この少女は、苗字家の末裔である。主からの情報をもう一度調べ、そう分かったときに、全てを悟った。今まで刈り取られる側の素性など、大して興味もなかったから。
苗字家。古き日本から細々と伝わる家系だ。裕福なわけでもなく、何かを成し遂げた訳でもない。それでもこの一族は、こちらの世界でもよく話題に出ていた。「命を与えられる」一族だと。代々伝わる不思議な力で、病気や怪我を治すことができるのだ。僕たちと対象的なその存在は、話を聞いているだけでも興味深かった。
そして、死神一族と苗字家は、永く付き合いを持っているとも。それが、意味することは。
「この力、いいことだらけなのかなぁって思ってたんですけど、そりゃあやっぱりリスクはありますよね」
「後悔していますか」
無意味に命を与え続けていたこと。それのせいで、自分の命を縮めていたこと。
「いいえ」
ふわりと笑う名前に、僕は言葉が出なかった。迷うことも無く笑うその顔は、綺麗だった。しかし、それと同時に不気味だと思った。なぜ、そんなに穏やかに笑っているのだろう。
「お母さんも、物心ついたときはもういなくて、わたしずっと親戚中をたらい回しにされていたんです」
ポロリと名前が呟く。どこか諦めたような表情。何も知らないように見えるその瞳は、知っていた。全てを。
「自分の力を知ったのも、たまたまで。高校生の頃、わたしの近くで仔猫が倒れていたんです。雨の中で震えていて、もう歩けなさそうで。周りの人みんな知ったこっちゃないように通り過ぎていくんです」
「……」
「こんなに小さいのに、可哀想だって思いました。救ってあげたいって思って、それで、願ったんです。神様、助けてあげてって。そうしたら、気がついたらその子、元気になっていたんですよ」
「最初は驚いたんですよ」ふわりと笑うその表情が、胸の奥の何かに重なる。ああ、彼女はこんなふうに笑うのか。
「治せるって気がついて。枯れかけの花とか、怪我した子どもとか、手をかざしたんです。そうしたら、みんな元気になっていって……」
「……」
「ありがとうって言われると同時に、色々な目で見られるんです。たまたま見てしまった人とか、子どものお母さんとか。仕方ないんですけど。そんなわたしを見て、親戚は「ばけものだ」って言ったんです。そこからは、ずっと一人で…」
「…」
「時透さん」
「……はい?」
「わたし、ばけものなんでしょうか」
その声が少し震えていたことに気がついた。これまで彼女が気丈に振舞ってきたのは分かっていた。好奇心、嫌悪、憎悪、……すべてを背負ってきたのだろう。ある日は神様に、でもある日は悪魔に。人の目はコロコロと見方を変える。その過程を、彼女は一番近くで見てきたのだろう。「怖いですか、わたしのこと」縋るように見える目つきは、どこか達観しても見えた。甘えを知らない瞳だ。一人で生きてきたのだろう。頼れる両親も、本当のことを話せる友人も、彼女には一人もいないのだ。気がついたら無意識に、隊服に隠れた手で、その頭をやんわりと撫でていた。何をしているんだろう、僕は。一時でも、ほんの一瞬でもいいから、安寧でも与えたいのだろうか。この手は、命を刈り取ることしかできないというのに。「大丈夫。………怖くないですよ」
あぁ、怖いと思う。むしろ、可哀想だとさえ思ってしまう。それでも治すのを止めようとしない、君のことが。