再会は突然に
アリーチェ・カンメッロは23歳になり、日本人向け現地観光ガイドとして働いていた。
故郷から離れ、ローマ近郊の空港近くに住み、日本人観光客を出迎えてはローマに案内し、様々な観光名所を歩き回って紹介していた。
日本の旅行代理店と調整して観光のコース決めをしたり、ホテルやレストラン、美術館、諸所で利用する交通手段の予約を取ったりなど、歩き回らずに1日を終える日もある。
毎日が違う仕事で溢れており、アリーチェは今の仕事に満足していた。
母と共に暮らせていないことだけがアリーチェにとって少し残念ではあったが、日本人相手の観光ガイドはそれなりに割りが良く仕送りができていたため、そこまで深く考えてはいなかった。
また、残念と言えば、今年はアリーチェの誕生日パーティーにディーノが欠席したことだった。
どうも彼はアリーチェの誕生日付近は重大な用事で日本に滞在していたらしく、後から謝罪の連絡が入ったのだった。
もちろんアリーチェはディーノを責める気はないが、婚約破棄してからは互いの誕生日パーティーでしか顔を合わせないため、残念な気持ちは拭えなかった。
「(まあ、でも明後日はディーノの誕生日だし)」
アリーチェはそんなことを考えながら、ワインショップへと足を踏み入れた。
そこで聞き慣れた声を耳にした。
「あれとそれと………ああ、あといつものは必須だなぁ。あとは…」
店員に購入する品を伝えているらしい彼の声、口調は明らかに特徴的だった。
アリーチェは胸が高鳴るのを抑えながら、音源に近づいた。
その後ろ姿はアリーチェの記憶しているものと随分違った。
身長は伸び、筋肉も程よくつき、何より美しい銀髪が腰にかかるくらい長くなっていた。
それでもアリーチェは確信した。
「スクアーロ君?」
スクアーロは振り向いた。
「アリーチェ…?」
「やっぱり!スクアーロ君!」
アリーチェは嬉しさの余り彼に抱きついた。
スクアーロは呆気にとられて固まっていた。
その様子を見て、彼は典型的なイタリア男子ではなかったことを思い出したアリーチェは体を離した。
「久しぶり!」
アリーチェの言葉を聞いてスクアーロはやっと口を動かした。
「あ、ああ……」
「また会えて嬉しいよ。」
「…ああ、オレもだ。」
アリーチェは左手首につけている腕時計を見た。
時刻は12時半だ。
「ねえ、スクアーロ君はこの後予定ある?なければ一緒にランチでもどう?」
「……いいぜぇ」
「やった!あ、注文の邪魔しちゃってごめんね。」
「問題ねぇ。必要なものは全部頼んだはずだ。」
そう言ってスクアーロはアリーチェから店主に視線を移した。
「頼むものは以上だ。いつもの住所に送りつけろぉ。会計もいつも通りだ。」
「承知しました。では注文書にサインだけお願いします。」
スクアーロはペンを右手で受け取り、サインをした。
アリーチェはそれを見て何か違和感を覚えた。
「(右手の中指に指輪……してるからかな?あれ、もしかしてこれっていわゆるリング…?)」
「お買い上げありがとうございます。そちらのお客様は何をご注文されますか?」
「友人の男性の誕生日にワインを贈りたいんだけれど、何か良いものないですか?彼、南イタリアのものは色々飲んだことあると思うので、できれば北ので。予算は100ぐらいで。」
「そうですね……贈る方は若いんですか?」
「はい、今年で23になります。」
「それなら誕生年に合わせたものを用意して特別感を出しますか?」
「なるほど、素敵なアイデアだと思います。それでお願いできますか?」
店員は早速何本かワインを持ってきた。
そしてワインの味の説明をする。
アリーチェはそれを聞きつつも、ディーノのお酒の好みがわからないため、どれが良いか決めきれなかった。
「あげるのは跳ね馬かぁ?」
見かけたスクアーロが尋ねた。
「うん。今はお互いの誕生日にしか会ってないから、お酒の好みがわからないの。食べ物の好みはわかるんだけど…。」
「なら、これにしとけ。」
