一族の業
結局ラルさんは夕方頃に川辺で野宿をすると言い出して、僕らは食糧探しをした。
いつもならツナ君から離れないけど、護衛に専念し過ぎて食糧が無くてみんなで餓死するなんて笑えないから、しばらくツナ君達とは別行動した。
魚をいくつか捕まえた後3人と合流したら、何故かツナ君と獄寺君はびしょびしょな上に鼻血を出していた。
とりあえず食糧はラルさんが捕まえた魚と僕が捕まえた魚で4人分賄い切れた。
そしてラルさんは時間ができたと言ってこの時代のことを話してくれた。
それは衝撃の事実だった。
ボンゴレ本部が2日前に壊滅状態に陥った。
その事実は僕の背筋を凍らせた。
10年後の獄寺君も名前を出していた白蘭という人が率いるミルフィオーレファミリーは、この時代では戦局を左右する武器を強奪することで力をつけ、ボンゴレを急襲してきたらしい。
…と説明を受けていたところで急にラルさんの目の色が変わった。
敵が接近しているらしい。
岩陰に隠れているとモスカが現れた。
ラルさんによると僕らが見てるそのモスカはゴーラ・モスカの2世代後のモスカ、ストゥラオ・モスカらしい。
ラルさんはリングの力を探知するモスカに見つかりっこないと言っていたけど、モスカは途中で進行方向を変えて僕らの方へ真っ直ぐ向かってきた。
「バカな!!おまえ達、ボンゴレリング以外のリングは持っていないな。」
「ああ…さっき見せたので全部だ…」
「僕も10年後の僕が持ってたやつだけ…」
「オレも…あ!」
ツナ君は何かを思い出したようにポケットを弄った。
ポケットから出てきたのはランチアさんから貰ったリングだった。
「ランチアさんに貰ったリングが。」
「そのリングは…!!なぜ話さなかった!!4人でも倒せる相手じゃない!全滅だ…」
「ラルさん、僕の球状のスクーデなら地中からの攻撃含めて全て守れます。」
「ダメだ!そもそもおまえのスクーデは物理的攻撃を受けなければ発動できず、維持ができないのが欠点だ!ここで足止めをくらってミルフィオーレに見つかればお前でも全員を守りきれない!さっきオレがやってみせたようにおまえを倒すやり方はいくらでもある!モスカにはできなくとも人間にはな!」
そう言われるとそうだ。
僕は毒に弱いし、スクーデはもともと物理的攻撃に対して自動で発動する能力。
攻撃が当たる直前までは張ることができなくて、攻撃が止んだ後長く張れないことは欠点だ。
「へっ…弱気じゃねーか。自慢のリングは役に立たねーのかよ!」
「戦いは力だけではない!相性が重要なんだ!!」
モスカは銃口のような形をした指先を僕らに向ける。
まずい…!
「アジトまであとわずかというところで…!くそっ」
ラルさんはモスカの前に姿を晒し、武器を構えた。
するとモスカの背後から何かが飛び出して、モスカの頭に衝撃波を食らわせた。
うん、リング争奪戦の雨戦で見たやつだ。
「鮫特攻 。こいつで1分は稼げるはずだ。助っ人とーじょーっ。」
……山本君だ。
10年後の山本君だ。
ただでさえ、背が高かったのにもっと高くなってる。
180は余裕で超えてそう。
山本君は剣を背中の鞘に納める。
僕らも山本君に近付いた。
「ま…まさか、おまえ…」
「や…山本!?」
「あれ?悪い冗談じゃ…ねーよな。門外顧問とこの使者を迎えに来たらおまえらまでって…。ん…?でも、縮んでねーか?幻…?妖怪か?てか守屋は体調大丈夫なのか?」
「体調…?」
ボケ方が山本君らしくてちょっと安心したけど、なんで僕の体調を心配しているんだろう?
10年後の僕って病気でもしてたのかな?
