25
爆煙の中。
壊れた装置から崩れ落ちるナマエの身体を、キルアはすぐに抱きとめた。
まるで、今度こそ絶対に落とさないと誓うみたいに。
雷を纏っていた腕はまだ熱を帯びていたのに、その抱き方だけは驚くほどやさしかった。
壊れものを扱うみたいに慎重で、それでいて、もう二度と離さないとでも言うように強い。
ナマエの身体は、ひどく軽かった。
あまりにも軽くて、胸が痛くなる。
さっきまであれほど鮮やかに感じていたオーラの気配は、もうどこにもなかった。
白い百合の香りみたいな幸福の気配も、胸を刺すような痛みの波も、何ひとつ残っていない。
あるのはただ、命のぎりぎりのところで繋ぎ止められた、かすかな体温だけだった。
念が、完全に枯渇していた。
いや、正確に言えば、この世で人が人として存在できるほどの、僅かな量しか残っていなかった。
ナマエはもう、普通の人間になっていた。
その事実に気づいた瞬間、ナマエの瞳がかすかに揺れる。
助かったことへの安堵より先に、別の喪失が胸を貫いたのだろう。
自分にはもう念の力が残っていない。
もう、あのあたたかい気持ちをキルアへ届けることができない。
“好き”も、“安心”も、“ありがとう”も、あの不思議な形ではもう伝えられない。
その思いが、ナマエの胸をいっぱいにした。
大きな涙が、ぼろぼろと零れ落ちる。
爆煙に汚れた頬を伝って、透明な雫が次々とこぼれていった。
「……キルア」
声はひどく弱く、今にも消えてしまいそうだった。
それでもナマエは、泣きながらどうにか言葉を紡ぐ。
「ごめんね……」
キルアの腕の中で、小さく首を振る。
「わたしの力、消えちゃった……」
涙がまたひとつ、頬を滑る。
「……もう、キルアをあったかい気持ちに、できないね……」
その言葉は、あまりにも健気で、あまりにも痛かった。
自分が助かったことよりも。
生き延びたことよりも。
大好きな相手へ“良い気持ち”を届ける手段を失ったことを、申し訳なさそうに泣いている。
そんなふうに泣けるほど、ナマエの心はどこまでもまっすぐで、やさしかった。
その涙を見た瞬間。
キルアの中で、ずっと張りつめていたものが、とうとう切れた。
ぽろり、と。
これまで必死に堪えていた涙が、一滴だけ彼の目から零れ落ちる。
それは彼女の頬へ落ちて、熱を失いかけた肌の上で小さく震えた。
ナマエが、驚いたように目を瞬かせる。
キルアが泣くなんて、きっと思っていなかったのだろう。
けれどキルアは何も誤魔化さなかった。
ナマエの小さな手をそっと取ると、それを愛おしくてたまらないものみたいに、自分の両手でぎゅっと包み込む。
そして、その手を自分の頬へ静かに押し当てた。
その仕草は、まるで答えそのものだった。
言葉より先に、体温で伝えるみたいに。
「バカ……」
掠れた声が落ちる。
怒っているような言い方なのに、ひどくやさしい。
「何言ってんだよ」
キルアは目を伏せたまま、ナマエの手のひらへ頬を預けた。
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