次の約束

前菜が運ばれてきてアリーチェとスクアーロは早速食べ始めた。
アリーチェは向かいに座るスクアーロの食べ方に違和感を覚えた。
何かが違う、そう思うのにピンと来なかった。
そしてスクアーロが右手は素手なのに、左手に白い手袋をしていることに気付いた。
そしてやっと違和感の正体に気付いた。

「スクアーロ君って右利きだったっけ?剣左手で持ってなかった?」
「左利きだぁ。よく覚えてんな、そんなこと。左手は義手だ。指先の細かな動きが必要な作業は右手を使ってる。」
「義手?そっかぁ…やっぱり剣の道を極めるのは大変なんだねぇ。」
「まーなぁ。左手は剣帝の剣を理解するために切り落としたんだ。」
「なになに?スクアーロ君の武勇伝聞きたい。話せる範囲で良いから、昔みたいに聞かせてよ。」

アリーチェがそう言うとスクアーロは不敵な笑みを見せ、これまで戦った相手について語り始めた。
ちゃっかり、時雨蒼燕流を身に付けたばかりの山本武に負けた話もそこには混じっており、アリーチェは前世で見たアニメのリング争奪戦がとっくに終わっていることを察した。
昨年リボーンがディーノのもとを離れ、日本に向かったと聞いた瞬間からアニメが始まっていることには気付いていたが、アリーチェの目論見通り婚約破棄できたことで特に関わることはなく、進み具合はよくわかっていなかったのだ。
スクアーロは山本の才能に惚れ込んでいるのか、負けた話をしているというのに他の話よりも気合いの籠った話っぷりで山本の凄さを語り、アリーチェはそれを心底楽しみながら聞いていた。

「スクアーロ君にそこまで見込まれるなんて相当の天才だね。」
「ああ。野球なんかやってねーで、剣の道を極めれば良いんだがなぁ。」

ちょうどデザートのタルトが届いたところでアリーチェは次に会う約束を取り付けようと思い、話題を変えることにした。

「話変わるんだけどさ、スクアーロ君は誕生日いつなの?」
「3月13日。」
「来月か………スクアーロ君は何かこう好きな食べ物とか、お酒とか、欲しい物とかある?」
「祝う気か?」
「迷惑かな?」
「そうじゃねぇが……オレとまた会う気か?」
「ダメ?」
「そうじゃねぇ、最後に会った時にもう会う気がねぇみてーな発言してただろうがぁ。」

アリーチェは首を傾げて記憶を辿った。
しかし正確に何と言ったかは思い出せなかった。

「そうだっけ?会う気がないというより再会は難しいと思ってただけなんだけど……だってあの当時は携帯電話も持ってなかったでしょ?」
「まあ、そうだが…」
「珍しく歯切れ悪いね。」

スクアーロはそう指摘されて目を見開いた後、頭を軽く掻いて長く溜め息をついた。

「……テメーが一般人(カタギ)だから気ぃ遣ってんだろうがぁ。マフィア(オレら)と接触すると抗争に巻き込まれたり、一般人(カタギ)から倦厭されたり……色々あるだろうが。」
「うん、それはそうだね。でも実際お父様はキャバッローネの元幹部で、私もお母様もキャバッローネと縁が深いという事実がある以上、全く関わらないということもできなくて。実際何度かキャバッローネ絡みのトラブルに巻き込まれてるんだよね。どうせ縁が切れないなら、会いたい人にたまに会うぐらいは良いかなって。」
「アリーチェがそういう考えなら会ってやらねーこともねぇ。」
「やった、ありがとう。」

アリーチェは少し安堵しながら顔を綻ばせた。

「3月13日……確か仕事は午前中だけの予定だな。ヴァリアーで誕生日パーティーとかするの?」
「するかぁ!!アイツらに祝われるなんてごめんだ!!」
「何で?」
「気色悪ぃだろーがぁ!!」
「そうなの?私はヴァリアーの人達ってほとんど知らないからよくわからないけれど……」

顔くらいは前世の記憶で覚えているが、前世の時点でヴァリアーの面々の細かい設定や性格を覚えていないので、「ほとんど知らない」はアリーチェにとって正確な言い方だった。
そんなに癖のある集団だったか、アリーチェには思い出せなかった。
というよりもアニメに出てくるキャラクターは全員個性が強すぎて、友人の推しくらいしか記憶にないというのが正しい。

「とにかく御免被る。オレも今のところは任務はねぇ予定だ。」
「どこか行きたいところとかある?」
「特にねぇなぁ。」

そう言ってスクアーロはタルトを口に運ぶ。

「うーん、じゃあ無難にディナーかな?うち来る?」

その言葉にスクアーロは咽せて変な咳をした。

「グッ!?…ゲホッ…ゲホッ……う゛お゛ぉい!!テメー1人暮らしだろーがぁ!!気軽に男をあげようとすんじゃねぇ!!」
「誰でも家にあげるわけじゃないよ。でもスクアーロ君なら大丈夫でしょ?」
「何でそうなる?」

