両親への紹介

アリーチェは病院に着き、子供の頃から付き合いのあるかかりつけ医に事情を話して義父の容体を診てもらった。
母の言う通り処置に問題はなく、脱出の時に無理に体を動かしたことで傷口が開くなどの悪化も特になかった。
義父をそのまま病院の仮眠室のベッドでしばらく休ませてもらうことにした。
アリーチェの母は義父についている内に疲れて眠ってしまったようだ。
アリーチェは気を張っていて疲れているのに休むことができなかった。
スクアーロは職業柄の慣れなのか、ピンピンしていた。

街がとっくに静かになっている深夜、ディーノがトランジットするであろうタイミング。
アリーチェは小さな病院の外でディーノに連絡を入れた。

『アリーチェ?珍しいな、アリーチェから連絡をくれるなんて。』
「ディーノ、イタリアにいる部下から連絡は?」
『え?特にないが…』
「ミルコとアルマンドさんが裏切った。」
『なんだと!?アリーチェ、冗談じゃないよな!?』
「冗談で言える訳がないじゃない。すぐにイタリアに戻って。」
『アリーチェ、お前は無事なんだな?』
「私とお母様は無事。でもお義父さんが脚を負傷した。」
『そうか……アリーチェ、お前は今どこにいるんだ?』
「今はヴァンニおじさんの病院にいる。それよりもうちの別荘だった屋敷で内紛が起きてる。イタリアに戻ったらそこに向かって。」
『お前と出会った別荘だな?わかった、着いたらすぐに向かう。何かあったらすぐ連絡してくれ。』
「うん」

飛行機に乗っている間は連絡つかないのでは?という野暮なツッコミはしなかった。
アリーチェが電話を切ると、後ろに服を着替えたスクアーロがいた。

「テメーの母親が起きた。そろそろ事情を話した方が良いんじゃねーかぁ?」
「うん、そうだね。それなんだけど、口裏合わせてもらっていい?」

スクアーロは少しだけ眉間に皺を寄せた。

「私がスクアーロ君を好きでアタックした結果、付き合うのをすっ飛ばして結婚したって話にしてもいい?」
「別に構わねぇが……なんでそんな話に捻じ曲げる必要がある?」
「お母様は心から私の幸せを願っているから、お母様のために偽造結婚したなんて知ったら倒れてしまうかも。だから、私が好きな人を手に入れたってシナリオにしたいの。」
「テメーは本当母親を大事にするな。」
「別にマザコンって言ってもらっても構わないよ。」
「本当のマザコンは母親にこんなことで嘘はつかねぇ。」
「そうなのかな?」
「そうだろぉ」

スクアーロはアリーチェの頭を撫でた。

「スクアーロ君」
「なんだぁ?」
「本当にありがとう。この恩をどう返したら良いかわからないけれど、必ず返すから。」
「夫婦なのにかぁ?」
「普通の夫婦じゃないからね。こういうのはキッチリしないと。」
「……アリーチェがそうしたいならそうしろぉ。」

そう言ってスクアーロはアリーチェの手を取った。

「そろそろ紹介しろぉ。こういうのはさっさと済ませるに限る。」
「そうだね。」

2人は手を繋いだまま病院に戻り、母と義父が眠る部屋へと向かった。
部屋に入ると、母だけでなく義父も目を覚ましていた。

「お義父さん、体調はいかがですか?」
「アリーチェ?脚は痛むけど、大丈夫だよ。それよりその人は……」
「お母様、お義父さん、こんな時にあれですけど正式にご紹介しますね。私の夫になったS(スペルビ)・スクアーロ君です。」
「「夫…?」」

母と義父の声が見事にシンクロした。
呆けた表情までシンクロしている。
アリーチェはそんな2人を見て思わず笑い声を漏らした。

「ふふ……驚いちゃいますよね。私もスクアーロ君がOKしてくれるなんて思っていなかったものですから。」
「アリーチェ、順を追って話をして欲しいのだけれど、彼はそもそもヴァリアーよね?ゆりかごの件で名前を聞いたわ。」
「はい、そうです。」
「私はてっきりあなたがマフィアと結婚したくないとばかり思っていたのだけれど………」

