黙って傍に

新しい修行を始めた4日目の朝、なぜか男子が朝ごはん当番になって手巻き寿司を作ってくれることになった。
僕はいつもご飯を作ってないし、今回も料理メンバーから外されたからちょっと申し訳ないなと思った。
ツナ君や山本君の様子を見て、これが獄寺君のために行われたものなんだなって察しがついた。
獄寺君はお寿司を巻くのはみんなと一緒にやったけど、実食する時はみんなと違うテーブルで食べようとしていた。
僕は獄寺君が巻いてくれたお寿司をお皿に乗っけて、獄寺君の隣に座った。

「…?なんでわざわざこっちに来てんだよ?」

不機嫌そうな顔で獄寺君は来るなと威嚇してくる。
まるで子猫みたいだ。
僕は獄寺君の作ったお寿司を見せて答えた。

「獄寺君が巻いてくれたお寿司の感想、まずは獄寺君に聞かせるために。」
「なっ…」
「いただきまーす」

わざとらしく鉄火巻きを口の中に放り込む。
噛み終わって呑み込んだら言ってやった。

「ん、美味しいよ。」
「んなっ………こんなん、誰が作ったって一緒だろうが!」

獄寺君は顔を赤くしてそう言う。
照れてて可愛い。

「そうかなー?獄寺君の巻き方が上手いんじゃない?」
「んなわけあるかっ………ったく……おまえ、ホント幸せそうに食うよな。」

獄寺君は頬杖をついて僕の方を見ながらふっと笑った。
温かい目で見守るような優しい笑顔に思わずドキリとした。
これは……モテる。
普段女子には当たりがキツい分、たまにこんな笑顔なんて見せようものなら並盛町中の独身女性が獄寺君に惚れてしまう。

「ほら、好きなだけ食えよ。今日も修行あんだからよ。」

僕が固まっていたら、獄寺君は僕のお皿に自分の分のお寿司を少し追加してそんなことを言う。

「う、うん…」

もともと獄寺君って気を許した人には過保護な一面あるし、媚びないだけで女性に優しいから、こんなんされたら普通の女性はギャップ萌えで好きになっちゃうだろうな。
普通の女性の枠組みからは外れている僕でも少し戸惑っちゃうよ。

ふと視線を感じてそっちを見ればツナ君が僕たちを見ていて、少し安心したような顔で微笑んでいた。
やっぱり獄寺君のこと心配してたんだな。
僕はこっそりツナ君に向かって親指を突き立てた。
ツナ君はそれを見て眉を垂れ下げて微笑みながら頷いた。

× × × × × × × × × × ×

修行をしていたら、草壁さんから報告事項があると聞いて、僕らは作戦室に集まった。
草壁さんがくれたのは六道骸の情報で、骸が生きていること、この時代のクロームちゃんは行方不明だが半年前にとある男と接触している姿が捉えられており、その接触した男に動きがあったこと、雲雀さんがイタリア滞在中に骸に関連していると思われる妙なフクロウから視線を感じたためヒバードと写真を撮ったことを説明してくれた。

そんな話をしていると警報音と共にリボーン様達の背面のモニターに謎の丸が映る。
ジャンニーニさん曰く、黒曜ランドに強力なリングの反応があるらしい。
ただその辺りは電波障害も多いらしく解析してみないことには判断がつかないらしい。
ボンゴレリングを持ったクロームちゃんかもしれないということで僕らは気を揉みながら解析結果を待った。
その途中、ヴァリアーから緊急通信があって動くなという指示があった。
わかりやすい指示があるというベルフェゴールの話に頭を傾けているとこの時代の笹川さんがボンゴレリングを持ったクロームちゃんを連れて現れた。

