戦力外通告

肌寒くなって時々ブレザーが必要になってきた秋とも冬とも言えない季節。
僕はリボーン様から呼び出されて代理戦争の話を聞かされた。
てっきり僕にも代理をして欲しいという話かと思えば、そうではなくて、僕には代理戦争内での戦闘時以外はツナ君の護衛をするようにという話だった。

リボーン様曰く、代理戦争の話には乗ったもののチェッカーフェイスのことは信用しておらず、呪いが解けるなんて微塵も思っていないとのこと。
チェッカーフェイスの目的はわからないため、他の代理戦争の参加者よりチェッカーフェイスを警戒して僕にはツナ君の護衛をひっそりと続けて欲しいらしい。
リボーン様はツナ君達を鍛えるために代理戦争に参加するので、基本的に僕に手を出して欲しくはないらしく、僕はチェッカーフェイス対策だけすればいいらしい。
ツナ君達は呪いを解くつもりで参加するので、リボーン様の参加目的はリボーン様が明かすまで伏せるようにとのこと。

都合よく使われてる感は否めないけど、アルコバレーノを取り巻く事情が複雑だということはなんとなくわかっているからリボーン様の依頼は承諾した。
正直仲間外れ感があって寂しい。
未来でみんなと共闘したせいかな?

1日目の代理戦争ではツナ君が家光さんに負けて、リボーン様はコロネロチームと同盟を組んだ。
それは別に良いんだけど、ダメ親父(ツナ君視点)に負けたことの感情処理が追いつかないツナ君は山本君ん家に泊まることになった。
家光さんと一緒に帰国したお父さんが家にいることが多くなってた僕としてはちょっとラッキーだったかも。
でも問題は山本君ん家の近くで泊まれる場所がなく、一晩外で護衛するか、山本君ん家に泊めてもらうかの2択しかない点だ。
さすがに男性5人しかいない家にお邪魔するのは迷惑だろうから前者を選んで、山本君ん家の屋根で待機してるけどこの季節の夜の外は寒いんだよなぁ。

「優希、この季節の夜は冷え込む。外で護衛なんてするもんじゃねぇ。山本の親父には話を通したから今夜は山本ん家に泊まれ。」

僕の行動を読んだかのようにリボーン様は屋根上に現れた。

「うーん…流石に男所帯にお邪魔するのは迷惑じゃないですか?」
「まあ思春期のアイツらにはちょっとばかし刺激が強いだろうが、おまえが傷付くようなことはしねーし、おまえが夜中に1人で外にいて風邪引くのを良しとする奴らでもねーだろ?」
「確かに…」

とはいえ好きな男の子と同じ家に泊まるって僕の方がやましい気持ちになるんだよなぁ。
でも背に腹はかえられないか。

「じゃあ、みんながOKするならお言葉に甘えます。」
「ああ」

リボーン様は頷いて軽々と道路へ飛び降りる。
僕も周りに人がいないことを確認して道路へ飛び降りて、準備中の看板がかけられている竹寿司の正面玄関を開けた。

「こんばんはー…」
「おっ、優希ちゃんか!事情は聞いてるぜ!うちに泊まっていきな。」

厨房で皿洗いしていた山本君のお父さんは気前よくそう言ってくれる。

「一応山本君達の承諾も得てから……」
「あれ?守屋?」

お店の奥からひょっこり山本君が顔を出した。

「あ、お邪魔してまーす。」

山本君だけでなく、ツナ君、獄寺君も少し驚いた様子で姿を現す。

「どうしたの?」
「ツナの護衛のために屋根上で待機してたから、山本の親父に話をつけて泊まるように言ったんだ。」

ツナ君の質問にはリボーン様が答えてくれた。

「みんなが嫌じゃなければ泊めてもらおうと思うんだけど…」
「オレは別にいいぜ。オレら居間で寝る予定だから、オレの部屋使えよ。」

山本君のありがたい提案に一気に泊まることに前向きになった。

「いいの?」
「おう!ツナと獄寺もいいだろ?」
「オレは構わないけど…」

ツナ君のこの反応はそもそも異性としてそんなに意識されてないな。
子供の時は当たり前のようにツナ君ん家に泊まってたから当たり前っちゃ当たり前。
わかってはいたけどちょっと複雑な気分。