それなら10年後の獄寺君が10年後の僕を心配してたのも納得かも。
10年前の医療技術で治らない病気なら、この入れ替わったままの状況は致命的かもしれない。
ツナ君は僕らが10年バズーカで入れ替わってしまったことを山本君に説明し、山本君は納得したようだった。
「どーりでな………。元気そうだな、ツナ。」
なんというかこの一連のやりとり、この時代のツナ君が亡くなっているせいなんだろうな。
そりゃ、妖怪か?って疑いたくもなるよな。
「とりあえず行こーぜ。こんな奴…相手にするだけ損だ。」
山本君の言葉に従って僕らはモスカから離れ、ひたすら夜の山道を歩いた。
ツナ君と山本君はいつもの調子で会話をしている。
そして獄寺君はずっと非難がましい目で山本君を睨んでいる。
多分、10年後のツナ君のこと、守護者として何で守れなかったんだとか思ってるんだろうな。
「この10年間、おまえはそりゃーすごかったんだぜ、ツナ!!」
山本君は肩を組むノリでツナ君の頭に肘をかける。
うん、さすがに身長差ありすぎだ。
「獄寺、おまえもな。」
獄寺君の心情を知ってか知らずか、彼は獄寺君にもそう言う。
そして僕にも。
「守屋もな。」
「おい…走らないのか?歩いていては朝までかかるぞ。」
ラルさんがどこか焦燥を孕んだ声で尋ねる。
山本君はラルさんの知っているアジトの位置はガセでもう着くのだと説明した。
そして僕や獄寺君も持っている、1箇所だけ穴の空いた立方体の箱を取り出す。
それに対して何かをした後、青い炎をまとった燕が飛び出してきた。
その炎はバジル君の死ぬ気の炎と酷似していた。
燕が上空を飛び回ると急に雨が降り出した。
まるでスコールだ。
「こっちだ。」
山本君の声がする方を見る。
そこには地下への入り口があった。
「降りるぜ。」
長い階段を降りると広い空間があって、ここは10年後のツナ君が作らせたボンゴレの拠点なんだと山本君は説明してくれた。
そして謎の帯状のバリアが張ってある入り口を通った時、ラルさんが倒れた。
山本君曰く、ラルさん達にとってここは外界と違うつくりになっていて、環境の急激な変化に体がショックを起こしたらしい。
でも"達"ってなんだろう?
とりあえずラルさんのことは山本君が運んでくれた。
案内された部屋には僕らの時代のリボーン様がいた。
いつものスーツではなく全身白タイツに身を包んでいたけど。
そして"達"の意味もわかった。
リボーン様はヘンテコな白タイツを着ていないと体調が悪くなるらしく、謎のバリアはリボーン様のために作られたらしい。
この時代に来て起こっている可笑しいことは過去に帰れないことやボンゴレがボロボロになっていることだけじゃなかったらしい。
リボーン様曰く、10年バズーカなのに僕らは9年10ヶ月後にいるらしい。
とりあえず見知らぬ土地ではなく、並盛に飛ばされたのは幸いだったとリボーン様は言う。
帰れない以上、この時代で起きていることは僕らの問題だと。
山本君はボンゴレの現状を説明してくれた。
全世界の拠点が同時に攻撃を受けていると。
「お前達も見たはずだぞ、ボンゴレマークのついた棺桶を。」
「それってオレのことー!?」
「てめえ!!」
獄寺君は山本君の左頬に拳を叩き込んだ。
避けられただろうに山本君は避けずにそれを受けた。
獄寺君がもう一発殴ろうとするので、僕は獄寺君を後ろから抱き締める形で止めた。
「やめて!獄寺君!」
獄寺君は僕を見ることもなく、山本君を責め立てる。
「何してやがった!!何で10代目があんなことに!!」
純粋なパワー勝負になるとやっぱり男の子に分がある。
正直あと数秒も保たない。
「ひいっ、獄寺君!」
ツナ君は真っ青だ。
山本君は辛そうに獄寺君から視線を逸らし、ただ一言「すまない」と謝罪した。
「てめえ、すまねーですむわけ…!!」
「やめろ、獄寺。10年後のおまえもいたんだぞ。」
その言葉で獄寺君の力が抜けて膝から崩れ落ちる。
怪我をしないようにゆっくり降ろして、僕は獄寺君からそっと離れた。
敵のミルフィオーレファミリーはボンゴレ本部が陥落した時点で交渉の席を用意して、実際には交渉などせず10年後のツナ君の命を奪ったらしい。
本当に10年後の僕は何をやってたんだ…。
「奴らの目的はボンゴレ側の人間を1人残らず殲滅することだ。」
山本君の言葉に背筋が凍りつく。
きっとバリエラの一族は全員抹殺対象だ。
お父さんもお母さんも、そして叔父さんも…。
「つ…つまり過去から来たオレ達も危ないってこと…?」
「それだけじゃねーぞ。おまえ達と関わりのあった知り合いも的にかけられてるんだ。」
「そ……それって!」
きっとツナ君の頭の中を過ったのは奈々さんや京子ちゃん達だろう。
「うろたえんな。まだ希望がなくなったわけじゃねぇ。山本、バラバラに散ったとはいえ、まだファミリーの守護者の死亡は確認されてねーんだな。」
「ああ…」
「ならやることは1つだ。おまえはちりぢりになった6人の守護者を集めるんだ。」
理解の追いついていないツナ君にリボーン様は、ボンゴレの危機において歴代ボンゴレは必ず守護者を6人を集め困難を打ち破ってきたと説明した。
ツナ君的にはそんな話よりボンゴレ狩りの対象の方が大事らしく強い口調でそれを尋ねた。
京子ちゃんとハルちゃんはこの時代のランボ君とイーピンちゃんが迎えに行ったらしい。
奈々さんは家光さんとイタリア旅行に行っていたらしく、状況はわからないそう。
それはきっと、恐らく……。
ビアンキさんとフゥ太君は情報収集に出ているらしい。
ロンシャン君や持田さんも消されたという。
山本君のお父さんも……。
「優希、由佳も消されたそうだ。」
「お母さんも……9代目と家光さんが行方不明ってことは叔父さんとお父さんも消されただろうし、生きているバリエラは僕だけか……」
叔父さんもお母さんも、9代目も、家光さんも奈々さんも、みんな、僕の守りたい大切な人達なのに…!!
