平和は突然崩れるもの

アリーチェは日本のゴールデンウィークが明けたある日、スクアーロの剣技を見せてもらうべく会う約束をしていた。
ヴァリアーが持っている修練用の敷地にて剣を見せてくれるらしく、そこへはスクアーロの車で行くとのことで、アリーチェは電車とバスを使って集合場所まで来ていた。
集合場所はとある広めの公園だった。
恐らくバスが近くに停まり、かつ駐車場があるのでそこが選ばれたのだろう。
アリーチェがバス停近くのベンチで待っていると、スーツ姿の3人の男が現れた。
アリーチェは目もくれていなかったが、周囲に人がおらず彼らの視線が自分に注がれていることに気付き、気付いていない振りをしながら警戒した。
そして男達はアリーチェに近づいてくる。
アリーチェは咄嗟にベンチを立ち上がり、バス停側へ戻ろうとした。
その瞬間、彼らは一瞬でアリーチェを囲った。

「アリーチェ・カンメッロ。我々に着いてきてもらおうか。」

やはり、マフィア絡みのトラブルだとアリーチェは思った。

「誰の差し金?」
「すぐにわかる。怪我をさせないよう丁重に扱うように言われている。お前は黙ってついてくれば身の安全は保証する。」
「誰が何の用件で私を呼ぶのか、はっきりさせない限りはついて行かない。」
「お前に選択肢はない。」
「なぜ?あなた達から逃げられないとでも?」
「母親を置いて逃げられる訳がない。」

そう言われてアリーチェは目を見開いた後、すぐに顔を歪ませて男達を睨みつけた。

「母に何をしたの!?」

怒鳴りつけるとリーダー格の男が笑う。

「別にオレ達のボスが身柄を抑えているだけさ。」
「証拠は?」

アリーチェが問い詰めると、男はアリーチェに携帯で捕えられた母と義父の写真を見せた。

「写真は合成できるじゃない。」
「ならお前から母親に電話してみろよ。」
「………」

アリーチェは男達を睨みつつ、携帯で母に電話した。

『………やあ、アリーチェ。久しぶりだな。』
「誰?」

電話に出たのが母でないことに、アリーチェは背筋を凍らせつつも極めて冷静に尋ねた。

『オレの声がわからないのは電話するのは初めてだからか?いや……オレを記憶に留めてねぇからか?』
「答える気がないならいい。母は?」
『いるぜ、ここに。ほら、おばさん、アリーチェに声を聞かせてやってくださいよ。』
『……………………………………………………。』
『まあ、母親ならば自分の身の安全より娘の命ですよね?おい、やれ。』

軽薄な口調で喋っていた電話口の相手は、突如ドスの効いた声で指示を出す。
次の瞬間、電話からけたたましい銃声が響いた。

『うあ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁっ!!』
『キャアアアアアッッッ!!』
「お母様!!お義父さん!!」

母と義父の悲鳴を聞き、アリーチェは思わず叫ぶ。

『ああ、安心してくれよ。お前の大事なお母様は怪我してねぇから。けど、再婚相手の方はわからないぜ?』
「…っ!私を呼び出して何がしたいの!?目的はディーノ!?」
『オレの目的はお前だよ、アリーチェ。』
「訳がわからない。」
子供(ガキ)の頃からお前を見ていた…と言えばわかるか?』
「いいえ、全く。」

そう答えつつも、アリーチェは相手が地元で小学校か中学校が同じだった人間ではないかと予測する。

『悲しいな。まあ、いい。オレはお前をオレの女にしたいんだ。』
「趣味悪いんじゃない?」
『かもな。だが惚れちまったもんはしょうがねぇだろ?それにキャバッローネを乗っ取るのにも好都合だからな。』

乗っ取るという言葉から、アリーチェの中で相手がキャバッローネ内部の人間である可能性が濃厚になっていく。

「キャバッローネを…?ディーノがそれを許すとでも?」
『ディーノなら今頃飛行機の中だぜ?いつものリボーンからの呼び出しだ。上海で乗り換えるっつってたから、連絡がつくのは早くて10時間後だろうな?そこから戻ってくるのにもまた半日はかかる。1日もあれば乗っ取れるさ、それだけの下準備はしてきた。』

アリーチェは内部犯だと確信した。

「…………そんな簡単にはいかないと思うけれど。」

しかし、アリーチェは思う。
スクアーロと会う約束をしており、いつ彼が現れても可笑しくないタイミングで事を起こすあたり、詰めが甘いと。

『できるさ。お前はただオレのもとに来ればいい。』
「断ったら?」
『まず、お前の新しい父親を痛ぶってから殺す。すぐには殺さないさ。できればお前の心も手に入れたいからな。』
「キャバッローネを乗っ取ろうってのに、随分とロマンチストなのね。」

アリーチェは皮肉をたっぷりと込めて言う。

『17年分の片思いを甘く見るなよ?』

アリーチェは溜め息をついた。
やはり自分はダメ男吸引機らしい。
しかし運はあるようだ。

「わかった。大人しく捕まるから、くれぐれも2人にはこれ以上の手出しはしないで。お義父さんには手当をして。私の心が欲しいならそれぐらいはやってもらえるでしょう?」
『ああ、いいだろう。』
「じゃあ切るから。」

そう言って相手の返事を待たずにアリーチェは電話を切った。
そして携帯を仕舞う瞬間カバンの中で即時に麻酔銃に持ち替え、3人の男が銃を構える前に3連射した。
見事に銃弾は3人を捉え、男達は言葉を発する間もなく意識を失った。

「普通に私の足の骨をへし折って拉致すればいいのに。」

アリーチェはそう呟いた後、公園の森の方を見る。

「いるんでしょう?スクアーロ君。それに………ヴァリアーの人達も?」
「……気付いてたかぁ。」

スクアーロは姿を現した。
その後ろにはモヒカンの男性(仮)、長身黒髪で背中に傘を何本も身につけている男性、金髪の前髪で顔を隠しティアラを付けた男性、それに黒ずくめの赤ん坊が現れた。
アリーチェは前世の記憶と先日スクアーロから聞いた話から、彼らがヴァリアーの幹部、ルッスーリア、レヴィ、ベルフェゴール、マーモンだとわかった。
会う予定のなかった面々だが、今の状況を考えればラッキーかもしれないとアリーチェは思った。

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