「オレは反対だ。嫁入り前の女が男しかいない家に泊まるなんてありえねぇだろ。」

なんか予想通りっちゃ予想通りだけど、貞操観念ガッチガチの獄寺君は反対してきた。

「別にいーじゃねーか。あ、もしかして獄寺、オレやツナが守屋と同じ家で寝泊まりするのが嫌とか?」

なぜか山本君は的外れなことを言って獄寺君を煽る。
そういう問題じゃないだろうに。

「なっ…!ちげーよ!!オレはふつーに常識的に考えてダメだっつってんだよ!!」

獄寺君は顔を真っ赤にして反論した。
普通も常識もなんだか似たような意味で、テンパってる感じがする。

「ご、獄寺君、多分泊めないってなったら優希また外で待機しようとするから……」
「! じゅ、10代目がそうおっしゃるのでしたら……」

ツナ君はどっちでも良い感じかと思ったけど、意外にも泊まるの賛成派だったみたい。

「お世話になります。」

僕はとりあえず山本君のお父さんに頭を下げた。

「おうよ!優希ちゃん、晩飯は食べたか?」
「あ、はい、食べました。」
「お風呂は?」
「えっと…まだ入ってない…です…」

その質問に顔に熱がこもった。
今日は入れないと覚悟してたけど、それがツナ君達にバレるのはちょっと恥ずかしい。

「じゃあ先に入っちまいな。」
「はい、ありがとうございます…」

山本君のお父さんに促されるまま僕はお風呂を借りた。
速攻でシャワー浴びて10秒だけお湯に浸かってすぐに上がった。
着替えは下着の替えは持ってきてたけど、寝巻きは持ってきてなかったから山本君のTシャツを借りた。
着てみるとTシャツは当然オーバーサイズで、ロングTシャツみたいな感じになった。
ワンピースにしては裾が短いけど、下着はしっかり隠れてるから特に問題ないと思う。

「お風呂ありがとうございました。」

閉店作業をしている山本君のお父さんに話しかけると笑顔を向けられた。

「おう!」
「あの…ドライヤーってありますか?」
「ドライヤーかー…オレも武も使わねーから置いてねーんだよなぁ。」
「あ、じゃあ大丈夫です。」
「オレが貸すぞ。」

どこからともなく現れたリボーン様がドライヤーに擬態したレオンを貸してくれた。

「ありがとうございます。」

お礼を述べて居間を覗くと、3人は野球ゲームをしてた。

「お風呂空いたよー。山本君、部屋借りていい?」
「お…!」

振り向いた山本君は何故か固まった。
ツナ君と獄寺君も釣られて僕を見て固まった。
獄寺君の顔が真っ赤になっていく。

「お前、なんつー格好を…!」
「変かな?」
「変つーか…!」

獄寺君は言葉を詰まらせる。
山本君が苦笑いを浮かべて人差し指で頰をかく。

「思ってた以上に丈が短けーな。オレ、もっかい守屋に貸せるズボンねーか探してくるな。」
「え?あ、うん、ありがとう。」

頬を赤く染めた山本君は立ち上がって僕の横を通り過ぎて、2階へ上がって行った。
どうやら僕の生脚ごときで照れて茹で蛸のようになっている獄寺君とは対照的に、ツナ君は顔色が少し悪くTシャツの裾のあたりを凝視している。

「優希……その刺青……」

ああ、バリエラの紋章とボンゴレ紋章がTシャツで隠しきれてなくて、チラッと見えるのか。

「ああ、これはバリエラの10代目であることを象徴する刺青だよ。」
「刺青って痛いんじゃ…」
「まあね。その痛みに耐えながらスクーデを張らないようにできるぐらい、スクーデをコントロールできるかどうかが、バリエラとして一人前になったかどうかの判断基準なんだ。」
「え……じゃあオレの護衛を引き受けるために入れたの?」