僕は感情が昂ってもう制御できなくなって、山本君に半分八つ当たりのように叫んだ。
「ねえ…!この時代の僕は何をやってたの!?守りたい人、誰1人守れないで!!」
目頭が熱くなる。
悔しい。
歴代最強のバリエラだとか、そんなことで驕っていた自分が恥ずかしい。
「守屋……それは…」
山本君は答え辛そうに視線を外す。
先に口を開いたのはリボーン様だった。
「優希、この時代のおまえはそれ以上に守るべきものがあったんだ。」
「ツナ君よりも!?」
「ああ、ツナよりもだ。」
「リボーンさん!何言ってるんスか!守屋にとって、10代目以上にお守りすべき人なんていないじゃないスか!」
「10年前ならな。」
含みのある言い方をする。
山本君は小さく溜め息をついた。
「こういうのってどこまで話していいかわかんねーが、おまえが自分を責めねーように1つだけ教えとくな。この時代のおまえは妊娠してたんだ。」
「えっ…」
山本君が投下した爆弾に僕はびっくりして力が抜けて膝から崩れ落ち、地面に手をついた。
「僕…が………妊娠?」
だって僕は……。
「えーーー!?優希が妊娠!?」
後ろでツナ君が驚いている。
獄寺君は黙っているから反応がわからない。
頭を上げて山本君の目を改めて見ると嘘は絶対に言ってなかった。
でも、信じられなかった。
「う…嘘だ……だって、だって……僕は……いや…バリエラの一族は…!!」
「近親婚を繰り返したせいで子供なんかもうできねーはずだって思ってんのか?」
リボーン様は僕が思っていることを的確に当てた。
「確かにバリエラの一族は近親婚のせいで血が濃くなり過ぎて、子供ができにくく、産まれた子供も病気や障害を持っているケースが多いな。おまえも由佳がぼろぼろになりながら不妊治療を続けた上でやっと授かったと聞いてる。」
そう、それがバリエラの一族の業だ。
バリエラ同士で子供を作ればスクーデの能力を引き継ぐ可能性も高いはずと一族の中で結婚を繰り返してきた。
だからこそ妊娠しにくく、流産・死産することも多く、産まれても体が弱かったり、障害を持っていることが多々あった。
イタリアの本家には一生の支援を必要とする親類もいる。
ハプスブルク家みたいな感じだ。
一時期は5つあった分家も1つになり、その分家さえ叔父さんしかスクーデを使える人はもういなくて、一族の者としか結婚してはいけないという掟のせいで、叔父さんは結婚できる相手がいない。
そしてそれは僕も一緒。
でもそもそも僕なんて近親婚の集大成みたいな生き物。
現に初潮もまだだ。
だから僕は妊娠なんて無理だと思っていた。
「おまえが妊娠できねーって思い込むのも無理ねーが、事実この時代のおまえはできたようだぞ。」
ふと、10年後の僕の荷物に入っていた手帳のことを思い出して、慌ててソファに駆け寄り、そこに置いておいたバッグを漁ってそれを取り出した。
カバーを外すと表紙に思いっきり母子健康手帳と書かれていて、名前の欄には僕の字で僕の名前が記入されていた。
「僕……妊娠……できるんだ……」
すごく不思議な気分だった。
子供の頃から当たり前に自分の人生はツナ君に捧げて終わりなのだと思っていたから。
一族の業を僕の代で食い止めるには、僕が不妊である方が都合が良いとさえ思っていた。
だから仮に僕が妊娠できる体質だとしても、子供作ったことが不思議だった。
いつの間にかみんな僕の周りに集まっていて、母子手帳を覗いていた。
「それでわかっただろ?10年後のおまえが最優先すべきだったもの。」
「それは……わかったけど……」
「まっ、それでもこの時代の守屋は守りに絶対の自信があったからツナに会談についてくって言って聞かなかったんだけどよ、そりゃーもーツナと獄寺が猛反対して譲らなかったんだ。オレも反対したしな。」
山本君は僕の頭を撫でた。
