姉弟の家庭事情

アジトに戻った後、情報収集に出ていたビアンキさんとフゥ太君が帰ってきて、元風紀副委員長の草壁さんも交えて僕らは情報を整理した。
やはりヒバードのSOSは敵の罠でも何でもなく、京子ちゃんの救援のために飛ばされたもので、途中で信号が消えたのはただのバッテリーの接触不良だった。
雲雀さんは並中の風紀委員を母体とした組織を運営し、そのトップに立っているらしい。
ビアンキさん達の情報はもっと重大で、僕らの1番の標的である入江正一は日本に戻ってきていて、ミルフィオーレの日本支部は並盛駅地下のショッピングモールから侵入できるらしい。
僕らがいかに早くパワーアップできるかで、こちらが攻め込むかあちらから攻めてくるかが決まるということだ。
身が引き締まる思いだった。

しばらく僕とツナ君はラルさんに修行を見てもらった。
ツナ君はハイパーモードでの炎の強化訓練で、僕は(ボックス)との連携強化訓練だ。
これにはビアンキさんも手を貸してくれて、10年後の僕が使っていたという他の2つのリングと8個の(ボックス)も僕に渡してくれた。
なぜそれをビアンキさんが持っていたかというと、10年後の僕が妊娠してるのに余りにも無茶しようとするから、獄寺君が怒って取り上げてビアンキさんに預けたらしい。
さすがにメインボックスであるロボだけは自衛用に取り上げなかったから、入れ替わった時に持ってたみたいだ。
獄寺君って意外と過保護だし、10年後は割とビアンキさんとの仲も改善されているんだなと思った。

× × × × × × × × × × ×

雲雀さんが合流してから13日経った頃、いつも通り地下6階のトレーニングルームに行くと、獄寺君と山本君も来ていた。
ああ、だから今日から修行の内容が変わるのか。

「4人揃ったな。予告通り、本日より新しい修行"強襲用個別強化プログラム"を開始する。」

内容は1人に1人ずつ家庭教師をつける修行らしい。
といっても人手不足のせいで僕と獄寺君はまとめてビアンキさんが見るらしい。
僕はともかく獄寺君はそれで良いんだろうか……。
ただ、驚いたのはラルさんがツナ君の家庭教師を降りると宣言したことだった。
ふと雲の死ぬ気の炎の気配がエレベーターの方からして振り返ろうとした。
振り返りきる前に、紫色の物体は通り過ぎていき、ツナ君に襲いかかった。
あんなスピード、今の僕には対処できない。
ツナ君は手でその攻撃を受け止めた。
トレーニングルームに入ってきたのは雲雀さんだった。

「君の才能をこじあける。」

ツナ君は零地点突破で対抗しようとしたけど、ハリネズミの増殖スピードの方が早くツナ君を囲い込み、無数の針を帯びた球体に閉じ込めた。
脱出できなければ酸欠で死ぬ状況にツナ君が追い込まれ、この修行の中止をお願いしたかったけど、リボーン様が歴代ボンゴレが越えてきた試練には混じり気のない殺気が必要だと言うので、ツナ君を信じることにした。

早速僕らも修行を始めようという話になったけど、獄寺君はまたもビアンキさんの顔を見て倒れてしまって、この先が思いやられた。

「私達は地下16階よ。行きましょ、優希。」
「はいっ」

ビアンキさんは獄寺君を女性ながらに軽々と運ぶ。
エレベーターで降りている間に、ビアンキさんに尋ねてみた。

「あのー……メガネとかしてみてみませんか?」

じゃないと修行どころじゃない。

「大丈夫よ、ゴーグル持ってるから。」

え、もしかして10年後のビアンキさんって獄寺君がビアンキさんの顔が苦手なこと正しく認識しているの?
僕のそんな思考を読んでか、ビアンキさんはクスリと笑う。

「知ってるわよ、ハヤトにとって私の顔がトラウマで倒れてしまうことくらい。顔の一部を隠せば平気なこともね。」
「ビアンキさん……」

僕には兄弟がいないからわからないけど、実の弟が顔を合わせただけで倒れるのってどれだけ悲しくて寂しい気持ちになるんだろう。
もしかして10年前のビアンキさんも本当はわかってて、異性として意識し過ぎだなんて言ってたんだろうか。
あれはもしかしてビアンキさんなりに気を遣った冗談だったんだろうか。
だとしたらどれだけ弟への愛と愛を向けてもらえない寂しさを飲み込んできたんだろう。

