飢えとの戦い
ふっと意識が覚醒して目を開けたら、照明の一切ない天井が見えた。
薄暗いけど一応見えるなと思ってより明るい方を見れば鉄格子があって、その先の天井に蛍光灯が1つだけ光っていた。
上半身を起こして辺りを見回せばトイレが1つ。
僕は簡易ベッドらしきものの上にいた。
どう見てもここは監獄だ。
どうやら僕は失態を犯したらしい。
しとぴっちゃんに睡眠薬あたりを盛られたんだろうか?
彼女を友達だと認識して警戒しなかった僕のミスだ。
「起きたようね。」
姿を現したのは3年生の鈴木アーデルハイトさん。
うん、どうやらしとぴっちゃんに何か盛られてシモンファミリーの面々に捕まったらしい。
動機は全くわからないけど。
まあ、マフィアなんだから裏切りくらいあるよね。
「…何が目的ですか?」
「ボンゴレへの復讐だよ。」
後から現れて答えたのは古里くんだった。
後ろからしとぴっちゃんも現れる。
全員無表情というか、表情を悟られないように顔を作っている感じがする。
僕はベッドから降りて格子に手が届く距離まで彼らに近付いた。
「そっか。意外とありきたりだ。」
「何だって?」
古里君の顔に怒りの色が見える。
別に挑発したい訳じゃないけど、ある程度情報は引き出さないとな。
「ボンゴレに復讐したいファミリーなんていくらでもいるじゃないか。」
「開き直るなんてさすがボンゴレとしか言いようがないわね。」
アーデルハイトさんが皮肉げに嗤う。
「開き直るも何も事実だし。」
彼らはバリエラが毒に弱いこと、監禁されたら大したことはできないこと、普通に餓死しちゃうことを知っている気がするけど、何で知ってるんだろ?
バリエラが重罪を犯したら餓死させられる掟を知ってるのかな?
そんな9代目とその守護者や家光さんやリボーン様くらいしか知らないことをなぜ知ってるんだろう?
「ところで何で僕を生かしたの?しとぴっちゃん。睡眠薬じゃなくて即死する毒を盛れば早かったんじゃない?」
ずっと黙りを決め込んでいるしとぴっちゃんに声をかけると、彼女はぴくりと眉を動かした。
それでも彼女は答えない。
やっぱりしとぴっちゃんって純粋なんだな。
「貴様は直接殺す価値もない。それだけのことだ。」
アーデルハイトさんはそう言う。
殺す価値がなかったとしても、監禁の方がコスパ悪いに決まってる。
多分しとぴっちゃんが独断で毒を睡眠薬にすり替えたんだろう。
「ふーん……」
ニマニマとしとぴっちゃんを見てると、アーデルハイトさんは訝しげに僕を見た。
「何が可笑しい?」
「うん、まあ、可笑しいでしょ。殺す価値なんてものをマフィアが語るのが。利用価値のない敵マフィアなんて殺す一択。生かして監禁なんてマフィア失格でしょ。」
「貴様、自分の立場がわかってないようだな。貴様はこれから餓死するのだ。貴様を生かすも殺すも簡単にできるのだぞ?」
今のアーデルハイトさんの発言で確信した。
やはり、バリエラの殺し方を熟知してる内通者がシモンの裏にいる。
「別にこの世界に足を踏み入れている時点で覚悟の上だよ。」
「何で……そこまでしてボンゴレに尽くすの?」
古里君のその質問には首を横に振って否定した。
「ボンゴレに尽くしてるんじゃない。僕はツナ君の人柄が好きだからツナ君とツナ君が大切にしたい人たちに尽くすんだ。」
「それもよくわからないよ。沢田綱吉のために命を捨てる意味がわからない。」
「古里君はここ数日ツナ君と絡んで何も感じなかったの?強い力を持っているのに自分の為となるとパンチの1つもできなかったり、ちびっ子達に振り回されたり、マフィアを悪だと正確に理解してボスの座を嫌がったり……およそマフィアの次期ボスだとは思えない優しい人だと思うんだけど。」
「少しはそう思った。でも違った。彼は卑怯だ。」
「ツナ君のどんな一面を見てそう思うの?」
「それは…」
古里君が答えようとしたところでアーデルハイトさんが強制的に会話を切ってきた。