クロームちゃんが医務室に運ばれた後、京子ちゃんと笹川さんの感動の再会を経て、僕らは笹川さんからベルフェゴールの言っていた指示について聞くことになった。
指示の内容は、5日後に同盟ファミリーを含めたボンゴレの残存勢力でミルフィオーレの主要拠点を攻めるので僕ら10代目ファミリーはミルフィオーレ日本支部を攻め、主要施設を破壊するようにというものだった。
笹川さんはここの主であるツナ君が決行するかどうかを決めるべきという考えで、今日中に結論を出すようツナ君に伝えて、ご飯を食べに行ってしまった。
パニクるツナ君にリボーン様はまずかは5日後に納得できるだけの戦力が確保できるか考えろと言う。

「なーに、修行についちゃオレ達がなんとかするって!なーー獄寺っ!守屋!」
「あ…ああ。任せてください、10代目!!」

こういう時は山本君の能天気さが羨ましい。
獄寺君の強がりも。
僕は任せろなんて口が裂けても言えない。

「僕はツナ君が決めたことならどんな無茶でも従うよ。」

もっとツナ君が自信を持てる言葉をかけてあげたいけれど、ただ僕がすることを伝えた。
この場は一旦解散になって修行に戻ることになった。
獄寺君とエレベーターに乗るとなぜか彼はいつもと違う地下12階を押した。
疑問に思いながら僕はいつもの16階を押す。

「守屋、オレはしばらく資料室に籠る。今のやり方じゃSISTEMA C.A.I.は完成させられねぇ。」
「獄寺君……」
「おまえはアネキと修行しとけ。オレに付き合う必要はねぇ。」

確かに獄寺君に付き合う必要はないんだろうけど、正直僕には10年後の獄寺君が考えていたことなんてわからない。
獄寺君だけが頼りだ。

「邪魔はしないから一緒に修行していい?」
「オレの修行は紙とペンから始めんだ。おまえに向いてねぇ。」
「向いてはいないと思うけど、10年後の獄寺君が考えてたことを思考するならそっちの方がいいと思う。」
「……わかった。邪魔はするなよ。」
「じゃ、僕はビアンキさんに修行サボること伝えてくる。」
「はぁ!?」
「黙ってサボるのは申し訳ないじゃん。大丈夫、どこで修行するかは伝えないから。」

ちょうど地下12階に着いて扉が開いたので、獄寺君の背中を押して強引にエレベーターから降ろした。

「はぁっ、おまっ…」

戸惑いながら振り返る獄寺君に手を振って、僕は閉じるボタンを押した。
目的の地下12階に着くと、早速ビアンキさんの元へ向かった。

「ビアンキさん!」
「優希、早速…」
「ごめんなさい!!修行サボります!!」
「…は?」

ビアンキさんの顔はまさに鳩が豆鉄砲を食らったかのようだった。
そりゃあ、獄寺君と違ってビアンキさんのことを慕っていて、ビアンキさんの言うことに素直に従っていた僕が突然サボるなんて言い出したらびっくりするだろう。

「あ、ちなみに獄寺君も!」
「ちょっ、優希!待ちなさい!せめてこれを持って行きなさい!」

ビアンキさんは封の開いた手紙を渡してきた。

「これは…?」
「あなたの修行のヒントになるであろう手紙よ。この時代のハヤトから私に送られてきたものなの。あなたの2つの(ボックス)と一緒にね。」

手紙を開けて中身を見てみるも、イタリア語で書かれていて辞書なしでは読めなさそうだった。

「読めないです…」
「ハヤトなら読めるはずよ。」
「その……なんで今渡そうと?」
「その手紙にはこの時代のハヤトがあなたに知られたくない内容があるから行き詰まった時の最終手段にしようと思ったの。だからハヤトに読んでもらいなさい。」

つまり獄寺君はこの手紙の内容を忖度して僕に伝えるってことか。
修行に関連することだけ聞ければ特に問題ないかな。

「ありがとうございます!ビアンキさん!」

僕は頭を下げて踵を返し、エレベーターに乗り込んで目的の地下12階で降りた。
早速資料室を見つけて入ると、獄寺君はテーブルに(ボックス)を広げ、唸っていた。
しかも床には可愛い猫ちゃんがいる。