「この時代のおまえは母親として正しい判断をしたんだ。あんまり自分をそう責めるな。」
「山本君………」
僕は少し落ち着いたから別の疑問が湧いてきた。
「そもそも父親って誰?」
その言葉に山本君は固まって頬をかいた。
どうやら知っているらしい。
リボーン様が僕の肩の上に乗ってくる。
「知らねー方がいいだろう。変に意識しちまうぞ、優希。」
「そうですか?」
「この時代のおまえが付き合ってた相手と無理に付き合う必要はねーんだ。おまえが自由に恋愛するためにも知らねー方がいい。」
「……わかりました。リボーン様がそうおっしゃるなら。……ってあれ?付き合ってた人?結婚してなかったの?」
「あー……」
山本君は苦笑した。
「実はよ、この時代のおまえも自分が妊娠すると思ってなくて油断してたらしい。子供できたから急遽籍入れますってノリだったぜ。」
「あー……つまり不妊体質だから避妊しなくていいやって思ってたんだ。」
「オイ!!山本!!ソイツ誰なんだよ!?そんな無責任に守屋をにっ…妊娠させやがって!!一発殴らねーと気がすまねぇ!!」
顔を真っ赤にした獄寺君が山本君に掴みかかって問い詰める。
なんやかんやこういうとこ紳士的で優しいよなぁ、獄寺君って。
「まあまあ、別にデキ婚っつっても2人共もとから結婚するつもりがあって早まっただけみてーだから良いじゃねーか。オレはアイツのこと無責任だとは思ってねーぜ。この10年間どれだけ守屋を大事にしてたか見てきたし、守屋が妊娠してからは子供のことも凄く大切にしてたし。」
「…っ!!」
うーん、話から察するに山本君ではないんだな。
山本君が10年間見守れるような近い距離感の人ってことはわかった。
そうなるとツナ君、獄寺君、あとは笹川さんとか?
いや、野球部の人とかこれから仲良くなる並中生って線もあるな。
そもそもツナ君って線はないよな。
ツナ君は京子ちゃんが好きなんだし。
あれ、なんか心の奥がズキリとする。
うん、考えないようにしよう。
「おい、守屋、」
いつの間にか獄寺君は僕の目の前にいて、両肩に手を置いてきた。
緑色の瞳が僕を真っ直ぐ捉える。
「オレが変な男からてめーを守る。おまえも無責任な男に引っかかってんじゃねぇ。」
「あ…ありがとう?でも、山本君の話的に良い人そうだけど……」
「るせぇ!ダメだ!結婚前に子供 作るなんてロクな男じゃねぇ!!」
獄寺君って結構お堅いんだなー。
もし僕の相手が獄寺君だったら、盛大なブーメランな気はするけど…。
まあ、ツナ君第一の獄寺君に限って女性にうつつを抜かすことはないか。
僕が獄寺君を異性として意識するのも、獄寺君が僕に惚れるのもなんか想像つかないし。
「わかった、気をつけるよ。」
僕の返事を聞いて獄寺君は肩から手を離した。
「ああ、そうしやがれ。ったく…」
獄寺君はそう言って頭をかいた。
この後この場はとりあえず解散になって、山本君からとりあえず泊まる部屋に案内してもらった。
ツナ君と獄寺君は同室で、僕はその隣の部屋を借りることになった。
深夜の2時を回った頃、色々考えしまってなかなか寝付けなかった僕はアジトの廊下を彷徨き、さっきの部屋の前に着いた。
まだ明かりはついていて、リボーン様と山本君が話し合いをしていた。
「リボーン様、山本君……」
僕は入り口から声をかけた。
「どーしたんだ、優希。」
「その……寝れなかったのと…お願いがありまして…」
「なんだ?言ってみろ。」
「リボーン様の目の届く範囲でツナ君を守っちゃいけないという命令、撤回していただけませんか?」
「!」
いつもなら即答するリボーン様がしばし黙った。
「…その命令は9代目が下したものだ。オレが撤回できるもんじゃねぇ。だが、この時代の9代目は消息不明……各々の判断で動くしかねーだろうな。優希、戦闘への参加は許可する。だが、守るべき対象はその都度優先順位をつけて守れ。」
