12



翌日。
みんなで街へ買い出しに出かけた時のことだった。

昼の街は、思っていた以上に人で溢れていた。
通りには色とりどりの屋台が並び、威勢のいい呼び声と笑い声があちこちから飛んでくる。
焼きたてのパンの匂い、果物の甘い香り、行き交う人々のざわめき。
街そのものが大きな生き物みたいに脈打っていて、その熱気に飲まれそうになる。

ゴンとレオリオは、目当ての店を見つけた途端に「あっちだ!」と先へ行ってしまった。
クラピカも必要な品を確認しに別の通りへ向かい、気づけばナマエは人の波の中に取り残されかけていた。

フードを深く被り、ナマエは小さく身を縮める。
戦う力を持たない自分が、この人混みの中でどれほど無防備か、嫌というほど分かっていた。
それだけじゃない。

恐怖や不安が強くなれば、自分の能力は無意識に滲み出る。
そうなれば、周囲の人間の庇護欲を不本意に煽ってしまうかもしれない。
また誰かの目が熱を帯びて、自分へ向けて歪んでいくのは、もう嫌だった。

だから、なるべく目立たないように。
誰の視界にも入らないように。
そう願うみたいに、ナマエは肩をすぼめて俯いた。

けれど人の波は容赦がない。
次から次へと肩がぶつかり、流される。
足元がふらつく。
一瞬、視界の端から仲間たちの姿が消えた。

その瞬間、胸の奥がひやりと冷えた。

――はぐれる。

その恐怖が、冷たい水みたいに一気に全身へ広がる。
呼吸が浅くなり、指先が強張る。
どうしよう、と思った時だった。

「ほら」

不意に、服の袖口をつんと引かれた。

振り向くと、キルアがいた。
少し呆れたみたいな顔で、けれどちゃんとリリィのすぐそばに立っている。

「迷子になるなよ」

ぶっきらぼうな声。
そのくせ、彼の指先はナマエの袖をしっかり掴んでいた。
まるで、これ以上人の波に攫われないように、さりげなく錨を下ろしてくれるみたいに。

「キルア……」

その姿を見た瞬間、張りつめていた心が少しだけ緩む。
けれど安心したのも束の間だった。
通りの向こうから、さらに大きな人の流れが押し寄せてくる。
肩と肩がぶつかり合い、ざわめきが一気に膨らむ。
ナマエの身体がぐらりと揺れた。

「っ……」

はぐれる。
今度こそ、本当に。

その恐怖に耐えきれず、ナマエは思わず声を上げた。

「キルア……!」

気づけば、彼の服の裾をぎゅっと掴んでいた。
縋るみたいに、離れたくないと訴えるみたいに。
その小さな指先には、隠しきれない震えが滲んでいた。

その瞬間だった。

彼女の胸を支配した恐怖に反応して、能力のオーラがぽろりと漏れ出す。
目には見えない白い霧みたいなそれが、二人のあいだの空気へ静かに滲んだ。

キルアの脳内に、鋭い痛みが走る。

「……っ、う」

一瞬だけ、顔が歪む。
神経を内側から針で引っ掻かれるみたいな、嫌な痛み。
拒絶反応が、いつもより強く脳を揺らした。
視界の端がわずかに白くちらつく。

けれど次の瞬間、キルアはナマエを見た。
涙の膜を張った瞳。
怯えきって、今にも泣きそうな顔。
人混みに押し潰されそうになりながら、それでも必死に自分へ縋っている小さな手。

その姿を見た瞬間、キルアの中で何かが切り替わった。







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