母の婚約者の後、娘の元婚約者

ディーノの誕生日の翌日、黒髪に黒目、濃い眉、堀の深い顔立ち、まさにラテン系の男がアリーチェの実家に現れた。
花束を持ってきた彼は、玄関先で恭しく自己紹介する。

「初めまして、アリーチェさん。フランコ・キエッリーニと申します。」

レストラン経営で身に付いたものなのか、彼はイケメンではないが1つ1つの所作が美しかった。
アリーチェは母が魅力的に思う理由を理解した。

「ああ、私のルチア。今日もあなたは美しいですね。あなたの娘を慈しむその視線は聖母マリアのように慈愛に満ちている。」

典型的な南イタリア男の台詞にアリーチェは少しだけ苦笑いする。

「(この人、北部出身じゃなかったっけ?いや、こちらの文化に合わせているのかも?)」

そんなことをアリーチェは考え、それ以上は追及しなかったが、妙に新鮮な気分だった。
なぜなら彼女の父は寡黙ながら妻と娘を愛する人で、あまりそう言った台詞を口にする人ではなかったからだ。
母の選んだ男性と父とのギャップがあり過ぎて少しだけ可笑しく感じてしまった。

「ありがとう。あなたも今日も素敵だわ。」

母は彼の頬にキスをする。
幸せそうな彼女の様子にアリーチェは笑みを溢した。

「初めまして、お義父さん。アリーチェ・カンメッロです。母がお世話になっています。」

遅ればせながらアリーチェは自己紹介をする。
呼び方は少しだけ父と分けることにした。
フランコは感激した様子で、両手で開いた口を塞ぐ。

「ルチア聞いたかい?お義父さんって…!!アリーチェさんがお義父さんって呼んでくれた…!!」

期待した通りの反応にアリーチェは破顔する。

「アリーチェで良いですよ。あなたの家族になるんですから。」
「ありがとう!ああ、神よ…!!なんて今日は素晴らしい日なんだ…!!」

天に向かって喜びを表現する新しい義父にアリーチェは失笑した。
彼の所作は大袈裟に見えるが、実際南部の男性ならこんなものだ。
むしろアリーチェの身近な男性が自己表現下手なのである。

こうしてアリーチェと母と母の新しいパートナーは3人仲良く楽しいランチタイムを過ごしたのだった。

× × × × × × × × × × ×

新しい父とのランチを行った翌日、アリーチェはキャバッローネの屋敷の客間に来ていた。
アリーチェはエスプレッソが出され、ディーノと2人きりになると早速母の再婚の話を持ち出した。

「おばさんが……!?」
「うん、入籍は4月の予定。式は挙げない予定よ。」
「いや………ちょっと待ってくれ。」

ディーノは眉間を抑えて頭を横に振った。
物心つく前に母を亡くしたディーノにとって、言語教育を担当してくれたアリーチェの母は実の母のような存在だった。
そんな人の急な再婚にディーノはショックを隠せなかった。
アリーチェはそんなディーノの気持ちを汲み取って、安心させるように笑う。

「お金持ちではないけれど、お母様にストレートに愛を伝える素敵なおじさまだったよ。私はお母様に幸せになってもらいたいから、この結婚に賛成なの。お父様もきっと許してくださると思うし。ずっとお嬢様で苦労知らずだったお母様が普通の庶民の暮らしをして、四苦八苦している姿は見たくなかったと思うの。」
「そう…か………そうだよな。元はと言えばオレが招いたことだし。」

ディーノは目的語を口にしなかったが、それはアリーチェの父の死のことだろう。

「それでね、お母様はお義父さんの家に引っ越すから今の家はお母様が引っ越し次第、キャバッローネに返したくて。」
「ああ、そうだよな。わかった、それは手続きしておく。」
「あともう私達に護衛や金銭的な支援はいらないよ。」
「は…?」