スクアーロは1番右に置かれたワインを指差した。
「美味しい?」
「値段相応だが、他に比べて癖がねぇ。」
「なるほど。じゃあこれにします。」
「かしこまりました。梱包しますか?」
「はい、車で運ぶので割れにくいようにお願いします。」
「了解です。少々お待ちください。」
アリーチェとスクアーロは雑談しながら梱包されるのを待った。
「ワイン選び、手伝ってくれてありがとう。」
「別に手伝ったつもりはねぇ。腹が減っただけだ。」
「あ、ごめん、待たせちゃったね。ランチどこ行こうか?食べたいのとかある?」
「その辺の混んでない店なら何でも。」
「スクアーロ君ってこの辺のお店詳しい?私、初めてこの辺来たんだよね。」
「詳しくはねーが、車で5分程度で行ける場所に悪くねぇ店がある。駐車場もあるからそこでどうだ?」
「じゃあそこが混んでなかったらそこにしよ。」
「ああ」
「お待たせしました。」
アリーチェ達の会話の区切りがついたタイミングで店員は声をかけてきた。
アリーチェは支払いを済ませ、梱包されたワインを受け取った。
「ありがとうございます。」
アリーチェとスクアーロは店を後にした。
アリーチェは黒い普通車の後部座席にワインを置き、助手席の扉を開けた。
「どうぞ」
「ああ」
スクアーロが助手席に座るとアリーチェは運転席に乗り込んだ。
エンジンをつけて真っ先にナビを操作する。
「お店の名前か住所わかる?」
「地図の右上に映ってるここだ。」
スクアーロはある地点を指差す。
「了解」
アリーチェはそこを目的地に入力した。
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
「う゛お゛ぉい、テンション高ぇなぁ。」
「高くもなるよ、スクアーロ君に久しぶりに会えたことが嬉しいんだから。」
アリーチェはウインクした。
そしてサイドブレーキを外し、早速ハンドルを切る。
「スクアーロ君はこの辺に住んでるの?」
「この辺…ではねぇ。1番近い町がここってだけだ。」
「そうなんだ。ヴァリアーの宿舎みたいな感じなの?」
「宿舎つーか、本部だぁ。さすがにどこにあるかは機密だがなぁ。」
「へー、じゃあヴァリアーの人って本部に住み込みなの?」
「基本そうだぁ。アリーチェはどうなんだ?」
「私は空港近くに住んでるよ。近くといっても車で20分くらいなんだけど。仕事柄空港が近い方が便利なんだよね。」
「なんの仕事してんだ?」
「日本人向けの観光ガイドだよ。主にローマ付近を案内してるの。ツアー客もいるし、個人のお客さんもいるよ。」
「そりゃ確かにアリーチェ向きの仕事だ。」
「でしょ。」
「キャバッローネのシマに住んでねーのはわざとか?」
「ううん。高校卒業して1年は地元で日本人に限らず幅広い国の人向けに観光ガイドやってたんだけど、全然儲からなくてこっちに来たの。今じゃお母様に仕送りできるくらい儲かってるよ。」
こんな感じで他愛もないやりとりをしていると、ナビが不意に目的地到着を告げた。
『目的地付近に到着しました。』
「ここらへん?」
「ああ、あの店だ。そこを右折して駐車場入れ。」
「オッケー」
アリーチェはスクアーロの指示通りに駐車場に入って、適当な空いているスペースに車を停めた。
アリーチェがエンジンを切ると、早速2人は車を出てお店へ向かった。
「………待って、スクアーロ君。ここ、めっちゃ高いんじゃない?」
「高いだぁ?」
スクアーロはアリーチェに信じられないという表情を見せたが、アリーチェの本気でドン引きしている表情を見て、思い直したらしい。
「確かに一般人 の給料からしたら高ぇか。つか、オレが奢るから問題ねぇ。」
「いや、問題あるよ。私がランチ誘ったのに奢られるなんて。」
「細かいことは気にすんなぁ。」
そう言ってスクアーロはアリーチェの左手を掴み、店に入った。
「いらっしゃいませ。」
ウェイターが現れ、丁寧に挨拶をする。
「個室空いてるか?」
