Fathers
嫌なことは重なるらしい。
ツナ君が無事帰宅したことを見届けた後家に帰ったら、お父さんが帰って来ていた。
「おかえりなさい、お父さん。」
リビングのソファで寛ぐお父さんに声をかけると、まず睨まれた。
「何だ、その口の聞き方は。バリエラの10代目の座を奪えたからといって、家長にその態度で良いと思っているのか!」
「……失礼しました、お父様。」
「ふん…」
お父さんは不機嫌そうに僕から視線を移した。
僕はそれ以上リビングにいたくなくて2階の自分の部屋へと上がった。
お父さんがああなったのは、お祖父様のせいだからしょうがない。
お祖父様は歴代最強と謳われた優秀なバリエラだった。
だからお父さんに過酷な教育を施して、自分にできたことができないと酷く責め立てたらしい。
お父さんが1人前のバリエラになる頃には、お父さんには種馬としての期待しかしていなかったそうな。
そうしてできたのはお祖父様をも超える歴代最強の能力を持った僕だった。
ただ、お父さんはお祖父様が最も望んでいた男の子を作るという期待には応えられなかった。
僕の出産時にお母さんの身に胎盤癒着が起きて、子宮全摘出になったせいだ。
散々な不妊治療の末に女の子しか産まれなかったのだ。
徹底した実力主義のお祖父様は僕の能力を高く評価していて、男でないことを残念がりながらも満足そうだ。
でもお父さんは違う。
いつも期待に応えられない自分自身を嫌悪し、本来自分がされるはずの期待を一身に背負っている僕に嫉妬している。
優希のせいじゃない。
お母さんと叔父さんに口を酸っぱくして言われた言葉だ。
お祖父様の歪んだ期待が、バリエラの一族の使命が、そして歴代バリエラが行ってきた近親婚がもたらした結果だと。
2人はいつもそう言っていて、僕もそう思っている。
でも実の父にあんな態度を取られるのは14年間生きててまだ慣れない。
それは残暑が残る夕暮れの公園で起きた出来事だった。
砂場でツナ君と山を作って、トンネルを掘って開通させて、2人の手が合わさって、視線も合わさって。
指先が触れながらお互いに照れ笑いをした時、僕は寒気を感じた。
次の瞬間には反射的にツナ君に覆い被さっていた。
何か背中に攻撃されたけど、自動でスクーデが発動して特に怪我はなかった。
「クソッ!なんなんだ!この硬い壁は!!」
「うわあああああん!!」
僕は何が起きているかわからなかったけど、僕の下で仰向けの状態で庇われているツナ君はどんな攻撃を受けているのか見えていたはずだ。
だからパニックになって大泣きしていた。
「やめて!!優希を虐めないで!!」
イジメじゃないよ、ツナ君。
これ叔父さんが前に言ってた"刺客"ってやつだ。
ツナ君を殺しに来たんだ。
「クソッ!クソォッ!」
「うわああああ!」
「大丈夫、ツナ君、大丈夫だから。」
僕は痛みすら感じていない。
ただスクーデが勝手に発動している気配を感じている。
隙間を縫ってツナ君に攻撃されないよう、攻撃を受ける度に僕たち全体を覆うようにすることだけ意識している。
「何をやっているんだ!!」
家光さんの怒鳴り声がして、スクーデの自動発動が止まったことに気付いて僕はツナ君を庇う姿勢のまま音のする方を見た。
家光さんの手によって刺客は捕えられていた。
「ツナ君、大丈夫?」
「優希……」
ツナ君は真っ青な顔で意識を失った。
「ツナ君!」
「ツナ!」
部下の人に刺客を引き渡した家光さんが慌ててツナ君の様子を確認しに来た。
僕はツナ君の上を退いた。
家光さんは念入りにツナ君の状態を確認した後、安堵したようにほっと溜め息をついた。
「大丈夫だ、怖さの余り意識を失っただけだろう。」
今度は僕が安堵の溜め息を吐く番だった。
「良かった……」
「ツナを守ってくれてありがとう、優希ちゃん。」
「僕はツナ君のバリエラだから。」
その言葉に家光さんが眉間に皺を寄せたけど、当時の僕はその意味がわからなかった。
家光さんの腕の中で眠るツナ君を見やる。
家光さんの体温に安堵したのか穏やかな表情で彼は寝ていた。
懐かしい夢だった。
悍ましい夢だった。
夢に見たのは8年前に本当にあった出来事だ。
なぜ今日に限ってあれを見たんだろう?
