親友の誕生日

ディーノの誕生日から1ヶ月が過ぎ、日本は春休みシーズンのため観光客が増え、アリーチェは仕事で忙しく過ごしていた。
スクアーロの誕生日の日、午前中に観光案内を終えた後、レストランに合わせた服に着替えて、スクアーロと待ち合わせた場所へと向かった。

「あ、スクアーロ君!」

待ち合わせした時間ピッタリに到着したスクアーロにアリーチェは軽く手を振る。

「先に着いてたのかぁ。」
「ちょうど今着いたところだよ。」

イタリアでは待ち合わせの時間ピッタリに到着する人は少ない。
どちらかと言えば非常識の部類に入るだろう。
前世が日本人のアリーチェはその文化が少しだけ苦手だ。
他所の家のディナーに招待された時などは、相手の準備の時間を考え遅く行くということに慣れたが、こういった待ち合わせはつい5分前行動をしそうになる。
だいたい早めに車に乗り込んでしまい、少しだけノロノロ運転して時間ピッタリに着くということが多々あった。
まさに今日はそういう日だった。

「まさか時間ピッタリに来るとは思わなかったぜぇ。」
「それはこっちの台詞。」
「オレは任務のせいで時間には正確なんだぁ。」
「あ、なるほど。私も仕事柄日本人を相手にしてるからねぇ。彼らは5分前行動とか10分前行動が基本だからつい早めに家を出ちゃったりするの。」
「なるほどなぁ。お互い仕事のせいか。」

スクアーロは口端を吊り上げる。

「全然違う仕事してるのにね。」

アリーチェはクスクスと笑った。

「あ、スクアーロ君。誕生日おめでとう。」
「ああ。」

早速2人はレストランに入った。
ウェイターに個室に案内され、2人は席に着いた。
早速食前酒が運ばれてきて乾杯し、前菜を2人は待ちながら他愛もない話をする。

「スクアーロ君の口に合うと良いんだけど…」
「アリーチェにはオレが金持ちの坊ちゃんか何かに見えてんのかぁ?」

アリーチェは首を横に振る。

「そうじゃないけれど、私よりは舌肥えてそう。」
「確かにボスさんが高級なものばっか好むから本部での食い物は高級だが、単独で任務に行く時とかは碌なもの食ってねぇぜ?」
「そうなの?ヴァリアーともなれば任務の時のご飯も良いもの食べそうな気がするけど…」
「ボスさんがいる時だけだぁ。つか、テメーがこの前の店で高いって思ったことの方が意外だったぜぇ。高校時代はつまんでたチーズ1つとっても高級なものだったじゃねぇか。」
「そりゃあ、お父様が生きてた頃はそこそこ裕福だったからね。でもお金がカツカツになってから思ったけど、普通に安物のチーズも美味しいよ。私貧乏舌なのかも。」
「単に食い意地が張ってるだけじゃねぇか?」
「えー、そんなことはない………はず。」
「自分でも不安になってるじゃねぇか。」

スクアーロはニヤニヤしながら突っ込んだ。
そんなタイミングでウェイターが入ってきて、前菜をテーブルに並べる。

「お待たせしました。こちらマグロのカルパッチョでございます。」

ウェイターはどこで採れたマグロなのかや、タレの拘りなどを説明した後速やかに退出した。
スクアーロがマグロを口に運ぶのをアリーチェはドギマギしながら見守っていた。

「………美味しい?」
「ああ、好みの味だぁ。」
「良かったぁ。」

アリーチェは胸を撫で下ろす。
そして自身もマグロを口に運ぶ。

「! 美味しい…!」

アリーチェは思わず顔を綻ばす。
それを見てスクアーロはフッと笑った。

「テメーの方がマグロ好きなんじゃねーかぁ?」
「ん?」

アリーチェは首を傾げつつ、口の中の物を飲み込んだ。

「そうかな?確かに海産物は大好きだけど。」
「それかやっぱり食い意地張ってんじゃねぇか?」
「うーん…………そんな気もするような……認めたくないような………」
「そんなこと言ってる時点で認めてんじゃねーか」
「いやぁ、それほどでも〜」
「褒めてねぇ」