「炎真、やめなさい。守屋優希はやはりボンゴレ側の人間。こちらに引き込むことはできない。ここで餓死させる。しとぴっちゃんもそれでいいわね?」
「うん、イイヨ。」
しとぴっちゃんは踵を返した。
「炎真、あなたも。」
「……うん」
炎真君はより暗い表情を浮かべて頷く。
アーデルハイトさんが先に戻って行く。
炎真君は俯いたまま、鉄格子に手をかけた。
「どうして……命乞いをしないんだ。」
「どうしてすると思ったの?」
「……すると思ったんじゃない……して欲しかったんだ…!ボンゴレのことを裏切るから命は助けてくれって…。」
「言ったらどうなるの?」
「初代シモンは初代ボンゴレの裏切りに遭った。その体験を沢田綱吉にさせられるなら、守屋さんを生かすのはアリだってみんな納得してくれたんだ。だから、君のことは生かせたのに……」
「……ボンゴレのこと憎いんでしょ?なんで生粋のボンゴレの僕を生かそうとするの?」
正直理解できない。
てっきり、僕がまだ生きてるのはしとぴっちゃんのおかげかと思ったのに。
「………初めて、だったんだ。ファミリー以外の女の子がいじめられっ子の僕に普通に関わってきて親切にしてくれることが。いじめっ子なんか関係ないって言ってくれたことが。」
薄暗いから分かりにくいけど、炎真君の頬に少しだけ赤みが差している。
「ふーん…それは炎真君の周りにたまたまロクな女の子がいなかっただけじゃない?」
「違う!そもそもボンゴレのせいで僕らシモンは迫害を受けてきたんだ!」
「だから復讐するの?」
「そうだ!」
「じゃあ、僕は君の敵だ。」
僕はスカートの下に履いてるスパッツを脱いで、パンツはギリギリ見えないようスカートの裾をまくった。
古里君は顔を真っ赤にしてるけどそんなの気にしない。
体を少し斜めに向けて右腿の側面に彫られたボンゴレの紋章を見せつける。
「これ、10歳の時に彫った。それ以降、僕は正式にボンゴレだよ。ツナ君達と違って。君たちがボンゴレに復讐するなら僕は君たちをボンゴレの敵として認識するし、命乞いはしない。ツナ君達を裏切ることなくここで死ぬ。」
「……決意は変わらないんだね?」
「変わらないよ。」
「わかった………さようなら、守屋優希。」
その言葉に何も返さなかった。
本当にさようならなら、その言葉を贈りたいのはボンゴレのみんなだから。
なんとなく体感時間で1日ぐらい経った頃、遠くから足音が聞こえた。
もう僕が死ぬかツナ君達が助けに来るまで誰も来ないはずなのに誰なんだ?と思っていたら、しとぴっちゃんだった。
「どうしたの?」
喉がカラカラに渇いているから声が掠れる。
しとぴっちゃんは500mlのペットボトルを投げ入れてきた。
パッと見、中身は水だ。
「水」
「餓死させるんじゃないの?水があれば長引くよ。」
「………」
しとぴっちゃんは何も答えない。
いつもなら自分から話す時はもっと饒舌なのに。
僕はペットボトルを拾って開けて、一口だけ水を飲んだ。
「…毒か疑わないの?」
「毒なら早く死ぬだけじゃん。それならそれでしとぴっちゃんの慈悲なんじゃないの?どっちにしても、僕は確率の高い方に賭けるだけ。」
「…………優希って変ダネ。」
「そうかな?」
ファッションセンスに関しては絶対しとぴっちゃんの方が変だと思うんだけどなー。
「明日、ボンゴレに勝負を仕掛ける。多分、戦うのは獄寺君。負けた方が復讐者 に捕まる。」
「…っ!?」
息を呑んだ。
何で今復讐者 の名前が出てくるの?
「どういうこと?復讐者 ?何の冗談?」
「私達も復讐者 が絡んできた理由はわかってない。でもやることは変わらないヨ。」
「…………シャレにならないよ、復讐者 は。やめられないの?」
「やめないヨ。そんな覚悟なら最初からこんなことしてない。」
それは最もな意見だけど……。
何で復讐者 が介入してきたんだろう?