ツナ君の口角の筋肉が完全に仕事してない。
これは頷いたらツナ君を曇らせるやつだ。
とはいえ嘘をつけばバレる。
うん、ツナ君のためでも自分のためでもあることを伝えるのが無難だろうな。

「んー……"はい"とも"いいえ"とも答え難い質問だね。」
「どういうこと?」
「スクーデって基本的にはあらゆる物理攻撃に対して発動しちゃうからさ、コントロールできないと予防接種とか受けれないんだよね。だからツナ君の護衛引き受けるためっていうのはもちろんあるんだけど、僕自身のためでもあるんだよ。」
「そっか…」

ツナ君はあからさまにほっとした表情を浮かべた。
一方さっきまで茹で蛸だった獄寺君もいつの間にか落ち着いていて、少し考えこんでいる様子だった。
階段を降りてくる音がしてそちらを見ると、山本君がズボンを持ってきてくれていた。

「オレが小学生の時のハーフズボンだ。紐を調整すれば守屋も着れるんじゃねーかな?」
「ありがとう」

ここで履くとパンツ見えちゃうだろうし、ゲームしてる側でドライヤーは迷惑だろうから、やっぱり山本君の部屋を借りなきゃな。

「山本君、部屋借りていい?みんなの邪魔にならないところでドライヤー使いたくて。洗面所使っちゃったら次の人がお風呂入れないだろうし。」
「いいぜ。」
「ありがたく使わせてもらうね。」

僕はそう言って2階に上がった。
山本君の部屋でちゃちゃっと着替えて髪の毛を乾かした。
リボーン様にドライヤーに擬態したレオンを返すために居間に戻ったら、野球ゲームを楽しんでる山本君の隣で獄寺君が髪の毛をタオルドライしていた。
いつもと違って前髪がペタンとしている。
10年後のアジトでも何度か見たやつだ。
正直濡れ髪の獄寺君は色っぽい。
こんな姿の獄寺君を見たなんて獄寺君ファンクラブの人達に知られたら刺されそうだ。

「リボーン様、こちらお返しします。」
「ああ」

リボーン様にレオンを返すと彼はその姿をドライヤーからいつものカメレオンに戻した。

「山本〜、上がったよ〜。」

そんなタイミングでツナ君が洗面所から出てきた。
ツナ君も髪の毛をタオルで拭きながら出てきたけど、どうして彼の髪の毛はお風呂上がった直後でもツンツンしてるんだろう?
昔からツナ君の髪の毛って濡れてもツンツンしてた。
つい触ってみたくなる衝動をこっそり深呼吸して抑えた。
ツナ君のことを好きなことは誰にも知られたくないし、知られるべきではないから。
まあ、しとびっちゃんにはバレてそうだけど。
とにかく、寝るにはまだ早いし、せっかく屋内で護衛させてもらえるなら就寝までは目の届く範囲に居させてもらおう。
そんなことを考えながら僕は居間の角に座った。

「おー」

山本君はゲームのコントローラーを置いて居間を出た。
お風呂に入りに行ったんだろう。
ツナ君は山本君が座ってた座布団の上に胡座をかいて、自然な動作でコントローラーを拾う。
僕はツナ君の護衛だから山本君の家に何回か遊びに来てるのは知ってたけど、こんなナチュラルに友達の家(よそのおうち)のゲームで遊ぶほど慣れてたんだ。
家の中で何してるかまで把握していなかったから知らなかった。
ていうかそこまで把握してたら、護衛じゃなくてただのストーカーだ。
ああ、嫌だな、今まで護衛として何も考えず当たり前にできていた線引きができなくなってきている。

「へー、この選手も追加されてるんだ。」

ツナ君はそんなことを呟きながら、選手の一覧を見てる。
山本君が戻ってくるまでプレイはしないみたいだ。
ゲームのことを訊いて、ツナ君ともっと話をできればなんて思ってしまう。
今はチェッカーフェイスのことが気がかりだから護衛するようリボーン様から命令されてるのに。
恋愛に割くリソースなんてないし、ツナ君が京子ちゃんを好きなことは誰よりも知ってるのに。