ツッコミが入ってアリーチェは可笑しくて笑う。

「あははは、まあ実際美味しいものを食べるのは大好きでね。」
「まあ、食わねぇ奴よりかはマシだ。」
「でしょ?」

2人は会話を続けながらマグロのカルパッチョをどんどん食べる。
その後メインディッシュに集中し、無言の時間が続いた。

「そういえばスクアーロ君、ディーノから聞いたんだけど10年後の経験を引き継いでるって本当?」
「なっ…!う゛お゛ぉい!話題が突拍子もなさすぎねぇかぁ!?」

スクアーロは動揺しながら突っ込む。

「ごめんごめん、でも気になっちゃって。10年後の経験があるなら私と会わなくなったから20年近い経験を詰んだってことになるだろうから、スクアーロ君の剣がどう変化したのか気になっちゃって。」
「テメーがオレに興味を持つ時はいつもそれだな。」
「スクアーロ君の剣のファンなので。」
「まあオレの剣技に惚れちまうのは仕方がねーよなぁ。」

謙遜しない辺りはスクアーロらしいが、高校時代のような照れた反応がないことはアリーチェにとって少しだけ残念だった。

「今度見せてよ、スクアーロ君の今の剣術。」
「見せ物じゃねぇが………まあ、アリーチェなら問題ないか。」
「私なら?あ、ヴァリアー的にダメなら全然大丈夫だよ。」
「テメーみたいな素人が悪用することはねぇ…つーかできねぇだろうから問題ない。」
「確かに細かい技術の凄さは私にはわからないね。仮に拷問されてスクアーロ君の剣の弱点は?って聞かれても何も答えようがない。」
「そういうことだぁ。また都合が合う時に見せてやる。」
「ありがとう。」
「つか跳ね馬が10年後のテメーに話そうと思った意図がわからねぇぞぉ…。さすがに信じてもらえねぇと思ってこの前話さなかったのによぉ…。」
「ああ、それはね…」

アリーチェは先月キャバッローネからの支援を全面的にやめてもらうよう申し入れ、ディーノに反対されたことを話した。

「なるほどなぁ、そういうことかぁ。」

スクアーロはそう言ってしばし黙り、考え込む素振りを見せた。

「正直アリーチェが跳ね馬から距離を取る限り、中途半端な庇護はリスクが増すだけだろうなぁ。」
「スクアーロ君もそう思う?」
「だが跳ね馬の言ってることも一理あるぞぉ。テメーは本当にキャバッローネに守ってもらわなくて良いのか?」
「うん。お母様のこと、私のこと、ディーノのこと………総合的に考えてこれがベストだと思うの。」
「…………10年後の件と今日の話を聞いて感じた所感だが……テメーら拗れてねぇか?」

アリーチェは一瞬固まった。
そして困ったように眉を垂れ下げて少しだけ引き攣った笑みを見せる。

「やっぱり、そうかな…?」
「跳ね馬はアリーチェを異性として好きなんだろぉ?で、お前は家族として跳ね馬が好きで、異性としては見れない。お互い完全には関係を切れねぇし、切りたくない一方で、アリーチェは跳ね馬の好意が迷惑でさっさと諦めて欲しい。跳ね馬もアリーチェを自分の女にしたいと思いながらも安全を優先してる。どう考えても拗れてるだろぉ。」

他人から聞かされると改めてアリーチェもディーノとの関係が拗れていると感じた。
物理的な距離さえとってれば問題ないのではと考えていた頃の自分を叱りつけてやりたいくらいには。
しかしスクアーロに対する驚きもある。