寝汗をかいたのか、下着がじっとりと肌に張り付いて気持ち悪い。
ケータイの画面を確認してみれば時刻は朝の3時半。
まだ眠くて寝たい気持ちもあるけれど、汗をかいたままも嫌だったので起きてシャワーを浴びることにした。
シャワーを浴びていると昨日のツナ君の言葉が脳裏をよぎった。
遊びじゃないなんて言いたいのは僕の方だ。
使命を自覚して10年、ツナ君を守ることの危険性や意義を肌で理解して8年。
僕がどれだけ努力してツナ君を守って来たかなんて知らないくせに。
……ああ、嫌だな。
自分で決めたことで、ツナ君が望んだことじゃないのに、拒絶されたからってこんなこと考えて。
しばらくツナ君と顔を合わせるのはやめよう。
ふと窓の外を見て気付いた。
家光さんがいつものツナギを着て釣竿を持って出掛けようとしている。
僕は窓の外を見て家光さんしかいないことを確認してから、音を立てずに1階に降りて外へ出た。
「家光さん…!」
「おお、優希ちゃんか。久しぶりだな。」
「お久しぶりです。」
家光さんは僕の頭を撫でる。
彼はいつもそうだ。
僕を実の娘のように可愛がってくれる。
「ん?優希ちゃん、お風呂上がりたてか?」
「あ、はい。寝汗が気持ち悪くてさっきシャワー浴びたんです。」
「おいおい、女の子がそんな格好で外出ちゃダメだろぉ?」
「大丈夫ですよ、僕を襲える人なんてそうそういませんから。」
「それはそうだけどよー」
「ところで家光さん、どこかへお出かけですか?」
「ああ、ちょっと野暮用を済ませにな。」
そう言って家光さんは4通の封筒を見せてくれた。
厚みの感じからして恐らくハーフボンゴレリングが入ってるんだ。
ツナ君の大空のリングは本人に渡したとして守護者の分は6つのはずだから、既に2つ分は託し終えているみたいだ。
「1分だけお話良いですか?」
「優希ちゃんなら何分でも。」
「さすがに忙しいのをわかっていてそこまで拘束できませんって。僕が聞きたいのは、9代目から僕への指令は変わっていないのかということです。」
「……わからないってのが正直なところだ。9代目はここのところザンザス達のやり方を容認なさっている。それに対して異議申し立てをしたが今のところ返事はない。その内ヴァリアーが攻めて来るだろうが、もし9代目がザンザスを後継者に推すなら優希ちゃんへの命令は撤回しないだろう。」
「……………では、門外顧問たる家光様にお伺いします。もしヴァリアーと明確に敵対し、内戦になるようなことがあればその時は僕の全力を持って綱吉様をお守りして宜しいでしょうか?」
「ああ、その時はオレの権限で許可する。」
一気に心のモヤモヤが晴れた気がした。
僕は勢いよく頭を下げた。
「ありがとうございます!家光さん!」
「ああ。ツナをよろしく頼むな。」
「もちろんです!」
「あ、そうだ。オレが出かけることはラウルには内緒な。」
「えっ、なぜですか?」
ラウルはお父さんの名だ。
なぜ家光さんのバリエラであるお父さんに内緒なんだろう?
