見えていないもの

ヴァリアーの襲撃に備えてツナ君達は修行を始めた。
ツナ君は死ぬ気弾を撃たれて崖を登り、失敗したら死ぬ気弾を撃たれて休むを繰り返した。
それは初代ボンゴレがした基礎体力作りの修行らしい。
僕はずっと彼の修行をこっそり見守りながら周囲を警戒してた。
するとなぜかハルちゃんが現れ、獄寺君が無理な修行をしていることをツナ君に伝えた。
ツナ君は慌てて獄寺君を探しに行ったので僕もついて行った。

目的の獄寺君は見つけたけれど、予想以上に酷い有様だった。
全身軽度の火傷や擦り傷だらけ。
足元が覚束ずにフラフラ歩きながら、ダイナマイトを投げる。
正直どこに向かって何のために投げているのか全然わからない。
多分獄寺君のことだから考えがあるんだろうけど。

ツナ君は獄寺君を止めに行こうとしたけれど、それをどこからか現れたDr.シャマルが制止した。
曰く、獄寺君は見えていないと。
そしてそれが見えない限りのたれ死のうが知ったこっちゃないと。

僕にはシャマル先生の言いたいことがわからない。
多分大事なことを獄寺君は見落としていて、シャマル先生はそれにちゃんと気付いて欲しいんだと思う。
それに僕と一緒で、ツナ君のためなら自分の命さえ簡単に投げ出せる獄寺君の性質を快く思ってないんだと思う。
だけど、これ以上見守るのは……

「ああ!危ない!!」

獄寺君がダイナマイトを持ったまま躓いて転ぶところを見た瞬間、僕の体は動いていた。
獄寺君に抱き着き、僕と獄寺君を覆うようにスクーデを発動させた。
足元にもダイナマイトが落ちたせいか地面が抉れて、僕らはその穴に落ちた。

「な…!?」

獄寺君の驚愕する声が聞こえる。
それには構わず僕は彼を抱き締めたまま、怒りの感情に任せて怒鳴った。

「獄寺君のバカ…!」
「はぁ!?」
「ツナ君の為に多少の無茶をするのは良いよ!僕もツナ君が大好きで守りたいって思うから、気持ちはわかるよ!でも死なないで!前にも言ったけど僕は大好きな友達の獄寺君のことも守りたいんだ…!」
「…っ!!」

獄寺君が息を呑んだのがわかった。
少しは僕の気持ちが伝わってくれただろうか?
僕は獄寺君を抱き締めるのをやめて少しだけ体を起こして、四つん這いで獄寺君に跨がる形になって、彼の顔を覗き込む。

「獄寺君の命を尊ぶ人がいること、忘れないで。」

獄寺君は真っ赤な顔で少しだけ呆けたようなくすぐったさを感じてるような微妙な表情をしていた。
そのよくわからない表情のまま彼は頷いた。
とりあえず獄寺君の上から退いて地面にお姉さん座りした時、彼は現れた。

「穴ボコに落っこって助かったな、少年」

声をかけてきたのはいつものツナギを着てツルハシを持った家光さんだった。
肩にはリボーン様もいる。
あー、つまりお父さんも近くにいるな。
帰ったら説教確定かな。
バリエラが主人の警護を放棄して友人にその守備のリソースを割くなんて、叔父さんでも冷静に一言警告してくるような事柄だから。
お父さんはもっと色々言ってくるだろう。
嫌だなぁ、お父さんにネチネチ怒られるの。

「な…っ、なんだてめーは!」
「オレは近所のおじさんだ。可愛い妻子持ちのな。」
「はぁ!?」
「まぁ若いんだし、死ぬことが怖くねえってのも理解できなくはないさ。だが傷付く奴がいる一方で治そうとする職種の人間がいることを忘れんなよ。そいつからしたら冗談じゃないよな。大事にしてるもんを軽くあしらわれたりしたらさ。それに自分を守れねー奴が他人を守れんのか?」
「!」

獄寺君が何かに気付いた表情を見せると家光さんは満足したようにその場を去る。
リボーン様は家光さんの肩から降りた。
獄寺君はじっと自分の手を見つめていた。

「オレに見えてなかったのは……自分の命だ……」

うん、良かった。
もう死ぬような無茶はしないよね。

「獄寺君!優希!大丈夫!?」
「じゅ…10代目!!お……お恥ずかしいばかりです!こんなブザマなところを晒してしまって…!!」
「本当ブザマ極まりねーな。」

そう言ったのはシャマル先生だった。

「いいか、今度そんな無謀なマネしてみろ。いらねー命はオレが摘んでやる。」

シャマル先生も素直じゃないなー。

「自分のケガは自分で治せよ。男は診ねーんだ。ったく、この10日間で何人ナンパできると思ってんだ。」

あ、これは本音だ。
女好きが出た。

「ところで優希ちゃん、この後デートしない〜?」

あ、そうくるか。
僕がシャマル先生のキスを避ける前に、獄寺君がボロボロの体でシャマル先生の前に立ち塞がった。

「守屋に手を出すんじゃねぇ」
「! ほー、そうか、なら仕方ねーな。」

シャマル先生は訳知り顔でニヤニヤしながら1人頷く。
僕の前に立つ獄寺君は耳まで真っ赤だった。

「仕方ねーじゃねえんだよ!女と見ればすぐに手ェ出そうとしやがって!この変態が!」

ど正論だ。

「じゃあね〜、麗しの優希ちゃん。」

そう言って締まりのないチュー顔でシャマル先生は僕に手を振って去って行った。
何が仕方なかったのかはわからないけど、まあいいか。
獄寺君がよろけて膝をつきそうになったので彼の体を支えた。

「大丈夫?」
「なっ……てっ、テメーは!!そう簡単に男に引っ付くな!!」
「え?こういう時は性別関係ないだろ?」

思春期だから仕方ないのかな?
僕もむやみやたらに男性に触れるわけじゃないんだけど、獄寺君的には触り過ぎなのかな?

「優希、オレが獄寺君に肩貸すよ。」

そんな獄寺君の様子を見かねたのか、ツナ君が助け舟を出しに来る。
獄寺君は首を横に振った。

「いえっ、10代目のお手を煩わせる訳には…っ」
「ほら、僕くらいしか肩貸せる人いないって。」

僕がそう言うと獄寺君はもっと凄い勢いで首を横に振った。

「1人で大丈夫だ!」
「いや、その状態で言われても…」
「獄寺君、やっぱりオレが肩貸すよ。ね?」
「……すんません、お願いします。」

獄寺君は結局ツナ君の肩を借りた。

「優希、昨日言ったこと忘れないでね。オレ、優希にケガして欲しくないんだ。今日だって無茶して。穴に落ちて助かったから良かったものの、下手したら大怪我するところだったんだぞ。」
「ツナ君、僕は……」
「遊びじゃないってわかってるなら、余計にこんな危ないことに関わらないでくれ…!」
「ツナ君……」

なんて説得すればいいんだろ?
バリエラとしての能力を見せれば解決なんだろうけど、それは9代目とリボーン様からOKが出ていない。

「ツナ、とりあえず獄寺の手当てが先だぞ。お前の修行も残ってんだからな。」
「ひぃぃっ」

リボーン様が修行という単語を出した途端にツナ君は顔を青くした。
ちょっと可哀想だった。
獄寺君は手当て中も僕と目が合うと顔を赤くして目線を逸らして、ろくに顔を合わせてくれなかった。
むやみやたらに触れたことが尾を引いてるようだった。
もともと気をつけているつもりではいたけど、男の子との距離感を気を付けようと思った。

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