「いや、凄いはっきり言うね!?ていうかよく私の感情もディーノの感情もわかるね!?」
「2人共表に出し過ぎなだけだぁ。数年ぶりに会ったオレでさえわかるレベルでなぁ。」
「そう!?さすがにスクアーロ君が鋭過ぎるんじゃない?」
「テメーらがわかりやす過ぎるだけだ。そんな関係を続けるぐらいならさっさと切っちまった方が良いんじゃねぇか?」

スクアーロにしては凄く踏み込んでくるなとアリーチェは思った。
彼はこれまでアリーチェの内面に全然踏み込んで来なかった。
お互い違う価値観で違う生き方をしていることを前提に、距離を取っていた。
彼の珍しい行動にアリーチェは内心驚いていた。

「そりゃあ、私も何度も考えたけれど………」
「………いや、アリーチェの人生のことなのに踏み込み過ぎたことを言った。今のは忘れろぉ。」
「ああ、それは私も思った、スクアーロ君がここまで踏み込んでくるなんて珍しいなって。でも嫌じゃないよ?人から言われて気付くこともあるし。」
「だったらついでに1つ踏み込んだことを聞くが、テメーらそもそもどういう関係だったんだ?本当にただの幼馴染だったかぁ?」

スクアーロがそう質問するということは、回答はわかっているのだろう。
アリーチェはそう確信して、答えを告げる。

「元婚約者。親が決めたの。ディーノが10代目を継ぐ時にディーノから婚約破棄してきたけど。」
「はぁ?その関係性は察しがついてたが、跳ね馬は何考えてんだぁ?」
「私とお母様をマフィアの世界に巻き込みたくないっていうのは紛れもない本心なのよ。それにお互いに父親を亡くした直後だし、ディーノは2人の死に凄く負い目を感じていた。そんな状況だったから、半ば勢いで決めたんだと思う。」
「そういうもんなのかぁ?オレには理解できねーな。渇望していて、将来的に手に入るものをみすみす手放すなんざ。」
「スクアーロ君にはそれだけの力があるからね。当時のディーノにそんな力はなかったから。」
「つーことは、力をつけたからこそ欲が出たってことか。」
「そうかもね。」

アリーチェは頷く。
こんなタイミングでデザートが届いた。
2人はデザートを食べながら、会話を続けた。

「そうだ、1個ちゃんと訂正しておくと、私ディーノの好意を迷惑とは思ってないからね。ディーノの好意に触れる度に申し訳ないと思うことに疲れただけ。」
「迷惑とそう変わらねぇだろうがぁ。つーか、不思議っちゃ不思議だな。跳ね馬程の男に一途に思われて心を傾けねぇってのも。普通の女ならとっくに絆されてんじゃねーか?」
「かもね。でも私、どうも依存気質な男性が苦手みたいで。これまで付き合った男性とも最終的にはそれで別れてるのよね。」
「依存気質?」
「うん、依存気質。ディーノは立派なキャバッローネのボスだけど、私に対してだけは依存的というか………もともとそういう感じはあったけれど、婚約破棄して距離を置いてからより酷くなったかも。」

スクアーロは少し考え込んだ。
そして心当たりがある出来事を思い出した。

「……10年後の跳ね馬はキャバッローネはオレの代で終わりでいいみたいな発言をしていたな。アリーチェ以外の女を娶る気がねぇととれるようなやつを。アリーチェが死んでから沢田達が過去から来たことがわかるまで、キャバッローネの動きは後手に回ってやがったし。」
「そう、そういうとこ。婚約破棄してから8年ぐらい経っているのに、試しに他の女性と付き合ってみようとかって発想にならずに、私しか見ていないところとか。」
「アリーチェにとっては重いだろぉ、それ。」
「うん、言葉を選ばずに言うと重い。」

スクアーロに言われてアリーチェは気付いた。
以前キャバッローネと距離を取りたかったのは自分の身の安全のためだった。
しかし今はどうだろう?
本当はディーノと距離を取りたいのでは?