「それは……どういうことですか?」
「ツナが自分で守れる相手と戦ってんならわざわざ守る必要はねぇ。それよりも他のファミリーで危ない奴を守ってやれ。」
「……バリエラにとってはなかなか難しいお願いをしますね、リボーン様。でも……了解しました。だって僕は……みんなを守りたいから。」
戦闘許可が降りたことで少しだけ気持ちが軽くなった。
明日からしっかり自分を鍛えよう。
いつもならツナ君から離れないけど、護衛に専念し過ぎて食糧が無くてみんなで餓死するなんて笑えないから、しばらくツナ君達とは別行動した。
魚をいくつか捕まえた後3人と合流したら、何故かツナ君と獄寺君はびしょびしょな上に鼻血を出していた。
とりあえず食糧はラルさんが捕まえた魚と僕が捕まえた魚で4人分賄い切れた。
そしてラルさんは時間ができたと言ってこの時代のことを話してくれた。
それは衝撃の事実だった。
その事実は僕の背筋を凍らせた。
10年後の獄寺君も名前を出していた白蘭という人が率いるミルフィオーレファミリーは、この時代では戦局を左右する武器を強奪することで力をつけ、ボンゴレを急襲してきたらしい。
…と説明を受けていたところで急にラルさんの目の色が変わった。
敵が接近しているらしい。
岩陰に隠れているとモスカが現れた。
ラルさんによると僕らが見てるそのモスカはゴーラ・モスカの2世代後のモスカ、ストゥラオ・モスカらしい。
ラルさんはリングの力を探知するモスカに見つかりっこないと言っていたけど、モスカは途中で進行方向を変えて僕らの方へ真っ直ぐ向かってきた。
「バカな!!おまえ達、ボンゴレリング以外のリングは持っていないな。」
「ああ…さっき見せたので全部だ…」
「僕も10年後の僕が持ってたやつだけ…」
「オレも…あ!」
ツナ君は何かを思い出したようにポケットを弄った。
ポケットから出てきたのはランチアさんから貰ったリングだった。
「ランチアさんに貰ったリングが。」
「そのリングは…!!なぜ話さなかった!!4人でも倒せる相手じゃない!全滅だ…」
「ラルさん、僕の球状のスクーデなら地中からの攻撃含めて全て守れます。」
「ダメだ!そもそもおまえのスクーデは物理的攻撃を受けなければ発動できず、維持ができないのが欠点だ!ここで足止めをくらってミルフィオーレに見つかればお前でも全員を守りきれない!さっきオレがやってみせたようにおまえを倒すやり方はいくらでもある!モスカにはできなくとも人間にはな!」
そう言われるとそうだ。
僕は毒に弱いし、スクーデはもともと物理的攻撃に対して自動で発動する能力。
攻撃が当たる直前までは張ることができなくて、攻撃が止んだ後長く張れないことは欠点だ。
「へっ…弱気じゃねーか。自慢のリングは役に立たねーのかよ!」
「戦いは力だけではない!相性が重要なんだ!!」
モスカは銃口のような形をした指先を僕らに向ける。
まずい…!
「アジトまであとわずかというところで…!くそっ」
ラルさんはモスカの前に姿を晒し、武器を構えた。
するとモスカの背後から何かが飛び出して、モスカの頭に衝撃波を食らわせた。
うん、リング争奪戦の雨戦で見たやつだ。
「
……山本君だ。
10年後の山本君だ。
ただでさえ、背が高かったのにもっと高くなってる。
180は余裕で超えてそう。
山本君は剣を背中の鞘に納める。
僕らも山本君に近付いた。
「ま…まさか、おまえ…」
「や…山本!?」
「あれ?悪い冗談じゃ…ねーよな。門外顧問とこの使者を迎えに来たらおまえらまでって…。ん…?でも、縮んでねーか?幻…?妖怪か?てか守屋は体調大丈夫なのか?」
「体調…?」
ボケ方が山本君らしくてちょっと安心したけど、なんで僕の体調を心配しているんだろう?
10年後の僕って病気でもしてたのかな?
