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巨大な増幅装置の中心で、ナマエは冷たい檻に繋がれていた。

金属の拘束具が細い手首と足首に深く食い込み、逃げることも、身をよじることも許さない。
薄暗い部屋の中央にそびえるその装置は、生き物みたいに不気味な唸りを上げていた。
無数の管と針、脈打つように明滅する禍々しい光。
まるで人間ひとりを丸ごと喰らうためだけに作られた、巨大な鉄の怪物だった。

もう顔も見たくもなかった男が、その前で不敵に笑う。
口元だけが歪んだ、ひどく冷たい笑みだった。

「さて」

指先が、ゆっくりとスイッチへ伸びる。

「君の“奇跡”が、どこまで持つか見せてもらおうか」

次の瞬間、装置が起動した。

低く唸る音とともに、ナマエの身体からオーラが強制的に吸い上げられていく。
装置に繋がれる前、男が「逃げられるくらいならここで使い果たす」と言ったのを思い出す。
生命そのものを無理やり引き剥がされるみたいな感覚に、喉の奥から小さく息が漏れた。
身体の芯が冷えていく。
何か大事なものを、内側からごっそり削り取られていくような感覚だった。

普通なら、恐怖と絶望で心が壊れてもおかしくない。
泣き叫び、取り乱し、世界を狂わせる“絶望のオーラ”を撒き散らしても不思議じゃない状況だった。

けれど、ナマエは唇を噛みしめたまま、必死に耐えていた。

胸の奥には、まだ消えていない光があった。
あの夜、月明かりの下でキルアが教えてくれた真実。

お前の力は呪いなんかじゃない、と。
昨日あったかかったのは、お前がそうだったからだろ、と。

その言葉が、暗闇の底に沈みかける心の中で、たったひとつの灯火みたいに生き続けていた。

――絶対に、嫌。

血が滲むほど強く歯を食いしばる。
震える呼吸の奥で、何度も何度も自分に言い聞かせた。

――わたしはもう、誰の心も狂わせたくない。
――キルアが言ってくれた、わたしの、あったかい力のままでいるんだから!

脳裏に浮かぶのは、キルアと過ごした日々だった。

夜のベランダで頬に押し当てられた冷たいジュース缶。
二人だけの空間で分け合ったチョコの甘さ。
人混みの中で握ってくれた手のぬくもり。
「あったかい」と言ってくれた声。
「お前のそれ、呪いなんかじゃない」と、まっすぐに見つめてくれた瞳。

そのひとつひとつを胸に抱きしめるみたいにして、ナマエは自分のオーラを必死に“幸福”のまま保とうとした。
白い百合の香りみたいな、やわらかくてあたたかい気配。
キルアが肯定してくれた、自分の力の本質。
それだけは、絶対に汚したくなかった。

その様子を見た男が、忌々しげに舌打ちする。

「なるほど。健気なことだ」

冷たい笑みが、さらに深くなる。

「だが、人間の“幸福”なんてものはな――肉体の限界を超えた激痛の前では、一瞬で吹き飛ぶ程度の脆い幻想なんだよ」

男は容赦なく、装置の出力を最大まで引き上げた。
瞬間、ナマエの身体が大きく跳ねる。

「――ッ!!」

冷酷な針がさらに深く肉へ食い込み、凄まじい激痛が全身を貫いた。
視界が白く弾ける。
息が止まる。
声にならない悲鳴が喉の奥で潰れ、身体は逃げ場を失ったまま震えることしかできない。
拘束具が軋み、細い腕が痛々しく引きつる。
痛みは一瞬では終わらず、波みたいに何度も押し寄せて、そのたびに意識の輪郭を削っていった。

壊れる、と思った。
このままでは、心の奥に抱えていたものまで全部引き裂かれる。
キルアの言葉も、あのぬくもりも、夜の静けさも、何もかも痛みに塗り潰されてしまう。

大人の邪悪な悪意が、ナマエの“キルアを信じる心”を力ずくでへし折ろうとしていた。

それでもナマエは、必死に意識を繋ぎ止める。
泣き叫びそうになる喉を押し殺し、壊れそうな心を抱きしめる。

キルア。
キルア。

「…キルア………」

その名前だけが、暗闇の中で手放してはいけない最後の糸のようだった。







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