呪いが光に変わるとき・中
だからこそ、頭を殴られたような衝撃だった。
ナマエは言葉を失い、ただ目の前のキルアを見つめることしかできなかった。
これまでずっと、自分の力は「悪魔の力」だと思い込んていた。
人を狂わせ、血を流させ、最後には自分をも壊していく忌まわしい呪い。
触れてはいけない、決して使ってはいけない、最低の兵器。
生きているだけで周囲を不幸にするのだから、自分なんていっそ消えてしまった方がいいと、本気で信じていたのだ。
それなのに、キルアはその冷たい暗闇の底に、まったく違う光を当ててみせた。
「お前、自分の能力、呪いとか兵器だと思ってんだろ」
吐き出された声は不器用で、けれど酷くまっすぐだった。
「お前のそれ、そんなんじゃない」
キルアの瞳が、ナマエの怯えをまるごと見つめ返す。
「昨日ので分かった。周りが狂ってたんじゃなくて……お前の感じてるもんが、そのまま漏れてただけ」
昨日――。
その言葉に、ナマエの胸がどきりと跳ねた。
前日、キルアが何気なくかけてくれた言葉や仕草が嬉しくて、心がじんわりと満たされたあの瞬間。
あの時、確かに何かがナマエの身体から溢れていた。
「昨日、あったかかったのは、お前がそうだったからだろ」
その一言が、硬く閉ざしていた心の奥深くにすとんと落ちてくる。
(あたた、かかった……?)
ナマエの脳裏を、過去の凄惨な記憶が駆け巡る。
電流の激痛。響く怒号。暗い檻。
「助けて、怖い」という、張り裂けそうな悲鳴。
あの地獄で周囲が歪んで、狂って、壊れていったのは、ナマエのせいではない。
ナマエの感じていた恐怖と苦痛があまりにも純粋で、強すぎたからだ。
その悲鳴のオーラに同調した人間たちが、耐えきれずに狂っていっただけなのだ。
能力の本質は、周囲を無理やり従わせる洗脳なんかじゃない。
自分の強い感情を、そのまま周囲のオーラへ同調させてしまう。ただそれだけの、あまりにも純粋な力。
もしナマエが幸せなら。
もしナマエが安心して、あたたかく笑えるなら。
そのオーラは誰かを壊すどころか、昨日キルアが感じたように、きっと周りまであたたかく包み込む。
それは呪いなんかじゃない。兵器なんかでもない。
むしろ、奇跡みたいにやさしい力だ。
「……あ」
じわ、とナマエの視界が歪んだ。
これまで感じたことのない、圧倒的なあたたかさが胸の奥から込み上げてくる。
組織の奴らは「最高の兵器」と呼び、狂った大人たちは「神」のように崇め、誰もナマエ自身の心なんて見てくれなかった。
なのに、キルアだけは、その地獄の根底にあったナマエの本当の揺らぎを見つけ、肯定してくれた。
(……信じても、いいのかな)
もし自分が幸せになれば、この場所で安心して笑えるようになれば、この力はもう誰のことも狂わせない。
凍りついていた心が、内側からみるみる溶けていく。
堰を切ったように目から溢れ出した涙は、これまで流してきた恐怖の涙とは、まったく違う味がした。
胸が痛いほどに熱い。
ナマエは震える唇を噛みしめながら、涙の向こう側で自分を見つめるキルアの姿を、消えない光としてその心に深く刻みつけていた。
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