母は次の言葉を続けるのを少しだけ躊躇った。
その様子からアリーチェは次に何を言われるのか察した。

「スクアーロ君の前でこんなこと聞くのは良くないかもしれないけれど、どうしてディーノ君はダメでスクアーロ君でなければいけないの?」
「なぜなら、私がスクアーロ君を愛しているからです。」

アリーチェはスクアーロから一度手を離し、彼に抱き付いて彼の二の腕にスリ…と頬を寄せた。
スクアーロは少し戸惑いつつも、ぎこちない動きでアリーチェの頭をひと撫でした。
それはアリーチェの母には思い合っているが接し方のわからない初心なカップルに見えた。

「そう……アリーチェが幸せならそれで良いんだけれど……」
「ス、スクアーロ君はアリーチェをどう思っているんだ?」

義父が尋ねる。

「オレは………」

スクアーロは言葉に詰まった。
変に薄っぺらい愛の言葉を並べるより友人としての好意を素直に伝えた方が良いと判断した彼は、その通りに伝えた。

「オレはこの9年…いや、そろそろ10年か?アリーチェを友達(ダチ)だと思ってきた。殺し屋やっている以上、誰かと結婚する気もなかった。けどよぉ、いざ結婚するかどうか迫られたら、アリーチェとならしてもいいかって気になったんだぁ。アリーチェ以外の女ならこうはならなかった。それがこの選択の全てだと思ってる。」

スクアーロの台詞にアリーチェはドキドキした。

「(演技だってわかってるのに、勘違いしてしまいそう…!)」

自然とスクアーロを抱き締める力が強くなった。

「そう………スクアーロ君もスクアーロ君なりにアリーチェを想ってくれているのね。」
「ルチア………本当に良いのかい?」
「良いも何もこの子は普段は寛容で柔軟で何でも受け入れてくれるけれど、こうと決めたら梃子でも動かないほど頑固なのよ。今はそういう時の目をしているわ。」

母は少しだけ困ったように眉を垂れ下げて笑った。

「アリーチェ、スクアーロ君との結婚が自分の幸せに繋がると信じているのよね?」
「もちろんです。」

一方でスクアーロも勘違いしそうだった。
アリーチェのそれは演技だとわかっていても、愛おしそうに自分を見つめてくるアリーチェの瞳に堕ちてしまいそうだった。
そもそもスクアーロの強さや権力に惹かれた女性はこれまで数多くいても、スクアーロの全てを敬愛し信頼してくれた女性はアリーチェしかいないのだ。
性欲を満たせればそれで良かった女性達とアリーチェは彼の中で全然別物で、特別だった。

「なら、これ以上言うことはないわ。あなたの幸せが私の幸せでもあるのだから。」
「それは私の台詞です、お母様。」

スクアーロには理解できない親子愛だが、それでもアリーチェと母のやり取りは見ていて嫌な気がしなかった。

× × × × × × × × × × ×

ディーノが(くだん)の別荘に到着した時には全てが終わっていた。
クーデター派は死亡しているか、負傷した状態で拘束されていた。
主犯のミルコとアルマンドは脚の腱と顎の筋肉を切られているために当面歩けず喋れないようだが、命に別条はなかった。
ディーノは主犯の2人と死亡している面々が銃創ではなく刃物による傷が多いことが引っかかった。
そんな時、アリーチェの様子を見に行かせていたロマーリオから連絡が入った。

「ロマーリオ!アリーチェは無事か!?」
『ボス…!それが…!無事ではあるんだが……』

ロマーリオはそれ以上言葉を上手く紡げない様子だった。
何かが起きていることを察したディーノは部下達に目配せをした。

「こっちは落ち着いてるからすぐそっちへ行く!!」

そして衝撃の事実を知ることとなった。

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