14



その翌朝。

リビングには、焼きたてのパンの匂いと、朝のやわらかな光が満ちていた。

窓から差し込む陽射しがテーブルの上に白くこぼれ、まだ少し眠たげな空気の中で、みんながそれぞれ朝食をつついている。
皿とカップの触れ合う小さな音。
焼きたてのパンをちぎる音。
そんな穏やかな朝の気配の中で、ゴンだけが妙にきらきらした目で、ナマエとキルアの顔を交互に見比べていた。
何か面白いものを見つけた時の、あの隠しきれない好奇心の光だ。

「……なんだよ、人の顔ジロジロ見て」

キルアが居心地悪そうに眉を寄せる。
不機嫌を装ってはいるけれど、どこか落ち着かないのが丸分かりだった。
朝から妙に視線を合わせてこないのも、ジュースばかり飲んでいるのも、たぶん昨日のことを少しは意識しているからだろうと、ナマエは思う。
そう思った瞬間、自分まで落ち着かなくなって、視線を皿の上へ落とした。

するとゴンは、にやにやと楽しそうに笑いながら、人差し指と人差し指をつんつんと合わせるような仕草をしてみせた。

「ねえキルア」

「は?」
「昨日、街でさ、すっごく強いオーラ出たでしょ?」

その一言に、キルアの肩がぴくりと揺れる。
ゴンは気づいていないのか、気づいていてわざとなのか、そのまま無邪気に続けた。

「俺、てっきり敵かと思ってびっくりしたんだけど……でも、そのあとすぐ、オーラがすっごく甘くてあったかい感じに変わったんだよね」

ナマエの指先が、膝の上で小さく強張る。
昨日の人混み。
押し流されそうになった身体。
咄嗟に掴んだ服の裾。
それから、強く握り返された手。
思い出した途端、掌の奥がじんわり熱を持つ気がした。

そして、満面の笑みでゴンがとどめを刺す。

「あれってさ、キルアとナマエが手を繋いでたから?」

「ブーーッ!」

次の瞬間、キルアが口に含んでいたジュースを盛大に吹き出した。

「ぶっ!? ゲホッ、ゲホッ……!」

「うわっ、きったな!」とゴンが笑い、レオリオは「おいおい朝から何やってんだよ」と呆れた声を上げる。
けれど、そんな周囲の反応なんて耳に入っていないみたいに、キルアは耳まで真っ赤になっていた。
首筋まで一気に色づいていくのが分かるくらい、見事な赤さだった。

「お、おいゴン! てめ……っ、何言ってんだよ!」
「え、違うの?」
「違うわボケ!!」

その否定があまりにも必死で、余計に怪しい。
ゴンはますます楽しそうに笑っているし、レオリオの目まで面白がるように細くなっていく。
嫌な予感しかしなくて、ナマエはますます俯いた。
パンを持つ手に力が入る。
顔が熱い。
昨日のことを思い出すだけでも胸が落ち着かないのに、それをこんなふうに朝の食卓の真ん中へ引っ張り出されるなんて思ってもみなかった。

そこへ、面白がったレオリオがすかさず身を乗り出してくる。

「ぶっ!? おいキルア、お前いつの間にそんな不純異性交遊を――」
「ち、違うっつってんだろ!!」

キルアは椅子を蹴る勢いで立ち上がった。

「アレは監視! こいつが迷子になりそうだったから、オレが仕方なくホールドしただけで……!」
「ホールドって何だよホールドって!」
「レオリオてめぇ笑うなよっ!!」

真っ赤な少年が、シッポを踏まれて毛を逆立てた猫のように、レオリオのもとに高速で向かっていく。







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