エレベーターが止まって扉が開く。
いつもは頼もしく見えるその美しい背中が、少し悲しげな色を孕んでいる気がした。

ビアンキさんはなぜかピアノのある部屋に僕らを連れてきた。
獄寺君をソファに横たえさせたビアンキさんはピアノの椅子に座る。
ちょうどピアノの上にゴーグルが置いてあって、最初からこうするつもりだったんだろうなって予想がついた。
僕は獄寺君が休んでいるソファの空いてるスペースに座った。

「とりあえずハヤトが起きるまで待ちましょう。優希には先に少し説明しておくわね。」
「はい」
「あなたの修行の目標はこの時代のハヤトがあなたのために考案したSISTEMA S.D.A.を完成させることよ。」

なんだろう、この名前の厨二病感。
獄寺君らしいっちゃらしいけど、10年後もその辺のセンス変わってないんだ。

「スィステーマ・エス・ディー・エー…ですか?」
「ええ、ハヤトがあなたの防御をより効率良く展開できるように考案したものなの。あなたのSISTEMA S.D.A.に必要なものは既に渡してあるわ。」
「あのハヤブサ、ヤマアラシ、カピバラの(ボックス)のことですか?」
「オオカミもね。」

正直動物のボックス多過ぎだし、属性も3種類でややこしい。
オオカミとヤマアラシは雲、ハヤブサは雷、カピバラとウミガメは雨だ。
オオカミとハヤブサは1つの匣から1体、ヤマアラシは2体、カピバラは3体と数もややこしい。

「うーん………獄寺君が考えたにしては動物ばかりで武器という武器がなくないですか?」
「あら、鋭いわね。あなたは複雑なことは得意じゃないから、複雑な制御は知性的なボックスに任せた方が良いっていうのと、武器より生き物の方があなたの性格上相性が良いっていうのが10年後のハヤトの考えだったみたい。」

物凄く的を射た回答でびっくりした。
たしかに僕は複雑なことは得意じゃないし、武器より動物の方が好きだ。
でも獄寺君ってコッテコテの武器集めて複雑に組みそうなタイプだから、自分の趣味をしっかり抑えて僕の性格や特性にしっかり合わせてくれていることが、今のツナ君一辺倒な獄寺君からは想像ができない。

「この時代の獄寺君って僕のことよく理解してくれてるんですね。とりあえず僕がビアンキさんに見てもらうのは獄寺君が考案したシステムの完成には獄寺君と一緒に修行した方が近道ってことですね。」
「そういうこと。言っておくけど、ハヤトが考案したものだから頭は使うわよ。ハヤトが起きるまで少し考えるといいわ。」

そう言ってビアンキさんはピアノの弾き始めた。
しばらくして獄寺君が起きた。
何かハッとしたようにピアノを弾くビアンキさんの背中を見つめていて、珍しいこともあるもんだなと思った。

「起きたのね、ハヤト。顔の一部を隠せば私を見ても倒れないわね。」
「な……何してんだよ、アネキ!!つか、何でこのピアノが!?」
「少し前に城から運んでもらったのよ。あなた、とても小さかったのによく覚えていたわね。」
「!! ふっふざけんな!!あの城も親父もオレにはもう関係ねぇ!!アネキもだ!!あんたから教わることなんて何もねぇ!!」
「ハヤト、ダメよ。」

ビアンキさんは容赦なくポイズンクッキングのケーキを獄寺君の左顔面に叩き込んだ。
獄寺君からギャーという悲鳴が上がる。
うん、あれは可哀想。

「感情に流され過ぎてはダメ。またガンマとの戦いのような失敗を犯すつもり?」
「んだと!」

獄寺君は顔に付いたポイズンクッキングを拭いながら凄む。

「いいわ、ここから始めましょう。目標は10年後のハヤトが考案したSISTEMA C.A.Iの完成よ。いやなら城から出て行った時のように逃げなさい!」
「なに!」
「ただし、逃げられるなら。」