「入るね、獄寺君。」
「ああ…」
「色々考えているところ悪いんだけど、これ読んでもらえないかな?」

早速獄寺君は手紙を受け取って広げる。

「オレの字……ゲッ、アネキ宛て!?」

如何にも嫌そうな顔をしていて思わず笑ってしまった。

「プッ……10年後の獄寺君がビアンキさんに宛てた手紙で僕の修行のヒントになる内容が書いてあるんだって。あと、僕に伝えちゃまずい内容もあるらしいから、獄寺君に読んでもらえって言われたんだ。」
「じゃあとりあえず全部読んでから要約するぜ。」

そう言って真剣に手紙を読み始めた獄寺君はだんだん顔を赤くして頭を抱えた。

「だ…大丈夫?」
「なんでもねぇ…」

何でもなくはなさそうだけど、この辺りに僕に知られたくない内容があるんだろうな。
獄寺君は全部読み終えると手紙を封筒に戻して、バンッと机を叩いた。

「何やってんだ、10年後のオレは…!!」

何で真っ赤な顔で自分に対してキレてるんだろう。
いまいちわからない。

「本当に大丈夫?」
「問題ねぇ……」

獄寺君は長ーい溜め息をついた。

「とりあえずわかったことがある。テメーのSISTEMA S.D.A.は(ボックス)同士の連携なしに力は発揮できなくて、オオカミ1体じゃ全体の10%の力も発揮できねぇらしい。」
「鍵は(ボックス)間の連携か…」
「で、そのオオカミは司令塔なんだとよ。1体ずつじゃ本領を発揮できねぇ(ボックス)の中でも1番賢くて強力だから取り上げなかったって書いてある。」
「ロボが司令塔……連携の秘訣はそこにありそうだね。他には?」
「おまえのSISTEMA S.D.A.はオレのSISTEMA C.A.I.の防御を見たおまえが真似したいと言って、10年後のオレがおまえ用に(ボックス)を見繕って考案したらしい。」
「SISTEMA C.A.I.の防御……防御特化の僕が真似したがる防御って何だろう…?」
「さあな。結局オレのSISTEMA C.A.I.の完成が見えねーことには守屋のS.D.A.も完成させられねーっつーことはハッキリしたな。」
「うん………」

僕が羨む防御ということは広範囲の防御とか僕を起点にしない防御だろうか?
そんなことが僕の(ボックス)で可能になるんだろうか?

「とりあえず伝えるべき内容は伝えたから、オレは自分の修行に戻るぜ。」
「うん、ありがとう。」
「にゃおん」

ん?
にゃおん?
僕は足元を見た。
先程まで床でゴロゴロしていた猫ちゃんが僕の足に擦り寄っている。

「チッ……守屋には懐くのかよ…」

獄寺君は猫ちゃんを横目で見て溜め息をつき、テーブルの上の(ボックス)に視線を戻した。
僕も何かしなければ。
とりあえず鍵は(ボックス)間の連携っぽいから、そういう資料がないか探してみるか。
そう思って資料をいくつか漁ってテーブルに広げる。
しばらく読んでいるとヒントになりそうな記述を見つけた。

「ブレインコーティング……(ボックス)間コンビネーション発動システム……」

雨イルカ(デルフィーノ・ディ・ピオッジャ)などの知能の高い(ボックス)が持つ、仲間の(ボックス)同士の知能を繋いで連携を高め、コンビネーション技を生み出すシステム。
雲狼(ルーポ・ヌーヴォラ)にもイルカほどの性能はなくともその機能が搭載されているらしい。
しかも自分を含めて連携できる最大値が7で、まさに僕が持っている(ボックス)の数と一致する。

「獄寺、優希、クロームの容体が急変した。予定より早いが作戦室に集まってくれ。」

僕が集中して資料を読んでいたら、リボーン様がいつの間にか資料室に来ていた。
僕らは急いで作戦室へ向かった。

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