一族の解散

僕は一体何をしていたんだろう…?
目の前に広がるのは沢田家の庭でお腹が血塗れになった状態で横たわる家光さんとその家光さんを支えるバジル君、顔に数滴の血を貼り付けて倒れている奈々さんとその奈々さんを支えるビアンキさん、奈々さんを心配して泣きそうになりながら傍についているランボ君とイーピンちゃん、そして難しい顔をしているラルさんとコロネロさんだった。

「僕がもっと早く気付けていれば…」

自分の不甲斐なさに歯噛みする。

「お前のせいじゃない。気に病むな。」

ラルさんはそう言ってくれるけど、僕にはそうは思えなかった。

僕が騒動に気付いたのは外から物が壊れる音がした時だ。
まあまあ大きな音で外を見たら、復讐者(ヴィンディチェ)が奈々さんに向かって鎖を伸ばしていた。
慌てて窓から飛び出て奈々さんを守ろうとしたものの間に合わなくて、家光さんが奈々さんの前に立ちはだかり鎖の攻撃から奈々さんを守った。
その代わり家光さんのお腹の左側に鎖が貫通して、奈々さんは後ろに倒れ込んだ。
復讐者(ヴィンディチェ)が鎖を引き抜いて再度攻撃しようとしたタイミングには流石に間に合ったけど、「どうした!?」と声を上げながら鷹に持ち上げられた状態で現れたコロネロさんの姿を見るなり復讐者(ヴィンディチェ)は話に聞いた夜の炎に身を包んで姿を消した。
僕は全く間に合わなかった。

「…おい!おい!優希!」

コロネロさんの声ではっとなる。
いつの間にかリボーン様まで現れた。
リボーン様は奈々さんだけはこの代理戦争に巻き込んではいけないと言う。
そして家光さんはコロネロさんがこの代理戦争に参加した動機をラルさんに明かした。
コロネロさんは最初から自分の呪いを解くつもりはなくて、勝ったら権利を譲渡してラルさんの呪いを解くつもりだったらしい。
その献身的な愛に心を打たれたのはラルさんだけじゃなかった。
僕も1tのハンマーで殴られたように気付きを得た。
愛とはかくあるべきだと。
ツナ君を愛しているなら、ツナ君の幸せのために僕ができることをすべきだと。

「優希、お前はママンの護衛をしてくれ。復讐者(ヴィンディチェ)の目的は代理戦争の勝利で第一目標がボスウォッチの破壊とはっきりしている。ボスウォッチを着けているツナのママンがまた狙われないとは限らない。」
「はい、任せてください。」

即答した。
だって僕が奈々さんを守れば、ツナ君は自分のことに集中できるはずだから。
ツナ君は大切な人みんなを守りたい人だから、ツナ君だけが守られて生き残っても守護者のみんなや奈々さんに何かあれば、彼はとても傷ついてしまうから。

× × × × × × × × × × ×

代理戦争はツナ君の勝利で終わった。
ツナ君はツナ君の望む結末を自らの手で引き寄せた。
この代理戦争で誰1人欠けることなく、リボーン様達の呪いを解いた。
僕はといえば、ずっと奈々さんの護衛をしていて、最後まで代理戦争には参加しなかった。
それがツナ君のためだと信じていたから。

なんてことない休日の今日、ツナ君は2回目の告白を失敗した。
久々に死ぬ気モードで京子ちゃんに告白すると息巻いて外へ駆けて行ったのに、建設中の建物に張り巡らされた足場の倒壊に巻き込まれそうになったハルちゃんを助けて、死ぬ気モードが終わってしまったのだ。

「やっぱりツナ君ってすごいね。ただ者じゃないって感じ。」

そう言って微笑む京子ちゃんは明らかにツナ君に異性としての好意を向けていた。
肝心のツナ君は気付いていないけれど、同じ気持ちを抱えている僕にはわかった。

その日の晩、リボーン様は突然僕の家に現れた。

「優希、どうするかは決まったか?」

僕は頷いた。

「僕はツナ君のバリエラではなく、部下になります。友人としてボンゴレのボスになるツナ君を支えます。」
「颯太と計画していたことを実行するんだな?」

颯太   育ての親であり師匠である叔父さんと計画していたこと、それはバリエラの一族の解散だ。

「…っ!叔父さんも噛んでいることをご存知だったんですか?」
「ああ、もちろんだ。」

僕がバリエラを終わらせそうとしていることについては、マフィアランドの帰りの時点でリボーン様は気付いていそうだった。
でもまさか叔父さんが関わっていることまで気付いているなんて……。
それならきっとリボーン様は正確に僕らのやろうとしていることを見抜いていらっしゃるんだろうな。