「ラウルの奴、堅苦しくってな〜。頼もしい奴ではあるんだが、たまには自由にさせてほしくてな。」
「あー………バリエラとしてはお父さんの護衛付けて欲しいですけど、門外顧問としての命令なら僕は従うしかないですね〜。」
「じゃあ門外顧問としての命令ってことで。」
「承知しました。」
ニヤリと悪い顔で笑う家光さんに僕もニヤリと笑い返した。
ツナ君が無事帰宅したことを見届けた後家に帰ったら、お父さんが帰って来ていた。
「おかえりなさい、お父さん。」
リビングのソファで寛ぐお父さんに声をかけると、まず睨まれた。
「何だ、その口の聞き方は。バリエラの10代目の座を奪えたからといって、家長にその態度で良いと思っているのか!」
「……失礼しました、お父様。」
「ふん…」
お父さんは不機嫌そうに僕から視線を移した。
僕はそれ以上リビングにいたくなくて2階の自分の部屋へと上がった。
お父さんがああなったのは、お祖父様のせいだからしょうがない。
お祖父様は歴代最強と謳われた優秀なバリエラだった。
だからお父さんに過酷な教育を施して、自分にできたことができないと酷く責め立てたらしい。
お父さんが1人前のバリエラになる頃には、お父さんには種馬としての期待しかしていなかったそうな。
そうしてできたのはお祖父様をも超える歴代最強の能力を持った僕だった。
ただ、お父さんはお祖父様が最も望んでいた男の子を作るという期待には応えられなかった。
僕の出産時にお母さんの身に胎盤癒着が起きて、子宮全摘出になったせいだ。
散々な不妊治療の末に女の子しか産まれなかったのだ。
徹底した実力主義のお祖父様は僕の能力を高く評価していて、男でないことを残念がりながらも満足そうだ。
でもお父さんは違う。
いつも期待に応えられない自分自身を嫌悪し、本来自分がされるはずの期待を一身に背負っている僕に嫉妬している。
優希のせいじゃない。
お母さんと叔父さんに口を酸っぱくして言われた言葉だ。
お祖父様の歪んだ期待が、バリエラの一族の使命が、そして歴代バリエラが行ってきた近親婚がもたらした結果だと。
2人はいつもそう言っていて、僕もそう思っている。
でも実の父にあんな態度を取られるのは14年間生きててまだ慣れない。
× × × × × × × × × × ×
それは残暑が残る夕暮れの公園で起きた出来事だった。
砂場でツナ君と山を作って、トンネルを掘って開通させて、2人の手が合わさって、視線も合わさって。
指先が触れながらお互いに照れ笑いをした時、僕は寒気を感じた。
次の瞬間には反射的にツナ君に覆い被さっていた。
何か背中に攻撃されたけど、自動でスクーデが発動して特に怪我はなかった。
「クソッ!なんなんだ!この硬い壁は!!」
「うわあああああん!!」
僕は何が起きているかわからなかったけど、僕の下で仰向けの状態で庇われているツナ君はどんな攻撃を受けているのか見えていたはずだ。
だからパニックになって大泣きしていた。
「やめて!!優希を虐めないで!!」
イジメじゃないよ、ツナ君。
これ叔父さんが前に言ってた"刺客"ってやつだ。
ツナ君を殺しに来たんだ。
「クソッ!クソォッ!」
「うわああああ!」
「大丈夫、ツナ君、大丈夫だから。」
僕は痛みすら感じていない。
ただスクーデが勝手に発動している気配を感じている。
隙間を縫ってツナ君に攻撃されないよう、攻撃を受ける度に僕たち全体を覆うようにすることだけ意識している。
「何をやっているんだ!!」
家光さんの怒鳴り声がして、スクーデの自動発動が止まったことに気付いて僕はツナ君を庇う姿勢のまま音のする方を見た。
家光さんの手によって刺客は捕えられていた。
「ツナ君、大丈夫?」
「優希……」
ツナ君は真っ青な顔で意識を失った。
「ツナ君!」
「ツナ!」
部下の人に刺客を引き渡した家光さんが慌ててツナ君の様子を確認しに来た。
僕はツナ君の上を退いた。
家光さんは念入りにツナ君の状態を確認した後、安堵したようにほっと溜め息をついた。
「大丈夫だ、怖さの余り意識を失っただけだろう。」
今度は僕が安堵の溜め息を吐く番だった。
「良かった……」
「ツナを守ってくれてありがとう、優希ちゃん。」
「僕はツナ君のバリエラだから。」
その言葉に家光さんが眉間に皺を寄せたけど、当時の僕はその意味がわからなかった。
家光さんの腕の中で眠るツナ君を見やる。
家光さんの体温に安堵したのか穏やかな表情で彼は寝ていた。
× × × × × × × × × × ×
懐かしい夢だった。
悍ましい夢だった。
夢に見たのは8年前に本当にあった出来事だ。
なぜ今日に限ってあれを見たんだろう?
