お気に入りの空色に染めたワンピースを着て、スキップをしながら公園へ遊びに行く。今日は何をして遊ぼうか、砂遊び?ジャングルジム?ブランコ?サッカーも楽しいかもしれない!ドッチボールはかっちゃんがボールを爆破させるから駄目だ。
公園につくと、いっちゃんがベンチに座ってブツブツ言いながら何かを書いていた。目の前に来ても全く気づかないなんて、一体何をしているんだろうか。
「それなぁに?いっちゃん」
「わぁ!?美空ちゃん!いつの間に!?」
「さっきだよ!ねぇ、ねぇ!何書いてるの?」
「えっ!?えーっと…これは、その…」
大きく肩を揺らしたいっちゃんは手に持っていたスケッチブックを後ろに隠してしまった。隠されると見たくなるのが人間の性である。いっちゃんの背後に素早く回り込み、スケッチブックを取る。それにあっ、といっちゃんが漏らしたが、私は気にせずにスケッチブックを開く。そこにはオールマイトの絵とその特徴について書かれていた。次のページを捲ると、そこにも別のヒーローが描かれて、特徴と個性の活かした方が書いていた。
「すっ、すごーい!これいっちゃんが書いたの!?」
「う、うん…」
「一人で?」
「うん。僕、無個性だから…」
「すごい!すごい!わぁ!お父さんのことも書いてあるー!」
ページを捲っていく度に気持ちが高揚していくのが分かった。
一人一人のヒーローの個性、必殺技、特徴などを細かく書き、そこから自らの考察を加えたより個性を活かす方法は読みすすめていけばいくほど、胸が熱くなる。私も個性が発現していないが、これを見ていると、こんな風に動いてみたい!と体が自然と動き出す。
「これすごいよ!私もお父さんと同じ個性が出たら、自分を浮かせて攻撃とかしてみたーい!」
「そうなんだよ!美空ちゃんのお父さんの念動力は周りの物を動かして災害救助で役に立ってるけど、応用させれば、攻撃だって出来ると思うんだ!」
「うん!うん!回転しながらだと更に威力上がりそうだよね!」
「そうなんだよ!!」
いっちゃんは前のめりで興奮したようにペラペラと話してくれる。その話を聞いてるだけで、私も興奮しっぱなしだった。
どのくらい話していたのだろうか、途切れることなく話していた私達のところにかっちゃんが来た。興奮しながら話す私達に一瞬たじろぎながらも、すぐに行くぞと先頭きって歩き出した。
「ススメー、バクゴーヒーロージムショのめんめーん」
「めんめーん!」
かっちゃんが近くにあった枝を振り回しながら、軽快に先頭を歩く。それに習い、私達も後ろを足取り軽く歩く。いっちゃんはかっちゃんに少し苦手意識があるらしく、かっちゃんのすぐ後ろを歩こうとしない。普段からかっちゃんにあれだけ脅されていては、怯えるのも納得できる。
かっちゃんももう少し丸くなればいいのになぁと思っていると、前を歩いていたかっちゃんが突然足を止めた。
「どうしたの?」
突然しゃがんだかっちゃんにお腹でも痛くなったんだろうかと近づくと、目の前に虫が飛びかかってきた。それに驚いて、後ろに尻餅をつく。
「ハハハ!ダッセェ!」
虫片手に笑うかっちゃんに、ムッと怒りがこみ上げてくる。私が虫が嫌いなのを知ってるのに、こんな意地悪するなんて!
「かっちゃんのバカ!意地悪!」
「あ、美空ちゃん!」
怒りに任せて来た道を全速力で戻る。木々の根っこに足をとられそうになりながら走っていると、突然目の前に影が現れた。それに気づいたときにはもうそれにぶつかって、私は後ろに転んだ。
「イタタ…ご、ごめんなさい…」
「アンタ…青蓮院美空だね」
見上げると白髪のお婆さんがこちらを見下ろしていた。私はお婆さんが誰だとか、なんで私の名前を知っているのとか、疑問が頭を巡りっていたが、自然と頷いていた。
「個性は出てたのかい?」
「まだ…です」
「そうかい。まだ出てないのかい」
「あ、あの、おばあちゃんは、誰ですか?」
表情の全く動かないおばあちゃんは怒っているのか、呆れているのか、全く分からなかった。得も言われぬ恐怖になんとか絞り出した言葉におばあちゃんは初めて視線を一度逸し、重たい口を上げた。
「動くんじゃないよ」
「え?」
「どけぇ!」
おばあちゃんの言葉が聞き終わるか終わらないかくらいのタイミングで、かっちゃんが上から降ってきた。個性を大爆発させながら。私はあまりに突然のことに言葉を無くしていると、呆然とする私を一瞥するとおばあちゃんを睨みつける。
「テメェ、誰だ!」
「随分と派手な個性だね」
「アァ?そんなこと知っとるわ!それよりテメェは誰か聞いてんだ!」
「いずれ分かるさ。…美空」
「は、はい!」
おばあちゃんはゆっくりと踵を返しながら、狂犬のように吠えるかっちゃんから私に視線をやる。
「そのワンピースは誰に買ってもらったんだい」
「お母さん、です…」
「…そうかい」
そう言い残し、おばあちゃんは森の奥へと歩き出した。それに待てやァ!と追いかけようとするかっちゃんを必死で止めた。
「かっちゃん!危ないよ!」
「アァ?危なくねぇわ!むしろテメェは何してんだ!知らねぇ奴に付いていくなって言われてんだろうが!」
「だってかっちゃんが虫を…!」
「うるせぇ!言い訳するな!」
「ごめんなさい!」
いつも怒っているかっちゃんだが、
今日の怒り方はまた少し違っていた。知らない奴に呼ばれても返事するな、とかすぐ逃げろとか、ガミガミ怒鳴ってくる。それが心配で怒ってくれているんだと分かっているからこそ、黙って聞くしかない。
「聞いてんのか!?」
「ごめん、かっちゃん」
「…さっさと立てや」
「うん!ありが、」
「美空ちゃん!かっちゃん!置いて行かないでよ!!」
ぶっきらぼうに差し出された手を掴もうとした時、茂みからいっちゃんが飛び出してきた。涙で顔がグチャグチャのいっちゃんは私達を見ると、大粒の涙を流し始めた。
「ご、ごめんね!いっちゃん!」
「ぶ、ぶだりとも、い、居なくなっでぇぇ!」
「いっちゃん、落ち着いて!!大丈夫、二人とも居るよ?一緒に帰ろう?」
「うん」
大泣きをするいっちゃんの手を引きながら、出口へと歩き出す。それを呆然と見ていたかっちゃんは、大爆発を起こしながら、クソデク!!と怒鳴り散らしていた。
それから数日後、あのおばあちゃんと再会することになった。