ビアンキさんは嵐の(ボックス)を開匣した。
実体が何かわからないけれど、それはもの凄い勢いで数箇所に拡散し、壁や地面にポジション取った後嵐の炎を獄寺君に向けて発射した。
獄寺君は慌ててその攻撃から逃げた。
これは相当危なそうだ。

「ビ、ビアンキさん…」
「大丈夫よ、優希。追いかけましょう。」
「はい…」

正直、僕の修行始めてくれないなら一旦ツナ君の様子を見に行きたいんだけどなぁ。
そんなことを思いつつも僕はビアンキさんについていった。

結局、獄寺君はビアンキさんから逃げられなくて、(ボックス)のルーツを聞いた後、別室に移った。
ビアンキさんが先に獄寺君からと言うので、僕はビアンキさんと制御室っぽい部屋に入った。
そしてその部屋の前面には砂嵐が広がっていて、モニターには獄寺君が映っていた。
実際どこにいるかはわからない。
ビアンキさん曰く10年後の獄寺君が特注で作った(ストーム)ルームだと説明した。
その部屋にはビアンキさんのサソリが20匹いるだと言う。
獄寺君のノルマは1分間でその20匹を全滅させることらしい。
獄寺君は抗議した。

「ムチャ言うな!!だいたいオレはなぁ!!」
「私のことは憎んでいてくれて結構よ。当然よね、私はあなたとは違い、お父様と正妻の間に産まれた娘ですもの。」

今までにないほど眉間に皺を寄せ、下唇を噛む獄寺君。
違う。
上手く言語化できないけど違う。
確かに獄寺君はビアンキさんのことが苦手で嫌いだ。
でもそれはポイズンクッキングのせいであって、多分出生のせいじゃない。
ビアンキさんのことを出生の件ではきっと憎んでいない。
だって獄寺君はビアンキさんの不幸を願ったり、自分の被った害をそのまま仕返ししようとしたりしたことは1度もないんだから。
それにビアンキさんだって獄寺君のことを愛していて、本当は愛して欲しいくせに。

「てめぇ!!」

獄寺君が何か言おうとする前に「始めましょう。」とビアンキさんは強引に事を進める。
獄寺君にSISTEMA C.A.Iを構成する(ボックス)を入れたリュックを嵐ルームの天井から落として渡した。
獄寺君がその中身を確認してリュックごと(ボックス)を持った後、ビアンキさんはカウントダウンを始めて、ビアンキさんのサソリ達が獄寺君に攻撃を仕掛けた。

1匹も倒せないまま1分が過ぎて、1分休憩してを10回ほど繰り返した後、ビアンキさんは告げた。

「全くダメね。優希、ハヤトと交代しなさい。」

(ボックス)を持って指示通りに(ストーム)ルームに入る。
びっくりするぐらい視界が悪い。
天井から何かが吊り下げられて降りてきて、地面に刺さる。
どうやらカカシのようだ。

「あなたはここにいる30体の人形を5分間サソリ達から守るのがノルマよ。」

さっきのムチャ言うなって言ってた獄寺君の気持ちが凄くわかった。
僕の能力は自分の周りでしか使えないし、(ボックス)兵器だって7体のみ。
4分の1にも満たない数だ。

とりあえず挑戦するだけはしてみたけれど、やっぱり10秒と保たなかった。
何度か挑戦して30分くらい経った頃だろうか、獄寺君と交代だと告げられた。
息切れしながら僕は制御室に戻った。

「はい、お水」

ビアンキさんは僕に水筒を渡してくれた。
モニターには不満と苛立ちを隠していない獄寺君が映っている。
多分こんなやり方じゃ獄寺君は上手くいかない。
でもビアンキさんの意図がわからない以上、抗議もしにくい。