ディーノはポカンと口を開けた。
イケメンが台無しになるほど間抜けな表情だ。

「今まで私達がマフィアに狙われてきたのは、キャバッローネのお金の流れを辿って私達に行き着いて、経歴を調べられて私達がキャバッローネのウィークポイントだと判断されてきたんだと思う。けれどお金の繋がりや護衛がなくなればもう私達も一般市民とそう変わらないでしょう?幹部の家族だった事実は残るから、全く危険がなくなる訳じゃないけれど、それでももう街のみんなとリスクはそう変わらないと思うの。」
「それは……そうだけどよ……」
「あのね、ディーノ、あなたには感謝してもしきれない。でも私達母娘(おやこ)があなたに返せるものはそんなにないんだよ。」
「オレは見返りを求めてる訳じゃ…!!むしろオレが償う立場で…!!」
「私達はお父様のことをもう乗り越えてる。償いなんて最初から求めていなかった。お母様は私に不自由させたくなくてキャバッローネの力を借りただけだし、私もお母様の負担になりたくなくてディーノの好意に甘えてたの。でも私達は抱えてた問題を解決した。だからもう肩の荷を降ろしていいんだよ。」
「アリーチェッ…」
「それに私は……あなたが1番私に求めてるものをあげられない。」
「…ッ!」

ディーノは息を呑んで、苦しそうに顔を歪めた。

「だからもう私達のことを街の住民(みんな)と同じように扱って欲しい。」
「アリーチェ…………………………………………」

ディーノはそれ以上言葉が出なくなった。
アリーチェもそれ以上は何も言わなかった。
ディーノを追い詰めることが目的ではなく、キャバッローネに依存した生活から脱却して母の安全を確保することが目的なのだから。

「アリーチェ……………オレも、話があるんだ。それを聞いても考えが変わらないのなら、アリーチェのしたいようにする。」
「うん、いいよ。」

ディーノが語ったのは彼が見た10年後の未来の悪夢だった。
要約するとこうだ。

ディーノは10月末の世界中で地震のあった日、夢を見た。
それは10年後の未来の夢で、そこでは白蘭率いるミルフィオーレファミリーがトゥリニセッテを手にすべく、ボンゴレ狩りを行っていた。
彼曰く、アリーチェはそのボンゴレ狩りに巻き込まれて亡くなったそう。
ディーノは悲しむ暇もなく過去から来たボンゴレ10代目ファミリーと合流し、ミルフィオーレと交戦した。
結果的に過去から来た沢田綱吉が白蘭に勝利した。
虹の赤ん坊(アルコバレーノ)の奥義によって白蘭の能力は封印されたため、白蘭が世界制服する恐ろしい未来は来なくなった。

「……めでたし、めでたし?」
「確かにハッピーエンドだけどよ、10年後のオレはアリーチェを守れなかった。」
「ボンゴレが敵わない相手ならどうしようもないんじゃない?」
「オレはそうは思わねぇ。オレの力不足だ。資金援助が嫌ならそれは辞める。だが、護衛だけは付けさせてくれねぇか?」
「……………」

アリーチェは目を瞑って考え込む。

「(護衛をつけてもらえば確かに日頃の安全性は高まる………でも、キャバッローネのウィークポイントとして狙われる可能性は高まる。これだと今と変わらない。ディーノは………私にまだ未練がありそうだ。10年後の件で余計に。ディーノの罪悪感を考慮して好意に甘え続けた結果、私の存在がディーノを縛り続けているのなら……)」

アリーチェは目を開けた。

「結論は変わらない。ディーノに甘える生活はもうやめる。」
「アリーチェ…!どうしてもダメか?」
「ダメ。」
「なんでだよ?」
「理由はさっき話した通り。」
「アリーチェ、頼むから…!」
「それでもダメ。もうあなたの愛にも罪悪感にも甘えるつもりはない。」
「…ッ!!」

ディーノは俯き、ギュッと目を瞑り、両手の指を組んだ手に力を入れた。

「………………………………………………わかったよ、アリーチェ。」
「私の我儘を聞いてくれてありがとう。」

好意を無碍にしてごめんね、という言葉は飲み込んだ。
感謝は伝えども、キッパリと関係を切るために。

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