「そういえば優希は代理にしないんスか?」

いつの間にかツナ君の右隣に座っていた獄寺君がリボーン様に尋ねる。

「ああ、しねぇ。」
「なんで?」

理由を尋ねたのはツナ君だった。
リボーン様が話してなかったことに驚いたけど、2人の発言からそもそも代理戦争の代理決めの時点で僕が戦力にカウントされていなかったのだと気付いて、それが僕の心に暗い影を落とした。

「オレはチェッカーフェイスを信用してねーからな。」

リボーン様は淡々と答える。

「それってチェッカーフェイスが代理戦争参加者を暗殺するとかそういうことっスか?」
「そんなとこだ。お前らを代理戦争に集中させるためにもそれ以外の護衛は優希に任せた。」

ああ、そうか。
僕は気付いてしまった。
リボーン様が僕を代理にしない本当の理由に。

「そうなんスね。確かにチェッカーフェイスは怪し過ぎっすからね。」
「そういうことなのか…」

獄寺君とツナ君はそれぞれ納得したようだ。
でも僕はリボーン様に確認しなければならないことができた。

「リボーン様、少しお話良いですか?」
「ああ」

リボーン様はいつもの笑みを浮かべているけど、目が笑っていなかった。
僕とリボーン様は山本君の部屋に移動した。
リボーン様は堂々と部屋のど真ん中に胡座をかいて座る。
僕は彼の前に立った状態で早速聞きたいことを切り出した。

「リボーン様はわざと隠し事をされていますよね?」
「それがどうかしたか?」
「チェッカーフェイスを信用していないのは本当ですよね?だから僕を簡単に騙せた。」
「騙したとは人聞きが悪ーな。」
「そうですね、騙してはいないかもしれません。でも意図的に僕が本当の目的を見落とすよう仕向けましたよね?」

僕は一呼吸置いて口を開いた。

「本当はツナ君に恋している今の僕に、ツナ君を護衛する資格なんてないと思ってるんじゃないですか?」

自分で口にしておきながら、無数の針に刺された気分だった。

「そこまでは思ってねーぞ。」

リボーン様は黒くて大きな瞳を真っ直ぐ僕に向けてそう言った。

「恋愛は自由だ。だが、お前は自分で自分がツナの護衛なのか、ただの拗らせたストーカーなのか、わからなくなってんだろ?だから少しツナから距離を取って、自分が今後どう振る舞っていくか考えるべきだ。今のお前にツナ達(アイツら)と対等に戦う資格はねぇ。」

事実上の戦力外通告に足元から崩れ落ちそうだった。

「死ぬ気の炎を強化するものは強い覚悟だ。逆も然り。今の揺らいでる状態でお前は大した戦力になれるか?」

戦力にはなれないだろと言わんばかりの台詞に、憤りを感じる余裕もない。

「どういう立ち位置でツナを支えるのか、ちゃんと考えろ。その結論が出ない限り代理を頼むことはねーし、余り長引くようなら護衛からも外す。」

ボンゴレファミリーの部下としてのプライドは完全にズタズタなのに、更に追い討ちをかけるようなことを言われて言葉が出て来なかった。
自分の感情すらわからない。
だって、護衛すら外されたら僕が頑張ってきた10年間が全ての水の泡だ。
そんなことになってしまったら、僕はどうすればいいの?

「……わかり…ました。」

理性という理性をかき集めてどうにか返事をした。
バリエラの当主として何とか威厳を保つために。

この後リボーン様は居間に戻って、入れ替わりで山本君が部屋に来て布団を準備してくれたけど、僕は思考がグルグルして一睡もできなかった。
そのせいで翌朝、リボーン様から今日は1日護衛するなと、遂に後継者教育ではなく僕の落ち度が理由で護衛をはずされてしまったのだった。

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