「水、それが最後だカラ。バイバイを言いにきたノ。」
「そう…」
せいぜい寿命が1日延びた程度か。
空腹のピークはさっき過ぎ去って今は落ち着いてるけど、またお腹は空くだろう。
あと何日保つんだろうか。
「バイバイ、優希。」
この別れの挨拶にも僕は何も返さなかった。
敵に返す別れの挨拶なんてないから。
ふと、それが酷く悲しくて涙が溢れた。
「なんで……」
誰もいないけれど呟いてみる。
そっか、僕は……友人だと思っていたしとぴっちゃんに裏切られたことが悲しいんだ。
マフィアの護衛としてはダメダメな感情だと思う。
それでも忠節を守って死ぬ時ぐらい、守屋優希としての感情に流されて泣くことぐらいは許されないだろうか?
うん、僕が許そう。
「しとぴっちゃんの馬鹿……」
ああ、お腹が空いた。
ずっと薄暗いままの部屋だから、何日経ったのかもわからない。
最初は尿意を催したりしてトイレを使ってたけど、トイレを使う頻度もどんどん減っている。
水を一滴も飲めないのに仕事する胃とか腎臓?って内臓には正直迷惑している。
何度も死ぬほどお腹が空いて少し落ち着いて死ぬほどお腹が空くを繰り返した。
しとぴっちゃんがくれた水ももう残り少ない。
これがなくなれば僕は急激に死に向かう。
正直、お母さんや叔父さんより先に死にたくはないけど、僕が今現在バリエラである以上仕方がない。
バリエラでなかったとしても、大好きなツナ君を裏切る選択肢はなかったし。
もう動く気力もなくて、ひたすらベッドの上で寝転がっている。
さっきから何度も大きな振動があって、どこか近くで激しい戦闘が行われているのがわかる。
「ツナ君………会いたい……」
心が弱ってるせいか、そんな言葉が口を突いて出た。
泣きたい気持ちでいっぱいなのに、思うように泣けない。
体が疲れちゃってるんだろう。
いつの間にか振動が止んで遠くからバタバタと複数の足音がした。
「優希!!」
ツナ君の声がした。
幻聴だろうか?
目を開けると、鉄格子の先にツナ君がいた。
獄寺君や山本君もいて、古里君が泣きそうな顔で牢の鍵を開けようとしていた。
しとぴっちゃんもやってきて、どういう状況なんだろうかと悠長に考える。
鉄格子の扉が開いて、ツナ君が真っ先に入ってきた。
「優希…!!」
ツナ君は僕の両肩に触れて泣きそうな顔で僕を見下ろす。
「遅くなってごめん…!!」
僕はなけなしの体力でなんとか右手を動かして、ツナ君の涙を拭った。
「……ぉそく…な……ぃ…ょ…」
びっくりするぐらい掠れた酷い声。
女の子とは正直思えない。
「守屋、これ飲め!」
獄寺君が口にペットボトルを当ててきた。
全然飲み込めなくて口から溢れた。
溢れた水は乾いてひび割れしている唇に少し沁みた。
「やめろ、獄寺。低ナトリウム血症になったらどうする?ボンゴレの医療チームがこちらに向かってるから、プロに任せるんだ。今は体だけ温めてやれ。」
「はっ…はい!」
リボーン様はいつも通り冷静で、獄寺君に毛布を渡す。
「クソッ……オレにできることがなくてすまねぇ…!」
毛布で僕を包みながら、獄寺君はまるで酷く傷ついたかのような顔でそう言ってくる。
そんなに今の僕は酷い状況なんだろうか?
まだ生きてるのに。
「守屋さん、謝って済むことじゃないけどごめん…!」
ツナ君の後ろで古里君が苦しそうに申し訳なさそうな顔をしている。
「初代ボンゴレは初代シモンを裏切っていなかったし、ツナ君も僕を裏切らなかった。D ・スペードの策略があったとはいえ僕らが誤解して、君を殺そうとしたのは事実だ…!本当にごめんなさい…!」
なんでボンゴレの初代霧の守護者の名前が出てくるんだろう?
