―――声が聞こえる。
ひどく朧気ではずだったのが、最近になってからは嫌に鮮明に。わたしの死期が近いこととなにか関係があるのだろうか。死神さんかな。時透さんなのかしれない。それか、反対に、神様なのかもしれない。分からないけれど、恐ろしいとは思わなかった。ただただ、悲しいと思った。
『……また繰り返してしまうんだね』
寂しそうな声だと思った。けれど、どこか懐かしく思えた。繰り返してしまうって? こうして命を終わらせてしまうこと? だって、そうなんでしょう。これが、わたしたちの。
『私もよ。運命だって私も思っていたんだよ。だけど、あの人は言ってくれたの』
――そう、運命。最近知ったことだ。時透さんに出会って、自分が苗字家の子孫だとあらためて聞かされたとき、全てが頭の中に流れてきた。血が覚えていた。苗字家は、誰かに命を与えることの出来る代わりに、己の命を散らしてしまうのだと。それがもう、1000年以上繰り返されているのだ。運命。さだめ。宿命。とてつもなく結びつきが強い、それ。
『「随分と重たい鎖だな」って、泣きながら言ってくれた。「そんな鎖、引きちぎってやる」って』
どこかで聞いたことのある感覚がした。誰の記憶なのだろう。いつの、だれの、記憶なのだろう。1000年間の内にぐるぐると渦巻いた思い。それらが、溢れているように。
『彼を……あの人を、今度こそは救ってあげてほしい。守られるだけではいられないもの。次はきっと…………』
すくうってなに? それがわたしたちの力じゃないの? 分からなくて聞いてみたいのに、次の言葉はもう聞こえなかった。ひどいノイズ音が、頭の中に響く。不快な音に目を潜めてしまいそうになり、けれど、それではいけないよ、と心の中のどこかから聞こえてくるのだ。だから、ゆっくりと目を開けてみる。まっしろだった。誰の姿も、わたしの姿さえも、何も無い世界。なぜだか涙が込み上げてくる。思わず慟哭してしまいそうになるほど、何かがわたしの中に溢れてくる。誰の、記憶なのだろう。
『―――またね』
あなたは、だれ?
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目を覚ますと、頭の中から何かが抜け落ちているような感覚に襲われた。心の中を喪失感が埋めつくしてくる。辺りは暗く、置時計の時間はまだ深夜を指し示していた。おでこに手の甲を置き、わたしは息を吐く。かなしい。何かがわからないけど、悲しみがわたしを襲ってくる。けれど、その悲しみが何からやってきているのか分からなかった。悲しい気持ちが溢れているのに、わたしにはそれがどこか他人行儀に思えてしまう。その悲しみをフィルター越しに見ているような、そんな不思議な感覚。
「……お水飲も」
ゆっくりと起き上がって、そのままキッチンへと向かった。お水を飲み、リビングに向かう。いつもだったら誰もいないはずのそこには、彼がいる。時透さん……死神だという。わたしの命を、終わらせる人。まるで非現実的な話だ。あれよあれよとわたしの家に泊まることが決まり、このようにソファで寝ている。少しぼーっとしているように見える綺麗な色をした瞳。ゆらりと靡く、黒髪。大きめの隊服から覗く手は、思ったよりも筋肉が付いているように見える。わたしより若そうに見える時透さんも、きっと長い長い間生きているんだ。死神だから。それなのに、怖いという思いはなかった。よく眠っているなあ、と思った。そっと近づき、寝顔を見つめてみる。瞳を閉じていても、綺麗だと分かる。誰かの記憶と、何かが、重なる。