寝汗をかいたのか、下着がじっとりと肌に張り付いて気持ち悪い。
ケータイの画面を確認してみれば時刻は朝の3時半。
まだ眠くて寝たい気持ちもあるけれど、汗をかいたままも嫌だったので起きてシャワーを浴びることにした。
シャワーを浴びていると昨日のツナ君の言葉が脳裏をよぎった。
遊びじゃないなんて言いたいのは僕の方だ。
使命を自覚して10年、ツナ君を守ることの危険性や意義を肌で理解して8年。
僕がどれだけ努力してツナ君を守って来たかなんて知らないくせに。
……ああ、嫌だな。
自分で決めたことで、ツナ君が望んだことじゃないのに、拒絶されたからってこんなこと考えて。
しばらくツナ君と顔を合わせるのはやめよう。
ふと窓の外を見て気付いた。
家光さんがいつものツナギを着て釣竿を持って出掛けようとしている。
僕は窓の外を見て家光さんしかいないことを確認してから、音を立てずに1階に降りて外へ出た。
「家光さん…!」
「おお、優希ちゃんか。久しぶりだな。」
「お久しぶりです。」
家光さんは僕の頭を撫でる。
彼はいつもそうだ。
僕を実の娘のように可愛がってくれる。
「ん?優希ちゃん、お風呂上がりたてか?」
「あ、はい。寝汗が気持ち悪くてさっきシャワー浴びたんです。」
「おいおい、女の子がそんな格好で外出ちゃダメだろぉ?」
「大丈夫ですよ、僕を襲える人なんてそうそういませんから。」
「それはそうだけどよー」
「ところで家光さん、どこかへお出かけですか?」
「ああ、ちょっと野暮用を済ませにな。」
そう言って家光さんは4通の封筒を見せてくれた。
厚みの感じからして恐らくハーフボンゴレリングが入ってるんだ。
ツナ君の大空のリングは本人に渡したとして守護者の分は6つのはずだから、既に2つ分は託し終えているみたいだ。
「1分だけお話良いですか?」
「優希ちゃんなら何分でも。」
「さすがに忙しいのをわかっていてそこまで拘束できませんって。僕が聞きたいのは、9代目から僕への指令は変わっていないのかということです。」
「……わからないってのが正直なところだ。9代目はここのところザンザス達のやり方を容認なさっている。それに対して異議申し立てをしたが今のところ返事はない。その内ヴァリアーが攻めて来るだろうが、もし9代目がザンザスを後継者に推すなら優希ちゃんへの命令は撤回しないだろう。」
「……………では、門外顧問たる家光様にお伺いします。もしヴァリアーと明確に敵対し、内戦になるようなことがあればその時は僕の全力を持って綱吉様をお守りして宜しいでしょうか?」
「ああ、その時はオレの権限で許可する。」
一気に心のモヤモヤが晴れた気がした。
僕は勢いよく頭を下げた。
「ありがとうございます!家光さん!」
「ああ。ツナをよろしく頼むな。」
「もちろんです!」
「あ、そうだ。オレが出かけることはラウルには内緒な。」
「えっ、なぜですか?」
ラウルはお父さんの名だ。
なぜ家光さんのバリエラであるお父さんに内緒なんだろう?
「ラウルの奴、堅苦しくってな〜。頼もしい奴ではあるんだが、たまには自由にさせてほしくてな。」
「あー………バリエラとしてはお父さんの護衛付けて欲しいですけど、門外顧問としての命令なら僕は従うしかないですね〜。」
「じゃあ門外顧問としての命令ってことで。」
「承知しました。」
ニヤリと悪い顔で笑う家光さんに僕もニヤリと笑い返した。
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