大瀬が最後に残した箱の中から、とんでもない衣装で。

 「〇×▲%□★&※◎っ!!??」

 同じ悲鳴を上げ、大瀬は飛び上がった。
 そのまま思わず部屋の外へと逃げ出す。
 そこで待ち受けていたのは、残る五人の住人たち。

 「おっ、出てきた」
 「せーのっ」


 「「「「「「大瀬〜〜〜誕生日おめでとお〜〜〜」」」」」」


 「〇×▲%□★&※◎〜〜〜!!???」

 いつかのように取り囲まれ、祝われ。
 混乱の極致に至った大瀬の絶叫が、カリスマハウスの窓から夜空へ向け、高々と響き渡っていった。

 ***

 翌日、カリスマハウスを訪れたなまえはその一部始終を聞き、申し訳ないと思いつつ腹を抱えて笑ってしまった。

 「笑い事じゃありません……」

 唇を尖らせつつ、大瀬は皿に取り分けたケーキをつつく。昨晩の残りだ。
 あの後、実はケーキも焼いてあったと依央利が言うので、ひっくり返った大瀬がようやく意識を取り戻す頃に皆で頂いたのであった。それにしてもやはり量が多かったので、残りはこうして翌日のおやつにまで持ち越された。
 なまえもそのご相伴に預かりつつ、「ごめんごめん」と目尻に浮いた涙を拭い、皿の上にフォークを置いた。

 「でも、皆でお祝いできたみたいでよかったよ。最初は、プレゼントこっそり渡すだけって聞いてたから」
 「自分はそれでも……それだけでも、クソの身には余るくらいで……」

 ぽそぽそと呟き、大瀬はまた一口、フォークでクリームを掬い口へと運ぶ。その耳たぶがほんのりと赤く色づくのに気づき、なまえは微笑んだ。

 「お誕生日おめでとう。……あ。昨日だから、おめでとうございました、かな」
 「……! ぁ、あの……えと……ありがとう、ございます……。……プレゼント! だっ、大事にします」
 「ふふ。ありがとう」

 スポンジケーキのように柔い、ふわふわとした雰囲気が、二人きりのリビングに少しの間漂った。
 
 やがてケーキも食べ終わり、大瀬が淹れた紅茶を飲んで一息ついた頃。
 それまで、じっと何かに思いを巡らせるようだった大瀬が、ふいにきっと目を上げなまえのほうを向いた。

 「……なまえさん」
 「ん? なに?」

 なまえはカップをソーサーに戻し、目線を返す。暖炉前のソファ、ローテーブルの角を挟んで二人の視線が交差する。
 と、そのことに一瞬も耐えられなかった大瀬はすぐに目を伏せた。けれども、そんな彼にしては割合しっかりとした声で話を切り出す。

 「その、自分は……恐れ多くもなまえさんからもプレゼントを頂けて、死ぬほど嬉しかったです」
 「大袈裟だねえ……。でも、そう言ってもらえると私も嬉しいよ」
 「それで……考えたのですが」

 そこで、大瀬はまたちらっと目線を上向けた。上目遣いながらも、どこか真剣みを帯びたその眼差しに、なまえは少しどきっとする。

 「もし、許されるなら……どうかこのクソにも、なまえさんのお誕生日を、お祝いさせてもらえませんか」

 そうしてなされた提案に、なまえは数度まばたきした。


→ ごめん、実はもう過ぎてる……

→ 嬉しい! これからだよ


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