スクアーロは尋ねながら水を口に含んだ。

「スクアーロ君は剣とザンザスにしか興味ないから。」

アリーチェの返答にスクアーロは水を思いっきり吹き出した。

「ブーーーーー!!テメ…!!う゛お゛ぉい!!誤解を招くような言い方やめろぉ!!オレがホモみてぇじゃねーかぁ!!」
「あははは!ごめん、今のはわざと!」

アリーチェはしてやったりとニヤリと笑う。

「でもスクアーロ君のことを本当に信頼してるよ?」

スクアーロはそれを聞いて左手でしばらく顔を隠し、やがて溜め息をついた。

「……それでもダメだ。おまえ、何食わぬ顔で男を家にあげようとしてるが、彼氏いるとか言わねーだろうな?それで誘ってたら流石に神経疑うぞぉ。」
「流石にその辺の分別はあるって。恋愛はしばらくいいかなーって思ってるし。」

アリーチェは今世で過去に3人の男性と付き合ったことがある。
しかし3人共アリーチェと付き合う内にダメ男になり、アリーチェから別れを告げている。
3人共別れる際にはゴタゴタしている。
元々アリーチェから好きになった相手ではなかったこともあり、コスパが悪過ぎる(?)と感じた彼女は恋愛には懲りていた。

「……とにかく外で会うぞ。」
「うーん、外かぁ。ぶっちゃけね、私が奢れるレベルのレストランってスクアーロ君からしたら全然特別感ないんじゃないかなぁって思って…。」
「それで家か………。アリーチェ、1つ言っとくが最後に誕生日を祝われたのは随分とガキの頃の話だ。わざわざオレの誕生日に時間を割いて何かをしようっつー時点で、オレからしたら随分と特別なことされてんだぁ。」

アリーチェは心がジーンと温かくなるのを感じた。

「スクアーロ君……じゃあ好きな食べ物を教えて!スクアーロ君の好きな食べ物が美味しいお店探してみるよ!」
「マグロのカルパッチョ。」
「オッケー。探してみるね。連絡先も教えて?」

アリーチェとスクアーロは連絡先を交換した。

「任務中は連絡つかねーからそのつもりでなぁ。」
「うん。私も仕事中は通話はできない。メールを確認することはタイミングによってはできるけど。」
「ああ」

デザートを食べ終え、スクアーロに会計を済ませてもらい、アリーチェと彼は店を出た。
アリーチェの車の前で2人は会話する。

「ごちそうさま。ありがとう、奢ってくれて。来月楽しみにしてて。」
「ほどほどに期待しとく。」
「ほどほどって」

アリーチェは破顔した。

「スクアーロ君はこの後どうするの?ヴァリアー本部戻るなら近くまで送ろうか?」
「断る。アリーチェはいつから地元に帰るつもりだ?」
「明日から。」
「う゛お゛ぉい、こんなゆっくりしてて良いのか?」
「大丈夫、出張も多い仕事だからトラベルグッズは常に準備してるんだよ。準備できてなかったのはディーノへのプレゼントだけ。」
「そうかぁ。」

スクアーロは自身のズボンのポケットを弄った。
そして青い石が埋め込まれたプラチナの指輪を取り出し、左手でアリーチェの右手を取った。

「え?」

ドキリとしたアリーチェが呆気に取られていると、スクアーロは彼女の親指にその指輪をはめた。
アリーチェが顔を赤くしているのを見て、スクアーロは吹き出した。

「プッ…!いつだかのお返しだなぁ!」
「何の話…?」

笑うスクアーロにアリーチェは首を傾げた。

「忘れてんなら別にいい。これは暗殺用の指輪だ。」
「暗殺用?」

アリーチェは困惑した。

「さっきキャバッローネ絡みでトラブルに巻き込まれたっつってたろーが。これからはオレ絡みでそういうことになってもおかしくはねーし、オレはテメーを守ってやるつもりはねぇ。なら自分の身を守れる手段ぐらいは提供しねーとなぁ。」
「…ありがとう。でもこれどうやって使うの?」
「普段は石を上向きにしておいて、敵を攻撃する時は指輪を回して石を押せ。」

スクアーロはアリーチェに嵌めた指輪を彼女から見て時計回りに90度ほど回して、親指と人差し指の間にきた石を押した。
そしてアリーチェの手のひらを空に向ける。

「針?」

指輪からは5mm程度の鋭い針が出ていた。

「ああ、即効性の麻痺薬が塗ってある。刺せばオレぐらいの体格の男でも一瞬で体が麻痺する。舌すら動かすのが難しいくらいになぁ。もう一度押せば針は戻る。」

スクアーロは石を押した。
針は音も立てずに引っ込んだ。

「暗殺用っつっても、敵を生け捕りにする時に使うものだぁ。(タマ)までは取らねぇし、初見殺しの武器だからアリーチェみたいな素人にはうってつけのはずだぁ。」

スクアーロが手を離すと、アリーチェは自分の右手を見つめ、指輪の針を1度出し入れした。

「そうだね、使い勝手良さそう。ありがとう、気を遣ってくれて。」
「ああ。じゃあ、オレはそろそろ行く。」
「うん、また来月ね。」

スクアーロは走り去った。
その背に軽く手を振り指輪を少し眺めた後、アリーチェは車に乗り込んだ。

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