ミステリアスな襲撃者

お行儀悪いかもしれないけど、獄寺君が地面に八ツ橋の箱を広げてくれた。
ちょうど八ツ橋は3列に並べられていて、列ごとにそれぞれが食べることになった。
とにかく今は気持ちを切り替えなきゃという意気込みを胸に、箱の中の八ツ橋を取り口の中へと放り込む。
ニッキの匂いが鼻を満たして、舌の上でもちもちした皮と甘いあんこが踊る。

「ん……おいしい……」

少し気持ちが持ち直してきた。
お菓子の力は偉大だ。
僕が守るべきツナ君は今生きて目の前にいる。
なら、僕はただそのツナ君を守ることに専念すればいい。
過去に戻れない原因はわからないけど、ツナ君を守りながらそれを突き止めて過去に戻り、戻ったら未来でこうなった原因を排除すればいい。

「こんな時でも幸せそうに食うな。」
「ああ、優希は和菓子が大好物なんだよ。」

少し呆れたように薄ら笑みを浮かべる獄寺君に、ツナ君はそうフォローを入れた。
「ふーん…」と興味なさそうな声を出す獄寺君。
まあ、獄寺君的にはツナ君に喜んで欲しくて買ったものだから要らない情報だったよね、僕の好みの話は。

「そんなに好きならオレの分も食うか?」
「!」

一瞬喉に八ツ橋が詰まりそうになった。
獄寺君ってツナ君以外にこんなことする人だっけ?
とりあえずこんな状況下で成長期の男の子の分も貰うのは申し訳なくて首を横に振った。

「気持ちは嬉しいけど、この状況じゃ次いつ食べられるかわからないからちゃんと獄寺君が食べて!」
「そうだよ、獄寺君。先が見えない状況だし、これ獄寺君が買ってきてくれたんだからさ。」

ツナ君も加勢してくれて、獄寺君は「10代目がそうおっしゃるなら…」と納得してくれた。
獄寺君は食べ終わった後、辺りを見回る。

「しかし、ここ…どこなんスかね?」

獄寺君は10年後の獄寺君が置いて行ったアタッシュケースとトートバッグを拾い上げる。

「日本じゃないってことも考えられますね。」
「えっ、外国ーー!?」
「この2つの荷物、10年後のオレが置いて行ったんスよね?」
「う……うん……」
「こっちはオレのっぽいけど、こっちはオレの趣味じゃねーな。」

確かに。
トートバッグが無地ならまだしも、緩い雰囲気の猫が描かれたトートバッグは獄寺君っぽくない。
もしかして。

「そのトートバッグ、10年後の僕のかも。」
「あー、そっちの方が納得できるな。」

そう言って獄寺君は僕にトートバッグを渡して、アタッシュケースを開いた。

「ちょっ、獄寺君!!勝手に開けちゃあ…」
「構いませんよ、どーせオレのなんスから!」
「じゃあ僕も」

獄寺君に倣ってトートバッグの中身を出してみた。
たまたま最初に取り出したのは立方体の箱。
一面だけ穴の空いていて、その穴から開けられるか指を突っ込んで試してみたけど開かなかった。
他に出てきたのは財布やハンドタオル、水筒、指輪。
財布やハンドタオルはいかにも僕の好きなデザインだけど、紫色の大きな石が付いた太い指輪は僕の好きなデザインじゃなくて顔を顰めた。
別にアクセサリー自体にそんなに興味はないけど、身につけるならシンプルなのが好きなのに。
まだ何か入ってることに気付いて、取り出してみたらそれは手帳だった。
ご丁寧にカバーが付けられている。
中身をパラパラっと見ると見覚えがあるような、ないようなレイアウト。
ほとんどのページが使われてない。
なんだっけ、これ…。
とりあえず関係なさそうで、僕は出したものをトートバッグに全て仕舞った。