謎は尽きないけど、どうやらツナ君と古里君は和解したらしい。
ツナ君がシモンファミリーを赦すなら、僕も赦すまでだ。
だって僕はツナ君のバリエラだから。
薄暗いけど一応見えるなと思ってより明るい方を見れば鉄格子があって、その先の天井に蛍光灯が1つだけ光っていた。
上半身を起こして辺りを見回せばトイレが1つ。
僕は簡易ベッドらしきものの上にいた。
どう見てもここは監獄だ。
どうやら僕は失態を犯したらしい。
しとぴっちゃんに睡眠薬あたりを盛られたんだろうか?
彼女を友達だと認識して警戒しなかった僕のミスだ。
「起きたようね。」
姿を現したのは3年生の鈴木アーデルハイトさん。
うん、どうやらしとぴっちゃんに何か盛られてシモンファミリーの面々に捕まったらしい。
動機は全くわからないけど。
まあ、マフィアなんだから裏切りくらいあるよね。
「…何が目的ですか?」
「ボンゴレへの復讐だよ。」
後から現れて答えたのは古里くんだった。
後ろからしとぴっちゃんも現れる。
全員無表情というか、表情を悟られないように顔を作っている感じがする。
僕はベッドから降りて格子に手が届く距離まで彼らに近付いた。
「そっか。意外とありきたりだ。」
「何だって?」
古里君の顔に怒りの色が見える。
別に挑発したい訳じゃないけど、ある程度情報は引き出さないとな。
「ボンゴレに復讐したいファミリーなんていくらでもいるじゃないか。」
「開き直るなんてさすがボンゴレとしか言いようがないわね。」
アーデルハイトさんが皮肉げに嗤う。
「開き直るも何も事実だし。」
彼らはバリエラが毒に弱いこと、監禁されたら大したことはできないこと、普通に餓死しちゃうことを知っている気がするけど、何で知ってるんだろ?
バリエラが重罪を犯したら餓死させられる掟を知ってるのかな?
そんな9代目とその守護者や家光さんやリボーン様くらいしか知らないことをなぜ知ってるんだろう?
「ところで何で僕を生かしたの?しとぴっちゃん。睡眠薬じゃなくて即死する毒を盛れば早かったんじゃない?」
ずっと黙りを決め込んでいるしとぴっちゃんに声をかけると、彼女はぴくりと眉を動かした。
それでも彼女は答えない。
やっぱりしとぴっちゃんって純粋なんだな。
「貴様は直接殺す価値もない。それだけのことだ。」
アーデルハイトさんはそう言う。
殺す価値がなかったとしても、監禁の方がコスパ悪いに決まってる。
多分しとぴっちゃんが独断で毒を睡眠薬にすり替えたんだろう。
「ふーん……」
ニマニマとしとぴっちゃんを見てると、アーデルハイトさんは訝しげに僕を見た。
「何が可笑しい?」
「うん、まあ、可笑しいでしょ。殺す価値なんてものをマフィアが語るのが。利用価値のない敵マフィアなんて殺す一択。生かして監禁なんてマフィア失格でしょ。」
「貴様、自分の立場がわかってないようだな。貴様はこれから餓死するのだ。貴様を生かすも殺すも簡単にできるのだぞ?」
今のアーデルハイトさんの発言で確信した。
やはり、バリエラの殺し方を熟知してる内通者がシモンの裏にいる。
「別にこの世界に足を踏み入れている時点で覚悟の上だよ。」
「何で……そこまでしてボンゴレに尽くすの?」
古里君のその質問には首を横に振って否定した。
「ボンゴレに尽くしてるんじゃない。僕はツナ君の人柄が好きだからツナ君とツナ君が大切にしたい人たちに尽くすんだ。」
「それもよくわからないよ。沢田綱吉のために命を捨てる意味がわからない。」
「古里君はここ数日ツナ君と絡んで何も感じなかったの?強い力を持っているのに自分の為となるとパンチの1つもできなかったり、ちびっ子達に振り回されたり、マフィアを悪だと正確に理解してボスの座を嫌がったり……およそマフィアの次期ボスだとは思えない優しい人だと思うんだけど。」