「はい、ご案内します。」
ウェイターは2人を個室へと案内した。
故郷から離れ、ローマ近郊の空港近くに住み、日本人観光客を出迎えてはローマに案内し、様々な観光名所を歩き回って紹介していた。
日本の旅行代理店と調整して観光のコース決めをしたり、ホテルやレストラン、美術館、諸所で利用する交通手段の予約を取ったりなど、歩き回らずに1日を終える日もある。
毎日が違う仕事で溢れており、アリーチェは今の仕事に満足していた。
母と共に暮らせていないことだけがアリーチェにとって少し残念ではあったが、日本人相手の観光ガイドはそれなりに割りが良く仕送りができていたため、そこまで深く考えてはいなかった。
また、残念と言えば、今年はアリーチェの誕生日パーティーにディーノが欠席したことだった。
どうも彼はアリーチェの誕生日付近は重大な用事で日本に滞在していたらしく、後から謝罪の連絡が入ったのだった。
もちろんアリーチェはディーノを責める気はないが、婚約破棄してからは互いの誕生日パーティーでしか顔を合わせないため、残念な気持ちは拭えなかった。
「(まあ、でも明後日はディーノの誕生日だし)」
アリーチェはそんなことを考えながら、ワインショップへと足を踏み入れた。
そこで聞き慣れた声を耳にした。
「あれとそれと………ああ、あといつものは必須だなぁ。あとは…」
店員に購入する品を伝えているらしい彼の声、口調は明らかに特徴的だった。
アリーチェは胸が高鳴るのを抑えながら、音源に近づいた。
その後ろ姿はアリーチェの記憶しているものと随分違った。
身長は伸び、筋肉も程よくつき、何より美しい銀髪が腰にかかるくらい長くなっていた。
それでもアリーチェは確信した。
「スクアーロ君?」
スクアーロは振り向いた。
「アリーチェ…?」
「やっぱり!スクアーロ君!」
アリーチェは嬉しさの余り彼に抱きついた。
スクアーロは呆気にとられて固まっていた。
その様子を見て、彼は典型的なイタリア男子ではなかったことを思い出したアリーチェは体を離した。
「久しぶり!」
アリーチェの言葉を聞いてスクアーロはやっと口を動かした。
「あ、ああ……」
「また会えて嬉しいよ。」
「…ああ、オレもだ。」
アリーチェは左手首につけている腕時計を見た。
時刻は12時半だ。
「ねえ、スクアーロ君はこの後予定ある?なければ一緒にランチでもどう?」
「……いいぜぇ」
「やった!あ、注文の邪魔しちゃってごめんね。」
「問題ねぇ。必要なものは全部頼んだはずだ。」
そう言ってスクアーロはアリーチェから店主に視線を移した。
「頼むものは以上だ。いつもの住所に送りつけろぉ。会計もいつも通りだ。」
「承知しました。では注文書にサインだけお願いします。」
スクアーロはペンを右手で受け取り、サインをした。
アリーチェはそれを見て何か違和感を覚えた。
「(右手の中指に指輪……してるからかな?あれ、もしかしてこれっていわゆるリング…?)」
「お買い上げありがとうございます。そちらのお客様は何をご注文されますか?」
「友人の男性の誕生日にワインを贈りたいんだけれど、何か良いものないですか?彼、南イタリアのものは色々飲んだことあると思うので、できれば北ので。予算は100ぐらいで。」
「そうですね……贈る方は若いんですか?」
「はい、今年で23になります。」
「それなら誕生年に合わせたものを用意して特別感を出しますか?」
「なるほど、素敵なアイデアだと思います。それでお願いできますか?」
店員は早速何本かワインを持ってきた。
そしてワインの味の説明をする。
アリーチェはそれを聞きつつも、ディーノのお酒の好みがわからないため、どれが良いか決めきれなかった。
「あげるのは跳ね馬かぁ?」
見かけたスクアーロが尋ねた。
「うん。今はお互いの誕生日にしか会ってないから、お酒の好みがわからないの。食べ物の好みはわかるんだけど…。」
「なら、これにしとけ。」