その時、獄寺君はといえば謎の記号が書かれた手紙を読んでいた。

「シュ…ゴ…シャ…ハ……シュウ…ゴウ…」

パキッと音がして振り返った。
ここは10年後の世界だという情報しかない視界の悪い森の中。
ツナ君と獄寺君が一緒にいるのは心強いけれど、10年後のツナ君もリボーン様も高い確率で死んだかもしれなくて、本当は凄く不安で、怖くて。
そんな時に後ろで物音がして内心凄くビビった。
振り返った先には毛先がざっくばらんに跳ねている長い黒髪に特徴的な赤いゴーグル、右肩に猿のようなゴリラのような飾り、砂漠の砂ような色から始まり下になるにつれて赤くなる独特のマントに身を包んだ女性がいた。

「やはり…」

彼女は呟く。

「誰だ!!」

獄寺君が尋ねる。
彼女は答えない。

「はじめまして」

彼女は左手をマントから出す。
独特の籠手みたいなものがはめられていた。
一方の右手には大きな指輪を4つ嵌めていた。

「さようなら」

僕は獄寺君とツナ君の前に立った。

「な!!はあ!?」
「敵!!」
「2人共僕の後ろに!!」
「優希!頭下げろ!」
「うん!」

獄寺君は僕の頭上を通して彼女に向けてダイナマイトを投げた。
彼女は難なく避ける。

「逃がすかよ」

獄寺君はもう1度ダイナマイトを投げる。
今度はロケットボムだ。
ロケットボムは飛び上がった彼女の位置を正確に捉えたけど、彼女は左手の籠手から藍色のビームみたいなものを複数出し、全てのボムを爆発する前にまっぷたつにして爆発を小規模にしつつ、追加でこちらにビームを放ってくる。
スクーデで防御したけどいくつかのビームは僕の頭上の遥か上を超えて行って、ツナ君の後ろの地面や木に命中し、爆発を起こす。
まずいと思ってスクーデの範囲を広げようとするも時既に遅し。
頭上や後ろにはスクーデを張ってなかったせいで、爆風が獄寺君とツナ君を吹き飛ばした。
その一瞬を突いて、獄寺君は謎の檻に拘束された。
獄寺君の左手が檻にぶつかって「あぢっっ!!」と彼は声を上げた。

「獄寺君!」
「やばい!!どうしよう、リボーン!」
「やはりリングを使いこなせないのか…。宝の持ち腐れだな。」

彼女は何を言っているんだ?

「オレを恨むな。死ね。」
「やらせない!」

本当は僕の戦闘スタイル上前には出ない方がいい。
でも獄寺君とツナ君が分断されて守りにくくなった今、攻撃は最大の防御だ。
僕は彼女との距離を詰めた。
当然迎撃されてそれをスクーデで防御し、跳ね返す。
跳ね返った弾を彼女は僕から見て左に避ける。
その瞬間地面で何かが右に動いた気がしたけど、僕はそのまま彼女を追った。
反時計回りに弾丸を打ち込んでくるのでそれは全部お返ししながらどんどん距離を詰めつつ、獄寺君とツナ君には当たらないようにする。
やっと間近で攻撃できると思ったその時、一瞬甘い匂いがして力が抜けた。

「えっ…」
「お前の後ろから麻痺毒を撒いた。お前は密封された球体状にスクーデを張れば気化した毒も防げるが、仲間に流れ弾が当たらないよう隙間がある形でスクーデを張ると毒が効く。まんまと術中にハマったな。」

そんなモーションはどこにもなかったのに、いつ!?
体が勝手に地面に倒れ込む。
ふかふかの土のおかげとスクーデの発動で怪我は免れたけど、明らかにスクーデの制御能力が落ちている。