それなら10年後の獄寺君が10年後の僕を心配してたのも納得かも。
10年前の医療技術で治らない病気なら、この入れ替わったままの状況は致命的かもしれない。
ツナ君は僕らが10年バズーカで入れ替わってしまったことを山本君に説明し、山本君は納得したようだった。
「どーりでな………。元気そうだな、ツナ。」
なんというかこの一連のやりとり、この時代のツナ君が亡くなっているせいなんだろうな。
そりゃ、妖怪か?って疑いたくもなるよな。
「とりあえず行こーぜ。こんな奴…相手にするだけ損だ。」
山本君の言葉に従って僕らはモスカから離れ、ひたすら夜の山道を歩いた。
ツナ君と山本君はいつもの調子で会話をしている。
そして獄寺君はずっと非難がましい目で山本君を睨んでいる。
多分、10年後のツナ君のこと、守護者として何で守れなかったんだとか思ってるんだろうな。
「この10年間、おまえはそりゃーすごかったんだぜ、ツナ!!」
山本君は肩を組むノリでツナ君の頭に肘をかける。
うん、さすがに身長差ありすぎだ。
「獄寺、おまえもな。」
獄寺君の心情を知ってか知らずか、彼は獄寺君にもそう言う。
そして僕にも。
「守屋もな。」
「おい…走らないのか?歩いていては朝までかかるぞ。」
ラルさんがどこか焦燥を孕んだ声で尋ねる。
山本君はラルさんの知っているアジトの位置はガセでもう着くのだと説明した。
そして僕や獄寺君も持っている、1箇所だけ穴の空いた立方体の箱を取り出す。
それに対して何かをした後、青い炎をまとった燕が飛び出してきた。
その炎はバジル君の死ぬ気の炎と酷似していた。
燕が上空を飛び回ると急に雨が降り出した。
まるでスコールだ。
「こっちだ。」
山本君の声がする方を見る。
そこには地下への入り口があった。
「降りるぜ。」
長い階段を降りると広い空間があって、ここは10年後のツナ君が作らせたボンゴレの拠点なんだと山本君は説明してくれた。
そして謎の帯状のバリアが張ってある入り口を通った時、ラルさんが倒れた。
山本君曰く、ラルさん達にとってここは外界と違うつくりになっていて、環境の急激な変化に体がショックを起こしたらしい。
でも"達"ってなんだろう?
とりあえずラルさんのことは山本君が運んでくれた。
案内された部屋には僕らの時代のリボーン様がいた。
いつものスーツではなく全身白タイツに身を包んでいたけど。
そして"達"の意味もわかった。
リボーン様はヘンテコな白タイツを着ていないと体調が悪くなるらしく、謎のバリアはリボーン様のために作られたらしい。
この時代に来て起こっている可笑しいことは過去に帰れないことやボンゴレがボロボロになっていることだけじゃなかったらしい。
リボーン様曰く、10年バズーカなのに僕らは9年10ヶ月後にいるらしい。
とりあえず見知らぬ土地ではなく、並盛に飛ばされたのは幸いだったとリボーン様は言う。
帰れない以上、この時代で起きていることは僕らの問題だと。
山本君はボンゴレの現状を説明してくれた。
全世界の拠点が同時に攻撃を受けていると。
「お前達も見たはずだぞ、ボンゴレマークのついた棺桶を。」
「それってオレのことー!?」
「てめえ!!」
獄寺君は山本君の左頬に拳を叩き込んだ。
避けられただろうに山本君は避けずにそれを受けた。
獄寺君がもう一発殴ろうとするので、僕は獄寺君を後ろから抱き締める形で止めた。
「やめて!獄寺君!」
獄寺君は僕を見ることもなく、山本君を責め立てる。
「何してやがった!!何で10代目があんなことに!!」
純粋なパワー勝負になるとやっぱり男の子に分がある。
正直あと数秒も保たない。
「ひいっ、獄寺君!」
ツナ君は真っ青だ。
山本君は辛そうに獄寺君から視線を逸らし、ただ一言「すまない」と謝罪した。
「てめえ、すまねーですむわけ…!!」
「やめろ、獄寺。10年後のおまえもいたんだぞ。」
その言葉で獄寺君の力が抜けて膝から崩れ落ちる。
怪我をしないようにゆっくり降ろして、僕は獄寺君からそっと離れた。
敵のミルフィオーレファミリーはボンゴレ本部が陥落した時点で交渉の席を用意して、実際には交渉などせず10年後のツナ君の命を奪ったらしい。
本当に10年後の僕は何をやってたんだ…。
「奴らの目的はボンゴレ側の人間を1人残らず殲滅することだ。」
山本君の言葉に背筋が凍りつく。
きっとバリエラの一族は全員抹殺対象だ。
お父さんもお母さんも、そして叔父さんも…。
「つ…つまり過去から来たオレ達も危ないってこと…?」
「それだけじゃねーぞ。おまえ達と関わりのあった知り合いも的にかけられてるんだ。」
「そ……それって!」
きっとツナ君の頭の中を過ったのは奈々さんや京子ちゃん達だろう。
「うろたえんな。まだ希望がなくなったわけじゃねぇ。山本、バラバラに散ったとはいえ、まだファミリーの守護者の死亡は確認されてねーんだな。」
「ああ…」
「ならやることは1つだ。おまえはちりぢりになった6人の守護者を集めるんだ。」
理解の追いついていないツナ君にリボーン様は、ボンゴレの危機において歴代ボンゴレは必ず守護者を6人を集め困難を打ち破ってきたと説明した。
ツナ君的にはそんな話よりボンゴレ狩りの対象の方が大事らしく強い口調でそれを尋ねた。
京子ちゃんとハルちゃんはこの時代のランボ君とイーピンちゃんが迎えに行ったらしい。
奈々さんは家光さんとイタリア旅行に行っていたらしく、状況はわからないそう。
それはきっと、恐らく……。
ビアンキさんとフゥ太君は情報収集に出ているらしい。
ロンシャン君や持田さんも消されたという。
山本君のお父さんも……。
「優希、由佳も消されたそうだ。」
「お母さんも……9代目と家光さんが行方不明ってことは叔父さんとお父さんも消されただろうし、生きているバリエラは僕だけか……」
叔父さんもお母さんも、9代目も、家光さんも奈々さんも、みんな、僕の守りたい大切な人達なのに…!!