僕は修行が終わった後、リボーン様を探した。
まだ修行が終わってないと聞いて地下10階に行ってみたら、山本君がリボーン様を背中に乗せた状態で腕立て伏せをしていた。

「リボーン様、邪魔をしてごめんなさい。後で少し時間をいただけませんか?」

リボーン様は僕の表情を見て何かを察したのかため息をついて、山本君から降りて僕の肩に乗った。

「準備運動中だから今でいいぞ。場所を変えるか。」
「ありがとうございます…」
「山本、おまえはそのメニュー続けとけ。」
「ああ…」

流石の山本君も疲れ切った顔をしている。
もうすぐ夜ご飯の時間なのに準備運動で筋トレ中ってまたリボーン様はスパルタ教育してるんだろうな。

僕らは10階の空き部屋に入った。

「獄寺とビアンキのことだな。」
「はい………なんかビアンキさん、獄寺君の神経を逆撫ですることを言ってて……獄寺君も意地を張ってるというか………獄寺君がピアノの演奏会の前のクッキーの件でビアンキさんのこと苦手だとか……獄寺君ん家の家庭環境が良くなかった…ということは知ってるんですけど…………すみません、上手く説明できなくて。」
「要は2人の仲がギスギスしていて修行が上手くいってないんだろ?」

身も蓋もない言い方だけど、実際そうだ。
僕はその言葉に頷いた。
リボーン様はため息をつく。

「早速壁にぶち当たったな。ビアンキと獄寺は例の件もあるから、水と油だとは思ってたが…」
「例の件?」
「ああ、この修行であの2人に挟まれるであろうおまえには話しておくべきだな。」

挟まれる……他所の家庭の事情に首を突っ込みたくはないけどな…。
僕も突っ込まれたくないから。
そうは思いつつも、リボーン様が話すべきと判断したならそれがベターな選択なんだろうと思って、大人しく話を聞いた。

これまでの会話から察していた通り、獄寺君はマフィアのボスの息子で、そして愛人の子供だった。
マフィアの世界で愛人の存在は許されないから、獄寺君は産まれてすぐに実の母と引き剥がされて正妻の子供として育てられ、実の母と会えるのは年に3回だった。
獄寺君が3歳の誕生日を迎えて数日後、獄寺君と獄寺君のお母さんの面会が叶ったけれど、当日獄寺君のお母さんは運転中にありえないところで崖から転落して亡くなった。
噂では獄寺君のお父さんが消したのではないかという。
獄寺君がそのことを知ったのは8歳の誕生日、城を抜け出す前日のことだったという。

「……そっか、そんなことが…。ビアンキさんも当然知ってるんですよね?」
「ああ。」
「………………」

言葉が出ない。
実のお父さんに実のお母さんが裏切られた姉と実のお父さんに実のお母さんが殺されたかもしれない弟。
毒入りクッキーの件がなかったとしても、これは仲良くなんてなれない。
むしろ、獄寺君がビアンキさんを仇のように強く恨んだっておかしくない話だ。
なんで10年後の獄寺君がビアンキさんとそれなりの関係を築けていた節があるのか、不思議なくらいだ。

「……なんで獄寺君をビアンキさんが見ることになったんですか?」
「10年後の獄寺が考案したSISTEMA C.A.Iに最も詳しいのがビアンキだからだ。それにビアンキ本人の希望だしな。」
「2人の家庭事情を考慮していられないってことですか?」
「そうだな、今の切羽詰まった状況じゃこれが1番の近道だ。」

本当に近道なんだろうか。
僕にはわからない。

「……リボーン様がそうおっしゃるなら僕はリボーン様と2人を信じます。」
「ああ、助かる。優希、おまえは2人に何もしなくていい。獄寺が苦しんでいたら寄り添ってやれ。」
「寄り添う…?」
「一緒に飯食うなり、自主練付き合うなり、何でもいい。黙って傍にいてやれ。獄寺が誰にも姿を見せないようにしようとしている時は放っておけ。」
「……わかりました。ビアンキさんにはそういうの要らないんですか?」
「ビアンキは強い女だ。弟のためにどんな傷も受け入れて乗り越えるだろう。だから好きなようにさせてやれ。」

その言葉には凄く説得力があった。
ビアンキさんのこと、凄く理解されてるんだな、リボーン様って。
でも傷つくことも理解した上でこの選択なのが、まさに殺し屋というか裏社会に身を置いている人の発想だなとも思う。
とにかく2人のことを信じることに決めて、僕は力強く頷いたのだった。

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