「少しはそう思った。でも違った。彼は卑怯だ。」
「ツナ君のどんな一面を見てそう思うの?」
「それは…」
古里君が答えようとしたところでアーデルハイトさんが強制的に会話を切ってきた。
「炎真、やめなさい。守屋優希はやはりボンゴレ側の人間。こちらに引き込むことはできない。ここで餓死させる。しとぴっちゃんもそれでいいわね?」
「うん、イイヨ。」
しとぴっちゃんは踵を返した。
「炎真、あなたも。」
「……うん」
炎真君はより暗い表情を浮かべて頷く。
アーデルハイトさんが先に戻って行く。
炎真君は俯いたまま、鉄格子に手をかけた。
「どうして……命乞いをしないんだ。」
「どうしてすると思ったの?」
「……すると思ったんじゃない……して欲しかったんだ…!ボンゴレのことを裏切るから命は助けてくれって…。」
「言ったらどうなるの?」
「初代シモンは初代ボンゴレの裏切りに遭った。その体験を沢田綱吉にさせられるなら、守屋さんを生かすのはアリだってみんな納得してくれたんだ。だから、君のことは生かせたのに……」
「……ボンゴレのこと憎いんでしょ?なんで生粋のボンゴレの僕を生かそうとするの?」
正直理解できない。
てっきり、僕がまだ生きてるのはしとぴっちゃんのおかげかと思ったのに。
「………初めて、だったんだ。ファミリー以外の女の子がいじめられっ子の僕に普通に関わってきて親切にしてくれることが。いじめっ子なんか関係ないって言ってくれたことが。」
薄暗いから分かりにくいけど、炎真君の頬に少しだけ赤みが差している。
「ふーん…それは炎真君の周りにたまたまロクな女の子がいなかっただけじゃない?」
「違う!そもそもボンゴレのせいで僕らシモンは迫害を受けてきたんだ!」
「だから復讐するの?」
「そうだ!」
「じゃあ、僕は君の敵だ。」
僕はスカートの下に履いてるスパッツを脱いで、パンツはギリギリ見えないようスカートの裾をまくった。
古里君は顔を真っ赤にしてるけどそんなの気にしない。
体を少し斜めに向けて右腿の側面に彫られたボンゴレの紋章を見せつける。
「これ、10歳の時に彫った。それ以降、僕は正式にボンゴレだよ。ツナ君達と違って。君たちがボンゴレに復讐するなら僕は君たちをボンゴレの敵として認識するし、命乞いはしない。ツナ君達を裏切ることなくここで死ぬ。」
「……決意は変わらないんだね?」
「変わらないよ。」
「わかった………さようなら、守屋優希。」
その言葉に何も返さなかった。
本当にさようならなら、その言葉を贈りたいのはボンゴレのみんなだから。
× × × × × × × × × × ×
なんとなく体感時間で1日ぐらい経った頃、遠くから足音が聞こえた。
もう僕が死ぬかツナ君達が助けに来るまで誰も来ないはずなのに誰なんだ?と思っていたら、しとぴっちゃんだった。
「どうしたの?」
喉がカラカラに渇いているから声が掠れる。
しとぴっちゃんは500mlのペットボトルを投げ入れてきた。
パッと見、中身は水だ。
「水」
「餓死させるんじゃないの?水があれば長引くよ。」
「………」
しとぴっちゃんは何も答えない。
いつもなら自分から話す時はもっと饒舌なのに。
僕はペットボトルを拾って開けて、一口だけ水を飲んだ。
「…毒か疑わないの?」
「毒なら早く死ぬだけじゃん。それならそれでしとぴっちゃんの慈悲なんじゃないの?どっちにしても、僕は確率の高い方に賭けるだけ。」
「…………優希って変ダネ。」
「そうかな?」
ファッションセンスに関しては絶対しとぴっちゃんの方が変だと思うんだけどなー。
「明日、ボンゴレに勝負を仕掛ける。多分、戦うのは獄寺君。負けた方が
「…っ!?」
息を呑んだ。
何で今
「どういうこと?