僕は感情が昂ってもう制御できなくなって、山本君に半分八つ当たりのように叫んだ。
「ねえ…!この時代の僕は何をやってたの!?守りたい人、誰1人守れないで!!」
目頭が熱くなる。
悔しい。
歴代最強のバリエラだとか、そんなことで驕っていた自分が恥ずかしい。
「守屋……それは…」
山本君は答え辛そうに視線を外す。
先に口を開いたのはリボーン様だった。
「優希、この時代のおまえはそれ以上に守るべきものがあったんだ。」
「ツナ君よりも!?」
「ああ、ツナよりもだ。」
「リボーンさん!何言ってるんスか!守屋にとって、10代目以上にお守りすべき人なんていないじゃないスか!」
「10年前ならな。」
含みのある言い方をする。
山本君は小さく溜め息をついた。
「こういうのってどこまで話していいかわかんねーが、おまえが自分を責めねーように1つだけ教えとくな。この時代のおまえは妊娠してたんだ。」
「えっ…」
山本君が投下した爆弾に僕はびっくりして力が抜けて膝から崩れ落ち、地面に手をついた。
「僕…が………妊娠?」
だって僕は……。
「えーーー!?優希が妊娠!?」
後ろでツナ君が驚いている。
獄寺君は黙っているから反応がわからない。
頭を上げて山本君の目を改めて見ると嘘は絶対に言ってなかった。
でも、信じられなかった。
「う…嘘だ……だって、だって……僕は……いや…バリエラの一族は…!!」
「近親婚を繰り返したせいで子供なんかもうできねーはずだって思ってんのか?」
リボーン様は僕が思っていることを的確に当てた。
「確かにバリエラの一族は近親婚のせいで血が濃くなり過ぎて、子供ができにくく、産まれた子供も病気や障害を持っているケースが多いな。おまえも由佳がぼろぼろになりながら不妊治療を続けた上でやっと授かったと聞いてる。」
そう、それがバリエラの一族の業だ。
バリエラ同士で子供を作ればスクーデの能力を引き継ぐ可能性も高いはずと一族の中で結婚を繰り返してきた。
だからこそ妊娠しにくく、流産・死産することも多く、産まれても体が弱かったり、障害を持っていることが多々あった。
イタリアの本家には一生の支援を必要とする親類もいる。
ハプスブルク家みたいな感じだ。
一時期は5つあった分家も1つになり、その分家さえ叔父さんしかスクーデを使える人はもういなくて、一族の者としか結婚してはいけないという掟のせいで、叔父さんは結婚できる相手がいない。
そしてそれは僕も一緒。
でもそもそも僕なんて近親婚の集大成みたいな生き物。
現に初潮もまだだ。
だから僕は妊娠なんて無理だと思っていた。
「おまえが妊娠できねーって思い込むのも無理ねーが、事実この時代のおまえはできたようだぞ。」
ふと、10年後の僕の荷物に入っていた手帳のことを思い出して、慌ててソファに駆け寄り、そこに置いておいたバッグを漁ってそれを取り出した。
カバーを外すと表紙に思いっきり母子健康手帳と書かれていて、名前の欄には僕の字で僕の名前が記入されていた。
「僕……妊娠……できるんだ……」
すごく不思議な気分だった。
子供の頃から当たり前に自分の人生はツナ君に捧げて終わりなのだと思っていたから。
一族の業を僕の代で食い止めるには、僕が不妊である方が都合が良いとさえ思っていた。
だから仮に僕が妊娠できる体質だとしても、子供作ったことが不思議だった。
いつの間にかみんな僕の周りに集まっていて、母子手帳を覗いていた。
「それでわかっただろ?10年後のおまえが最優先すべきだったもの。」
「それは……わかったけど……」
「まっ、それでもこの時代の守屋は守りに絶対の自信があったからツナに会談についてくって言って聞かなかったんだけどよ、そりゃーもーツナと獄寺が猛反対して譲らなかったんだ。オレも反対したしな。」
山本君は僕の頭を撫でた。
「この時代のおまえは母親として正しい判断をしたんだ。あんまり自分をそう責めるな。」
「山本君………」
僕は少し落ち着いたから別の疑問が湧いてきた。
「そもそも父親って誰?」
その言葉に山本君は固まって頬をかいた。
どうやら知っているらしい。
