08
そんなある夜のことだった。
ナマエがようやく深い眠りに落ちたあと、隠れ家のリビングには重たい沈黙が落ちていた。
昼間はあんなに賑やかだった部屋が、今は別の場所みたいに静かで、テーブルの上のランプだけが薄暗い空気をかろうじて照らしている。
その灯りの輪の中で、クラピカが静かな声を落とした。
「独自に調べた」
金色の瞳が伏せられる。
その横顔はいつも通り冷静に見えたけれど、声の底には、押し殺したものが沈んでいた。
「……彼女は、物心がつく前から、ある犯罪組織の地下施設に監禁されていたらしい」
その一言だけで、空気が変わった。
レオリオが眉をひそめる。
ゴンが息を呑む。
キルアは何も言わず、ただじっとクラピカを見ていた。
「組織は彼女の能力を利用していた。人を盲従させるその力を、より効率よく、より強く引き出すために……毎日、人為的に恐怖や激痛を与えていたそうだ」
クラピカはそこで一度言葉を切った。
喉の奥に苦いものでも引っかかったみたいに、ほんのわずかに息が止まる。
「泣き叫ばせ、怯えさせ、追い詰めることでしか、彼女は生き延びられなかった。……あの能力は、そうしなければ壊れてしまう環境の中で身についた、悲しい防衛本能なんだよ」
ランプの灯りが、テーブルの上に小さく揺れる。
誰もすぐには言葉を返せなかった。
静かな部屋の中で、その話だけが異物みたいに重く沈んでいく。
能力に狂ったから、でも構わない。自分を救ってほしい。苦しみから、守ってほしい。
その切実な叫びが、悲しいことに人々を狂わせてしまっていたのだ。
その言葉は静かだった。
けれど静かだからこそ、刃みたいに深く刺さった。
次の瞬間、レオリオが堪えきれない怒りのままに机を叩いた。
鈍い音が、静まり返った部屋に大きく響く。
「ふざけんな……!」
低く吐き出された声は、怒りで震えていた。
「ガキ相手に何やってやがる……!」
ゴンもまた、何も言えないまま唇を強く噛みしめていた。
まっすぐで明るい瞳が、今は痛いほど暗く沈んでいる。
膝の上で握られた拳が、悔しさを押し殺すみたいに小さく震えていた。
けれど、その場でいちばん恐ろしかったのは、何も言わなかったキルアだった。
彼だけが、一言も喋らなかった。
ただ、空気が変わる。
いや、凍りつく。
さっきまで同じ部屋にあったはずの温度が、一瞬で奪われたみたいに、肌を刺す冷たさが広がっていく。
バチ、バチ、バチ……ッ。
不気味な音がした。
キルアの身体のまわりから、青白い電撃のオーラが漏れ出していた。
抑えきれない怒りが、そのまま形を持って溢れ出しているみたいだった。
念の制御が利いていない。
それほどまでに、感情の質量が大きすぎた。
その横顔は、ひどく静かだった。
静かなのに、恐ろしい。
怒鳴りもしない。
机を叩きもしない。
ただ、何も言わないまま、目の奥から光だけがすっと消えていく。
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