「最近思うの。私の存在がディーノの人生を歪めてるんじゃないかって。」

アリーチェの知る画面の中のディーノは、ツナの頼れる兄貴分でリボーンには少し甘えたがる節があるのものの、リボーンが亡くなった後の未来でも立派にキャバッローネのボスをしていた。
だが、アリーチェの知るディーノはアリーチェが死んだら身動きが取れなくなるような、そんな危うさがある。
自分の存在がディーノをマイナスの方向に持って行ったのでは……そんな風に思わずにはいられないのだ。

「さあなぁ。ま、あれだ、オレのおすすめとしてはアリーチェがさっさと男作って結婚しちまうことだ。さすがに人妻になれば跳ね馬も諦めがつくだろぉ。」
「それが既に3人上手くいってないんだって……」
「全員依存気質だったのかぁ?」
「そうなの。付き合う前はそんなことないだろうと思ってても蓋を開けてみれば、ギャンブル依存だったりメンヘラだったり………特に前回付き合った人はヤバかった……」

アリーチェは遠い目をしながら思い出して、ため息をついた。

「お前、男見る目ねーなぁ。」
「う゛……心当たりしかない……友達に付けられたあだ名がダメ男吸引機だもん。」
「ぶはっ…!もっといい男を選んだらどうだぁ?」
「そりゃ、そうしたいけど、正直もういい男がどんな人かわかんないよ……」

アリーチェが聞くとスクアーロは少し考え込んで、

「………オレ、とかか?」

と真顔で言ってのけた。

「……プッ……ぁ…あははは!確かにスクアーロ君はいい男だけど…!私の結婚相手としてのいい男からは外れてるでしょ…!!」

これが盛大なフラグだとは知らないアリーチェは笑いを堪えずにはいられなかった。
もちろん、スクアーロも知らないが。

「そんなに笑うことかぁ?」
「だってそんな気ないのに大真面目に言ってるから…!」

アリーチェは腹を抱えて笑い出した。
彼女は出会ってから1度もスクアーロから異性としての好意を感じたことなどない。
そんな彼が結婚相手の理想像を議論する場面で立候補してくるのだから、可笑しくて可笑しくて腹が捩れそうだった。

「ぷふふふ…気を悪くしないでね?さっきも言ったけどスクアーロ君がいい男ってことに異論はないよ?」
「当たり前だぁ。一般人(カタギ)じゃねぇって言いたいんだろ?」

アリーチェは目尻に滲む涙を拭いながら頷いた。

「出会いをさっさと探すんだな、数打ちゃ当たるだろぉ。」
「ぶっ…!」

アリーチェはまた吹き出してしまった。

「そんな競馬みたいなノリで…!あははは!そんな発想なかった…!」
「そんなに面白いことかぁ?」
「少なくとも私にとっては。」

アリーチェは涙を拭いながら答えた。

「お前が楽しそうで何よりだ。」
「あっ、ごめん、スクアーロ君の誕生日なのに。あ、そうだ、プレゼントあるの。」

アリーチェはカバンから小包みを取り出す。

「はい、これ。」

スクアーロは小包みを受け取り、早速開ける。
中に入っていたのは水色のネクタイだった。

「本当は剣に関係あるものにしたかったんだけど、スクアーロ君が今どんな素材の剣を使っているかとかわからなかったから。」
「ああ、確かにそうだよなぁ。ありがとな、持ってるスーツに合いそうだぁ。」
「それなら良かった。」
「アリーチェの誕生日はいつなんだぁ?」
「10月22日だよ。」
「10月22日……なんかあったような……あ、いや、なんでもねぇ。その辺りでオレも何かテメーに贈ろう。」

10月22日はスクアーロが山本に負けた日だった。
が、アリーチェはそんなことはいざ知らず。
スクアーロはその日を戒めの日とするつもりだったが、アリーチェを祝う日とすることにしたのだった。

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