リボーン様が僕の肩の上に乗ってくる。
「知らねー方がいいだろう。変に意識しちまうぞ、優希。」
「そうですか?」
「この時代のおまえが付き合ってた相手と無理に付き合う必要はねーんだ。おまえが自由に恋愛するためにも知らねー方がいい。」
「……わかりました。リボーン様がそうおっしゃるなら。……ってあれ?付き合ってた人?結婚してなかったの?」
「あー……」
山本君は苦笑した。
「実はよ、この時代のおまえも自分が妊娠すると思ってなくて油断してたらしい。子供できたから急遽籍入れますってノリだったぜ。」
「あー……つまり不妊体質だから避妊しなくていいやって思ってたんだ。」
「オイ!!山本!!ソイツ誰なんだよ!?そんな無責任に守屋をにっ…妊娠させやがって!!一発殴らねーと気がすまねぇ!!」
顔を真っ赤にした獄寺君が山本君に掴みかかって問い詰める。
なんやかんやこういうとこ紳士的で優しいよなぁ、獄寺君って。
「まあまあ、別にデキ婚っつっても2人共もとから結婚するつもりがあって早まっただけみてーだから良いじゃねーか。オレはアイツのこと無責任だとは思ってねーぜ。この10年間どれだけ守屋を大事にしてたか見てきたし、守屋が妊娠してからは子供のことも凄く大切にしてたし。」
「…っ!!」
うーん、話から察するに山本君ではないんだな。
山本君が10年間見守れるような近い距離感の人ってことはわかった。
そうなるとツナ君、獄寺君、あとは笹川さんとか?
いや、野球部の人とかこれから仲良くなる並中生って線もあるな。
そもそもツナ君って線はないよな。
ツナ君は京子ちゃんが好きなんだし。
あれ、なんか心の奥がズキリとする。
うん、考えないようにしよう。
「おい、守屋、」
いつの間にか獄寺君は僕の目の前にいて、両肩に手を置いてきた。
緑色の瞳が僕を真っ直ぐ捉える。
「オレが変な男からてめーを守る。おまえも無責任な男に引っかかってんじゃねぇ。」
「あ…ありがとう?でも、山本君の話的に良い人そうだけど……」
「るせぇ!ダメだ!結婚前に
獄寺君って結構お堅いんだなー。
もし僕の相手が獄寺君だったら、盛大なブーメランな気はするけど…。
まあ、ツナ君第一の獄寺君に限って女性にうつつを抜かすことはないか。
僕が獄寺君を異性として意識するのも、獄寺君が僕に惚れるのもなんか想像つかないし。
「わかった、気をつけるよ。」
僕の返事を聞いて獄寺君は肩から手を離した。
「ああ、そうしやがれ。ったく…」
獄寺君はそう言って頭をかいた。
この後この場はとりあえず解散になって、山本君からとりあえず泊まる部屋に案内してもらった。
ツナ君と獄寺君は同室で、僕はその隣の部屋を借りることになった。
深夜の2時を回った頃、色々考えしまってなかなか寝付けなかった僕はアジトの廊下を彷徨き、さっきの部屋の前に着いた。
まだ明かりはついていて、リボーン様と山本君が話し合いをしていた。
「リボーン様、山本君……」
僕は入り口から声をかけた。
「どーしたんだ、優希。」
「その……寝れなかったのと…お願いがありまして…」
「なんだ?言ってみろ。」
「リボーン様の目の届く範囲でツナ君を守っちゃいけないという命令、撤回していただけませんか?」
「!」
いつもなら即答するリボーン様がしばし黙った。
「…その命令は9代目が下したものだ。オレが撤回できるもんじゃねぇ。だが、この時代の9代目は消息不明……各々の判断で動くしかねーだろうな。優希、戦闘への参加は許可する。だが、守るべき対象はその都度優先順位をつけて守れ。」
「それは……どういうことですか?」
「ツナが自分で守れる相手と戦ってんならわざわざ守る必要はねぇ。それよりも他のファミリーで危ない奴を守ってやれ。」
「……バリエラにとってはなかなか難しいお願いをしますね、リボーン様。でも……了解しました。だって僕は……みんなを守りたいから。」
戦闘許可が降りたことで少しだけ気持ちが軽くなった。
明日からしっかり自分を鍛えよう。
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