恋の話をしようか

餓死しかけた状態から戻るには倍以上の時間が必要だったけど、2週間が経つ頃には僕もすっかり元気になった。
ツナ君と古里君はすっかり仲直りして、一緒に犬に追いかけられたり、先輩に虐められたり、アーデルハイトさんに粛清されたり、はちゃめちゃな毎日を過ごしてるけど楽しそうだ。
ツナ君と獄寺君と大山君とランボ君が校庭で遊んでいるのを放課後の誰もいない教室から眺めていたら、古里君が入ってきた。

「……守屋さん」
「やあ、古里君」
「話、いいかな?」
「うん、いいよ」

古里君は僕が座ってる席の前の席の椅子に僕と向かい合う形で座った。

「この前のこと改めてちゃんと謝りたくて。守屋さん、あの時意識朦朧としてたから。」
「別に気にしなくていいのに。謝罪はちゃんと聞こえてたよ。シモンファミリーがどうしてボンゴレを誤解してたかはリボーン様から聞いたし。」
「でも……」
「悪いのはD(デイモン)・スペードだろ?それにシモンへボンゴレの負の遺産を押し付けたことに変わりはないんだ。みんな生きて戻れたんだからもうそれでいいじゃないか。」
「うん………」

古里君は浮かない顔のままだ。
結局のところ、彼は自分自身が誰よりも許せないんだろうな。

「僕もシモンの苦しみをありきたりって一蹴して見ようともしなかったこと、ごめんね。」
「守屋さん……」
「優希ー!」

気まずいタイミングで入ってきたのはしとぴっちゃんだった。

「恋バナしよーヨ!」

恋バナ?

「…僕は帰るよ。守屋さん、この前のことは本当ごめん。でも、謝るのはこれで最後にするね。」

古里君はそそくさと帰ろうとした。
そんな彼の肩をしとぴっちゃんは抑えて止める。

「エンマもしよーよ!恋バナ!」

しとぴっちゃんは何故急にそんなことを……恋バナって……。

「え、いや、オレは…」
「ねーねー、バリエラはボンゴレに恋すると死ぬってホントー?」

戸惑う古里君を他所にしとぴっちゃんは質問してくる。
流石の僕もこれには口をあんぐりと開けて固まってしまった。
急にこんな質問飛んでくると思わなかったから。

「…急に凄い質問ぶち込んでくるね。それもD(デイモン)・スペードの情報?」
「!」

古里君の表情が凍りつく。
僕を餓死させかけたことを謝罪した直後に仲間のしとぴっちゃんがこんなこと言えばそりゃそうなるよね。

「ソウダヨ。バリエラを殺すには毒殺か何もできない場所に閉じ込めて餓死させるかの2択だって。バリエラの7代目は仕えていた主人に恋して一族に餓死させられたって。」
「大体合ってるけど少し話が飛躍してる。」

すると先程から立ち去ろうとばかりしていた古里君が席に座り直した。

「バリエラの7代目は確かに先代ボンゴレに恋をした。ただ彼は愛し方を誤ったんだ。先代ボンゴレに婚約話が持ち上がって彼女が他の男のものになるのが許せなくて、先代ボンゴレと心中しようとしたんだ。ブラッド・オブ・ボンゴレを守るべきバリエラがブラッド・オブ・ボンゴレを殺そうとしたから死刑になったんだ。それ以降、できるだけ主人とバリエラの性別が同性であるように組まれてきたけど、別に恋したから死ぬってことはないよ。」

肩を竦めて笑うとしとぴっちゃんは目をぱちくりさせた。
なんだろう、含みがあるような反応だけど、何を考えているのかわからない。

「じゃあ、優希が沢田綱吉を恋しても問題はないんだ?」

一瞬固まった。
もしかしてしとぴっちゃんは僕がツナ君を好きなことに気付いている?

「理論上はそうだけど、バリエラに恋愛の自由はあってないようなものだよ。」
「?」

しとぴっちゃんは目を見開いた状態で首を傾げた。
ちょっと動きがロボット的だ。

「その情報は無駄だからD(デイモン)・スペードも教えてくれなかったんだね。バリエラはさ、基本一族の……スクーデが扱える人としか結婚しちゃダメなんだ。」
「何で?」
「スクーデの能力を持ったもの同士で子供を作るとスクーデの能力を引き継ぎやすいって迷信のせい。」

いや、迷信ではないかもしれないけど、弊害が多過ぎるのは確かだ。

「じゃあ優希は一族の人と結婚するの?」
「……しないよ。いないんだ。一族の男性で法的に結婚が可能でスクーデを使える人が。」

それを言うとあからさまに古里君がホッとした表情を見せた。
一瞬何で?って思ったけど、友人が法的に問題ない範囲とはいえ近親婚を強制されてたらそりゃ心配にもなるか。

「だったら好きに恋愛していいんじゃないの?」
「そう簡単な話じゃないよ。スクーデなしにボンゴレの専属護衛は務まらない。命を落とすだけだ。引き継がせるなら僕の能力を継ぐ子供か、僕と同等の防御能力を持った人の子供じゃないといけない。」

まあ、そんなつもりはないんだけど。
バリエラの一族の過ちを引き継がせはしない。
でも、一族の解散にはそれなりの痛みを伴う。
お父さんも叔父さんも僕も無職になるし、バリエラであることを誇りに思っているお父さんのことは傷つける。
近親婚の弊害で障害を持ってしまったイタリアの親戚達の養育費だって馬鹿にならない。
お祖父様の遺産相続の手続きがある程度落ち着いたら財源の目処は立つと思うけど。

「「…………………」」
「好きじゃない人と子作りしなきゃいけない将来が待ってるかもしれないから、とりあえず恋はしない方が無難なんだよね。」
「こ…子作り…」

古里君が顔を赤らめる。
言葉選び良くなかったかな?

