呪いが光に変わるとき・後
ナマエが自分の力を語る時の声を、キルアは好きになれなかった。
怯えているくせに、どこか妙に静かで、諦めきった響きが混じっている。まるで何度も何度も同じことを自分に言い聞かせて、そのたびに少しずつ痛みを鈍らせてきたみたいな声だった。
呪い。
兵器。
人を狂わせる力。
生きているだけで周りを不幸にするもの。
ナマエはそれを、自分のこととして口にする。
誰かに押しつけられた言葉を、もう自分の本音みたいに抱え込んでいる。その響きが、ひどく嫌だった。
腹が立つ。
でも、それはナマエに対してじゃない、そう思うように仕向けた連中にだ。
痛みと恐怖を何度も何度も叩き込んで、自分の力をそういうものだと信じるしかないところまで追い詰めた奴らに。
力そのものじゃなく、ナマエの認識ごと歪めたことが、たまらなく気に食わなかった。
しかも厄介なのは、キルアにはもう分かってしまっていたことだった。
昨日。
ナマエのそばにいた時、確かに感じた、あの、じんわりと身体の奥に染みてくるようなあたたかさ。警戒心を削がれるような不自然さじゃない。無理やり何かを捻じ曲げられる感覚でもない。
ただ、安心している空気がそのまま触れてきたみたいな、やわらかい熱だった。
あれは支配なんかじゃない。
少なくとも、最初からそういうものだったわけじゃない。
だったら、あの地獄で周りを狂わせていたものの正体も見えてくる。
ナマエが悪かったんじゃない。
ナマエの心が醜かったわけでもない。
ただ、怖くて、痛くて、助けてほしくて、どうしようもなく生きたかった。
その悲鳴みたいな感情が、あまりにも強すぎただけだ。
そこまで考えた時、胸の奥がざらついた。
もし、あいつが安心して笑える場所で育っていたら。
もし、怯えなくていいまま、その力を知っていたら。
きっとこんなふうにはならなかった。
そう思うと、遅れて怒りが込み上げる。奪われたものの多さに。ナマエがまだ自分でも知らないはずだったものまで、先回りして壊されたことに。
けれど、怒っているだけじゃ意味がない。
今ここで必要なのは、連中への怒りをぶつけることじゃなくて、ナマエの中に根を張った思い込みを少しでも揺らすことだった。
たぶん、下手な慰めじゃ届かない。
大丈夫だとか、気にするなとか、そんな曖昧な言葉でほどけるものじゃない。
これはもっと深いところに刺さってる。痛みと一緒に埋め込まれて、もう自分の一部みたいになってる。
だから、言うならはっきり言うしかなかった。
キルアはナマエを見る。
初めて会った時印象に残ったものは、怯えた目だった。
拒まれる前の顔。否定される前の顔。
どうせ自分なんか、という諦めを、まだ完全には捨てきれていない目。
それが、ひどく嫌だった。
お前はそんなものじゃない。
お前の力は、そんなふうに呼ばれるためのものじゃない。
その言葉を、ただの慰めで終わらせたくなかった。
ちゃんと届く形で、ナマエの中に残る形で返したかった。
「お前、自分の能力、呪いとか兵器だと思ってんだろ」
口に出した声は思ったより低かった。
優しく言えている気はしない。けれど、ここで濁したくなかった。
ナマエの肩がわずかに揺れる。
それでも目を逸らさなかったから、キルアも逸らさない。
「お前のそれ、そんなんじゃない」
言い切った瞬間、少しだけ怖かった。
これで届かなかったらどうする。もし余計に傷つけたら。そんな考えが一瞬だけよぎる。
けれど、もう止まれなかった。
昨日、自分が感じたものは嘘じゃない。
あのあたたかさは、確かにナマエの中から零れていた。
だったら、それを伝えない方がずっと駄目だ。
「昨日ので分かった。周りが狂ってたんじゃなくて……お前の感じてるもんが、そのまま漏れてただけ」
言いながら、胸の奥が熱くなる。
これはたぶん、ただの説明じゃない。
ナマエの中に押し込められたものを、少しでも元の場所へ戻したいだけだ。
「昨日、あったかかったのは、お前がそうだったからだろ」
そこまで言って、キルアはようやく息をついた。
うまく言えたとは思わない。
もっと別の言い方があったのかもしれない。
それでも、これだけは譲れなかった。
ナマエが自分を呪いだと思ったまま生きていくのを、見ていられない。
ただそれだけで、十分だった。
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