スクアーロは1番右に置かれたワインを指差した。
「美味しい?」
「値段相応だが、他に比べて癖がねぇ。」
「なるほど。じゃあこれにします。」
「かしこまりました。梱包しますか?」
「はい、車で運ぶので割れにくいようにお願いします。」
「了解です。少々お待ちください。」
アリーチェとスクアーロは雑談しながら梱包されるのを待った。
「ワイン選び、手伝ってくれてありがとう。」
「別に手伝ったつもりはねぇ。腹が減っただけだ。」
「あ、ごめん、待たせちゃったね。ランチどこ行こうか?食べたいのとかある?」
「その辺の混んでない店なら何でも。」
「スクアーロ君ってこの辺のお店詳しい?私、初めてこの辺来たんだよね。」
「詳しくはねーが、車で5分程度で行ける場所に悪くねぇ店がある。駐車場もあるからそこでどうだ?」
「じゃあそこが混んでなかったらそこにしよ。」
「ああ」
「お待たせしました。」
アリーチェ達の会話の区切りがついたタイミングで店員は声をかけてきた。
アリーチェは支払いを済ませ、梱包されたワインを受け取った。
「ありがとうございます。」
アリーチェとスクアーロは店を後にした。
アリーチェは黒い普通車の後部座席にワインを置き、助手席の扉を開けた。
「どうぞ」
「ああ」
スクアーロが助手席に座るとアリーチェは運転席に乗り込んだ。
エンジンをつけて真っ先にナビを操作する。
「お店の名前か住所わかる?」
「地図の右上に映ってるここだ。」
スクアーロはある地点を指差す。
「了解」
アリーチェはそこを目的地に入力した。
「じゃあ、しゅっぱーつ!」
「う゛お゛ぉい、テンション高ぇなぁ。」
「高くもなるよ、スクアーロ君に久しぶりに会えたことが嬉しいんだから。」
アリーチェはウインクした。
そしてサイドブレーキを外し、早速ハンドルを切る。
「スクアーロ君はこの辺に住んでるの?」
「この辺…ではねぇ。1番近い町がここってだけだ。」
「そうなんだ。ヴァリアーの宿舎みたいな感じなの?」
「宿舎つーか、本部だぁ。さすがにどこにあるかは機密だがなぁ。」
「へー、じゃあヴァリアーの人って本部に住み込みなの?」
「基本そうだぁ。アリーチェはどうなんだ?」
「私は空港近くに住んでるよ。近くといっても車で20分くらいなんだけど。仕事柄空港が近い方が便利なんだよね。」
「なんの仕事してんだ?」
「日本人向けの観光ガイドだよ。主にローマ付近を案内してるの。ツアー客もいるし、個人のお客さんもいるよ。」
「そりゃ確かにアリーチェ向きの仕事だ。」
「でしょ。」
「キャバッローネのシマに住んでねーのはわざとか?」
「ううん。高校卒業して1年は地元で日本人に限らず幅広い国の人向けに観光ガイドやってたんだけど、全然儲からなくてこっちに来たの。今じゃお母様に仕送りできるくらい儲かってるよ。」
こんな感じで他愛もないやりとりをしていると、ナビが不意に目的地到着を告げた。
『目的地付近に到着しました。』
「ここらへん?」
「ああ、あの店だ。そこを右折して駐車場入れ。」
「オッケー」
アリーチェはスクアーロの指示通りに駐車場に入って、適当な空いているスペースに車を停めた。
アリーチェがエンジンを切ると、早速2人は車を出てお店へ向かった。
「………待って、スクアーロ君。ここ、めっちゃ高いんじゃない?」
「高いだぁ?」
スクアーロはアリーチェに信じられないという表情を見せたが、アリーチェの本気でドン引きしている表情を見て、思い直したらしい。
「確かに
「いや、問題あるよ。私がランチ誘ったのに奢られるなんて。」
「細かいことは気にすんなぁ。」
そう言ってスクアーロはアリーチェの左手を掴み、店に入った。
「いらっしゃいませ。」
ウェイターが現れ、丁寧に挨拶をする。
「個室空いてるか?」
「はい、ご案内します。」
ウェイターは2人を個室へと案内した。
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