「優希!」
「守屋!」

ツナ君と獄寺君が僕を呼ぶ声がするけど、目が霞んで2人を見ることすら叶わない。

「10代目!!こいつなんかやばいっス!!に……逃げて下さい!」

獄寺君の判断は正しいと思う。
この場合ボスは逃げるべきだ。

「逃げて!ツナ君!」

その後はしばらく何が起きているのか見れなかった。
まさかの獄寺君は彼女が女性だと気付いていなかったみたいで、戦闘中に気付いて驚いていた。
というかツナ君とリボーン様のことをよく知っているし、「生きたきゃ生きろ」とか言うし、死ぬ気の炎が使えるらしいし、敵にしては言動が可笑しい。
戦闘を見れているわけじゃないけど、彼女のやり方に生温さみたいなものを感じる。
目のかすみが落ち着き手足が動くようになった頃、決着がついた。

「こんな初歩的なトラップにかかるとは情けないな、ボンゴレ10代目。」

彼女はツナ君に左手の武器を向けた。

「待ちやがれ!」
「そうだ!やるなら僕から!」
「及第点だ。殺すのは見送ってやる。」

彼女はゴーグルを外した。

「オレの名はラル・ミルチ。」

名前を名乗った後、彼女は獄寺君の拘束を解いた。
知っている名前だ。
叔父さんにボンゴレの主要な関係者の名前は全て叩き込まれている。
確かCEDEF所属なはずだ。
ただ、僕が聞いた限りではラル・ミルチはアルコバレーノのなりそこないで、永く赤ん坊の姿をしているはずだ。
たった10年間で大人の女性になったということなんだろうか?

とりあえず、腕にしっかり力が込められるようになったので上体を起こす。
まだ立たない方が良さそうだけど、だいぶ麻痺は抜けたらしい。
獄寺君は急いでツナ君のもとへ駆け付けた。

「10代目、おケガは!」

ツナ君は答えるのもしんどそうだ。

「派手に暴れ過ぎたな。このままでは奴らに見つかるのも時間の問題だ。これをボンゴレリングに巻き付けろ。」

そう言って彼女は小さな鎖2つをツナ君達の近くの地面に投げた。
あれ、これ10年後の僕の荷物に入っていた指輪に巻かれていたものと同じものだ。

「マモンチェーンと言って、指輪の力を封印する鎖だ。」

ということは10年後の僕の指輪も封印しなければならない代物なんだろうか。
そう考えれば趣味じゃない指輪を持ってるのも頷けるかも。
獄寺君がラルさんに文句をつけて疑問をぶつけたけど、彼女はスルーした。

「急いでここを立ち去る。ハダシじゃ無理だ、これをはけ。守屋優希は靴がなくても問題ないな?」
「うん…」

やっぱりこの人、僕の能力もよく知っている。
バリエラには毒が有効という情報を押さえていたし、僕が靴の代わりに足元にスクーデを張れば痛みを伴うことなく走れるって知ってるんだ。

「ちょっと待ってください!!オレ達過去から来たんです!!さっきから驚くことばかりで何が何だかさっぱり…!!」
「口ごたえするな。」

ツナ君の抗議にラルさんは籠手みたいな武器をツナ君に向ける。
僕はツナ君とラルさんの間にとっさに立った。
もう体は完全に動くようだ。

「ふざんけんな!!なんでてめーの言うことを!!」
「ついてこれない奴は死んでくれた方が助かる。オレには時間がないんだ。知りたいことは目的地に着いてから調べるんだな。」
「目的地?」
「お前達のアジトだ。」

それを聞いて僕らはリボーン様がアジトにいるんじゃないかと淡い期待を抱く。
僕らの時代のリボーン様がいなくてもこの時代のリボーン様がいるんじゃないかと。
ラルさんはそれを一蹴した。

「オレの体が成長するのも、こうして生き永らえているのも、オレがなりそこないだからだ…。コロネロ…バイパー……スカル……。最強の赤ん坊アルコバレーノ達は皆…死んでいった………。もちろん、リボーンも…いない。」

やっぱり………そうなんだ。
この時代のリボーン様は亡くなっているんだ。
それにラルさんが大人な理由も"なりそこない"であることが関係しているんだ。
納得したスッキリ感よりも絶望が勝った僕は言葉を発せなくなって、とりあえず走り出したラルさんについて行った。

- 20 -

prev | next

back to index
back to top