「優希はそれでいいの?」

しとぴっちゃんの質問に僕は首を横に振る。

「あんまりは良くはないよ。ただ無責任に全てを放棄するつもりもないから、全ての片が付くまでは現状維持だよ。」
「ふーん……」

しとぴっちゃんは意味深にニヤニヤ笑顔を浮かべた。

「何?」
「いや、優希が何企んでるかちょっとわかっちゃったかも。もちろん、誰にも言わないヨ。」
「……そう、ありがとう?」

ありがとうなのかな?
まあ、いいや。
黙っててもらった方が都合良いのは間違いないし。
しとぴっちゃんは何がしたいんだろうか。
なんとなく笑い方がいつもの無邪気な感じじゃなくて悪巧みをしてそうな感じがする。

「ねー、ボスー。シモンは誰と結婚してもOKなんデショ?」
「あ、当たり前じゃないか!しとぴっちゃんはしとぴっちゃんの好きな人と結婚して!」

そう答える古里君の声にどこか力強さを感じる。
それはファミリーを想う優しいボスの信念みたいなものを感じさせた。

「しとぴっちゃんは獄寺君が好きなの?」

せっかく恋バナをするのだから、僕も突っ込んだことを聞いてみた。
しとぴっちゃんは首どころか体を横に振った。

「んーん、獄寺君は可愛いと思うけど、そういう対象じゃないナ♪」

あれ、意外。
てっきりしとぴっちゃんは獄寺君が好きだと思ったのに。

「そうなんだ。好きな人はいるの?」
「今のところいないネ。」
「じゃあなぜ急に恋バナを?」
「優希が恋愛できるか知りたかっただけー。」

あっかんべーをしながらしとぴっちゃんはそう答える。
彼女の行動が予測範囲から外れるのはまあいつものことだから、これ以上は突っ込まないことにした。

「ふーん……」

ふと古里君と目が合う。
そういえば古里君はどうなんだろう?
聞いても大丈夫かな?
いや、ここで聞かないのもなんか感じ悪いから聞こう。

「古里君は?」
「うえぇっ!?」

古里君は自分に振られるとは思っていなかったのか、顔を真っ赤にしてあたふたして後ろに倒れ、机に後頭部をぶつけた。

「えっ、ごめん、大丈夫?」

席を立って古里君の傍に寄り、彼の後頭部を確認する。

「えっ…あっ…」

動揺しながら顔を真っ赤にする古里君に、動じている時のツナ君が被る。
本当古里君ってツナ君と似てる。

「ごめん、近過ぎた?」
「だだだ大丈夫…」

姿勢を戻した古里君は後頭部を摩りながらそう回答してくれる。
さすがシモンファミリーのボス。
これぐらいは怪我の範疇にも入らないみたい。

「ピープププププピーィピーィ。」

こんなタイミングでしとぴっちゃんは謎の交信(獄寺君的に言えば地底世界との交信?)を始めて、教室から出て行った。

「……何がしたかったんだろ、あれ…」

思わず呟いた。

「あれは……」

古里君は心当たりがあるみたいだけど、口を閉じて俯いた。

「古里君?」
「……ごめん、オレもわかんない。」

古里君は眉を垂れ下げて笑う。

「あ、笑った。継承式の件からずっと暗い顔してたから笑ってくれて嬉しいよ。」

そう言って僕も笑えば、古里君は顔を真っ赤にして視線を逸らした。

「守屋さん……それは反則だよ。」
「反則?」
「な、なんでもないっ!」

古里君は相変わらず目を合わせない。
何故か耳まで真っ赤だ。
正直ここまでのやりとりで恥ずかしくなる要素あったかな…?

「守屋さん、その、今日一緒に帰らない?」

お誘いはありがたいなと思いつつ、僕は夕日がさす校庭を見下ろす。
ツナ君と獄寺君と大山君に囲まれたランボ君が、地面に寝転んで手足をバタバタ動かしている。
あれはきっと帰ることにダダを捏ねている感じだ。
帰るまでには時間がかかるだろう。

「お誘いは嬉しいんだけど、僕ツナ君の護衛だからツナ君にスケジュール合わせてて……多分ランボ君が帰るって言うまで待たなきゃいけないと思うんだけど……」
「だ、大丈夫!一緒に待つよ。」
「ありがとう。せっかくだからツナ君達に声かけてみんなで一緒に帰ろうか。」
「あ……うん。そうしよう。」

あれ?
何か今妙な間があったな。
少し残念そうというか。
実は古里君ってランボ君が苦手なのかな?
だとしたら悪いことしたかも。
でも今更2人で帰ろうって提案するのも大人の対応してくれた古里君に悪い気がする。

結局僕は2人で帰ろうとは切り出さなかった。
古里君も。
僕らはツナ君達に合流して、みんなで一緒に下校した。

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