「私達も
「…………シャレにならないよ、
「やめないヨ。そんな覚悟なら最初からこんなことしてない。」
それは最もな意見だけど……。
何で
「水、それが最後だカラ。バイバイを言いにきたノ。」
「そう…」
せいぜい寿命が1日延びた程度か。
空腹のピークはさっき過ぎ去って今は落ち着いてるけど、またお腹は空くだろう。
あと何日保つんだろうか。
「バイバイ、優希。」
この別れの挨拶にも僕は何も返さなかった。
敵に返す別れの挨拶なんてないから。
ふと、それが酷く悲しくて涙が溢れた。
「なんで……」
誰もいないけれど呟いてみる。
そっか、僕は……友人だと思っていたしとぴっちゃんに裏切られたことが悲しいんだ。
マフィアの護衛としてはダメダメな感情だと思う。
それでも忠節を守って死ぬ時ぐらい、守屋優希としての感情に流されて泣くことぐらいは許されないだろうか?
うん、僕が許そう。
「しとぴっちゃんの馬鹿……」
× × × × × × × × × × ×
ずっと薄暗いままの部屋だから、何日経ったのかもわからない。
最初は尿意を催したりしてトイレを使ってたけど、トイレを使う頻度もどんどん減っている。
水を一滴も飲めないのに仕事する胃とか腎臓?って内臓には正直迷惑している。
何度も死ぬほどお腹が空いて少し落ち着いて死ぬほどお腹が空くを繰り返した。
しとぴっちゃんがくれた水ももう残り少ない。
これがなくなれば僕は急激に死に向かう。
正直、お母さんや叔父さんより先に死にたくはないけど、僕が今現在バリエラである以上仕方がない。
バリエラでなかったとしても、大好きなツナ君を裏切る選択肢はなかったし。
もう動く気力もなくて、ひたすらベッドの上で寝転がっている。
さっきから何度も大きな振動があって、どこか近くで激しい戦闘が行われているのがわかる。
「ツナ君………会いたい……」
心が弱ってるせいか、そんな言葉が口を突いて出た。
泣きたい気持ちでいっぱいなのに、思うように泣けない。
体が疲れちゃってるんだろう。
いつの間にか振動が止んで遠くからバタバタと複数の足音がした。
「優希!!」
ツナ君の声がした。
幻聴だろうか?
目を開けると、鉄格子の先にツナ君がいた。
獄寺君や山本君もいて、古里君が泣きそうな顔で牢の鍵を開けようとしていた。
しとぴっちゃんもやってきて、どういう状況なんだろうかと悠長に考える。
鉄格子の扉が開いて、ツナ君が真っ先に入ってきた。
「優希…!!」
ツナ君は僕の両肩に触れて泣きそうな顔で僕を見下ろす。
「遅くなってごめん…!!」
僕はなけなしの体力でなんとか右手を動かして、ツナ君の涙を拭った。
「……ぉそく…な……ぃ…ょ…」
びっくりするぐらい掠れた酷い声。
女の子とは正直思えない。
「守屋、これ飲め!」
獄寺君が口にペットボトルを当ててきた。
全然飲み込めなくて口から溢れた。
溢れた水は乾いてひび割れしている唇に少し沁みた。
「やめろ、獄寺。低ナトリウム血症になったらどうする?ボンゴレの医療チームがこちらに向かってるから、プロに任せるんだ。今は体だけ温めてやれ。」
「はっ…はい!」
リボーン様はいつも通り冷静で、獄寺君に毛布を渡す。
「クソッ……オレにできることがなくてすまねぇ…!」
毛布で僕を包みながら、獄寺君はまるで酷く傷ついたかのような顔でそう言ってくる。
そんなに今の僕は酷い状況なんだろうか?
まだ生きてるのに。
「守屋さん、謝って済むことじゃないけどごめん…!」
ツナ君の後ろで古里君が苦しそうに申し訳なさそうな顔をしている。
「初代ボンゴレは初代シモンを裏切っていなかったし、ツナ君も僕を裏切らなかった。
なんでボンゴレの初代霧の守護者の名前が出てくるんだろう?
謎は尽きないけど、どうやらツナ君と古里君は和解したらしい。
ツナ君がシモンファミリーを赦すなら、僕も赦すまでだ。
だって僕はツナ君のバリエラだから。
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