要するに「かわいい」ってこと・前



キルアが手の中でヨーヨーを軽く回していると、向かいにいたナマエがじっとその手元を見ていた。

視線に気づいて顔を上げると、ナマエは少しだけ迷うようにしてから、小さな声で言った。

「……それ、持ってみたい」

一瞬、キルアは目を瞬かせた。

「これ?」
「うん」

まさかそんなことを言われると思っていなかったのだろう。
キルアは手の中のヨーヨーを見下ろしてから、もう一度ナマエを見る。

「重いぞ」
「うん」
「ほんとに」
「……うん」

分かっているのかいないのか、曖昧な返事だった。
けれどナマエの目は思いのほか真剣で、キルアは小さく息をつく。

「落とすなよ」

そう言って差し出すと、ナマエは両手を出した。
その時点で、キルアは少しだけおかしくなる。
両手だ。
いや、別におかしなことではない。
重いと分かっているなら、むしろ正しい持ち方だろう。
けれど、自分がいつも片手で扱っているものを、ナマエが両手で受け取ろうとしている、その絵面が妙に目についた。

そっと重みを移した瞬間、ナマエの手がわずかに沈む。

「……っ、おも……」

思わず漏れた声に、キルアはすぐ下から手を添えた。

「だから言ったじゃん」

呆れたように言いながらも、その声は少し笑っていた。
ヨーヨーごと支えるように重ねられた手の下で、ナマエはなんとか持ちこたえようとしている。
その様子を見たキルアは、内心でひそかに思った。

ちっちゃい。

知っていたはずなのに、こうして自分の武器と並ぶと、あらためてよく分かる。
手のひらも、指も、手首も細い。
こんな小さな手で持とうとしていたのかと思うと、少し呆れるし、それ以上に妙に目が離せなかった。

「……重い」
「だろ」
「思ってたより、ずっと」
「だから最初に言ったって」

ナマエは真面目な顔でヨーヨーを見つめている。
たぶん本人は必死だ。けれど、その必死さが少しおかしい。
丸い金属の塊を、落とさないように両手で抱えるみたいにしている姿は、どう見ても危なっかしい。
危なっかしいのに、本人はちゃんと持とうとしていて、その一生懸命さがナマエらしかった。

キルアはわずかに眉をひそめる。
何をそんなに見てるんだ、と自分で自分に言いたくなる。
けれど、そう見えてしまうものは仕方がない。

「キルア、いつもこれ持ってるの?」
「まあ」
「すごいね」
「別に。慣れてるだけ」

そっけなく返しながらも、キルアはまだ手を離さなかった。
離したらたぶん、ナマエは少しぐらつく。
そこまで分かっていて放すほど意地悪でもない。
それに、近くで見るナマエの手は、やっぱり小さかった。
自分の手の下にすっぽり収まってしまいそうなくらいで、こんなに違うのかと今さら思う。

こんな手で、自分の武器を持ちたいなんて言い出すのが、なんだかおかしくて。
でも、その無防備な好奇心は、妙に嫌いじゃなかった。

「ほら、もういいだろ。返せ」

そう言ってヨーヨーを引き取ると、ナマエは少しだけ名残惜しそうに手を開いた。
その仕草に、キルアはまた少しだけおかしくなる。

「どうだった」
「重かった」
「そりゃそーだな」
「キルア、よくこんなの片手で持てるね」
「慣れだって」

言いながら、キルアはいつものようにヨーヨーを指先で回した。
するとナマエが、その手元を見たままぽつりと言う。

「キルアの手、すごいね」

キルアはぴたりと動きを止めた。

「……は?」
「なんか、ちゃんと支えてくれる感じがする」
「何それ」
「そのまま」

ナマエはうまく説明できないらしく、少し困ったように笑う。
けれどその目は本気だった。

キルアは一瞬だけ言葉に詰まって、それからふいと顔をそらした。

「変なこと言うなよ」
「変かな」
「変」

短く返しながら、耳のあたりが少しだけ熱い。
そんなふうに見られていたとは思わなかった。
けれど、悪い気はしない。むしろかなり、困る。

ナマエはそんなことに気づかないまま、自分の手を見下ろしていた。
さっきまでヨーヨーを支えていた手を、少しだけ握って開いて、重さを思い出すみたいにしている。
その仕草まで目について、キルアはまた視線を逸らした。

自分の恋人は、たぶん本人が思っているよりずっと小さくて、ずっと危なっかしくて、そういうところがいちいち調子を狂わせる。
そんなことをいちいち自覚させられるのは、少し悔しい。

「……次はなしだから」
「え、なんで」
「危なっかしいから」
「持てたよ」
「オレが支えてたからだろ」

そう言うと、ナマエは少しだけむっとした顔をした。
その顔すら、キルアにはあまり迫力がない。

「じゃあ、また支えて」
「は?」

あまりにも自然に返されて、キルアは言葉を失う。
ナマエは自分で何を言ったのか分かっているのかいないのか、ただまっすぐこちらを見ていた。

数秒遅れて、キルアは視線を逸らす。

「……気が向いたら」
「ほんと?」
「知らね」

ぶっきらぼうに返しながら、口元だけは少しだけ緩んでいた。







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