「オレは明日イタリアへ飛ぶ。ツナをネオ・ボンゴレI世(プリーモ)にするためにな。」
「ネオ・ボンゴレI世(プリーモ)……ですか?」

正直意味がわからなくて首を傾げた。

「10年後での試練でアイツは言った、『間違いを引き継がせるくらいならオレがボンゴレをぶっ壊してやる』ってな。それを実践させようって訳だ。」
「それはつまり、組織の再編…?」
「そういうことだ。まずは名前からだろ?」
「それは…そうですね。」

そうなんだろうか?
よくわからないけど、とりあえずここは話を合わせておく。

「優希、組織の再編だ。」
「不要なものとしてバリエラを新組織に持ち込ませないことができるって仰りたいんですね?」
「ああ」

具体的にどんな新組織になるかはわからないけれど、つまりは僕もイタリアに飛んでこのタイミングで解散を申し出ろってことなんだろう。
課題は山積みだけど、リボーン様が本気で組織再編を考えているならこれ以上のチャンスはない。
賭けに出るべきだ。

「わかりました。イタリアまでお供します。」

× × × × × × × × × × ×

イタリアのボンゴレ本部に着くと早速9代目の執務室に案内された。
9代目とリボーン様と僕の3人でローテーブルを囲むソファに座った。
9代目のバリエラである叔父さんは9代目の背後に立って控えている。
今叔父さんは仕事中だから再会をゆっくり楽しむことはしなかった。

リボーン様は早速ツナ君にはまだボンゴレを継ぐ意志がないこと、ツナ君にネオ・ボンゴレI世(プリーモ)の地位を与え、将来的に自警団としての色を濃くした組織再編を行いたいことをお話しされた。

「いいんじゃないか。」

9代目は穏やかな笑みを浮かべてそう言った。

「ワシも綱吉君には常々今のボンゴレをぶっ壊して欲しいと思ってたんじゃ。ちょうどいい。」
「決まりだな。」

余りにも重大なことがトントン拍子に決まって、僕は拍子抜けした。

「…ところで優希ちゃんは今回どんな用で来たんだい?」

僕は深呼吸して、僕の決意を切り出す。

「今回の組織再編にあたって、お願いしたいことがあるんです。」

9代目は柔らかい笑みを讃えつつも、ボスの顔をチラリと見せた。

   バリエラの一族を解散したいと考えています。」
「本気かい?」

9代目は驚いた様子もなく尋ねてくる。
むしろ驚いていたのは叔父さんの方だった。
こんなに早く僕が行動を起こすと思ってなかったんだろう。
もともとツナ君が10代目を継いでから、解散によって発生する課題をクリアして、それから解散を打診するつもりだったから。

「本気です。バリエラがスクーデの能力(チカラ)を維持するために近親婚を繰り返し、一族の子孫を残せなくなっていることは9代目もご存知だと思います。僕はその間違いを引き継がせたくありません。」
「そうか。解散した後はどうするつもりだい?」
「一族を解散しても僕らはボンゴレです。変わらず雇っていただきたいです。我儘は承知の上ですが…」
「いいや、我儘などではないよ。」

9代目は穏やかな表情で首を横に振った。

「ワシが見てきたバリエラの一族は皆、その使命に苦しんでいた。能力を授かれない苦しみ、子を授かれない苦しみ、彼らの苦しみを背負って使命を果たす苦しみ……それぞれ何かしらの苦しみを抱えていた。じゃが、一族の在り方をワシらボンゴレのボスが否定することはできない。なぜなら、ワシらのために味わった君達の苦しみをワシらがなかったことにしてしまうことになるからね。」

そんなことを9代目はお考えになられていたのか…と目頭が熱くなった。
9代目はずっと複雑な思いを抱えながらも僕らを尊重してくれてたんだ。

「だから君達から使命を放棄すると申し出たら、その時は応えてあげようと思ってたんじゃよ。」
「9代目……」
「現役のバリエラである優希ちゃん、颯太、ラウルの3人はこのままボンゴレで雇うと約束しよう。」
「ありがとうございます…」

僕は目から涙を溢しながら深く頭を下げた。
気付けば叔父さんも9代目の前に回り込み、深く頭を下げていた。
こうしてバリエラの一族は解散することになった。
色々な課題を残しつつも、叔父さんと僕が10年かけてきた悲願が達成されたのだった。

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