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やがてナマエがそっと手を重ねると、キルアはその小さな手をぎゅっと握った。

何の拒絶反応もない。
脳を刺す痛みも、ざわつく違和感も、何ひとつない。
ただ、純粋な体温だけがそこにあった。
慈しむみたいにやさしくて、それでいて、もう離さないと伝えるみたいに強いぬくもり。

キルアは繋いだ手を見下ろしながら、ぶっきらぼうに言う。

「ほらな?」

その声は、少しだけ照れを秘めていた。

「お前の能力のせいじゃない」

ナマエが息を呑む。
キルアはそのまま、はっきりと言い切った。

「オレが、オレの意志で、お前の手を握りたいから握ってんの」

その言葉は、夕暮れの光よりもあたたかく、まっすぐナマエの胸へ落ちた。
能力があったからじゃない。
可哀想だからでもない。
守らなきゃいけないからでもない。
ただ、自分の意志で。
お前だから。

「これで証明終了」

キルアは少しだけ顎を上げる。

「文句ねーだろ?」

ナマエの顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。
夕陽のせいだけじゃない。
胸の奥に一気にあたたかいものが広がって、どうしようもなくなっているのだ。
ずっと欲しかった答えを、こんなにもまっすぐ渡されるなんて思っていなかった。
力がなくなった自分にも、まだ差し出される手がある。
まだ、選んでもらえる。
その事実が、胸のいちばん深いところをやさしくほどいていく。

そんなナマエを見て、キルアの方も急に気まずくなったのか、ぷいっと顔を背けた。
耳がほんのり赤い。
けれど、繋いだ掌だけは決して離そうとしなかった。

「……隣にいるくらいなら、してやるから」

その言い方は相変わらず素直じゃない。
まるで仕方なくみたいな顔をしているくせに、手の力だけはやさしくて、確かだった。

ナマエはその手に少しだけ引かれるようにして、また歩き出す。
夕暮れの公園を、二人並んで。

その時、ナマエの目から涙が溢れた。
ぽろり、と零れた雫が夕陽を受けて、きらきらと金色に光る。
悲しい涙じゃなかった。
怖い涙でもない。
それはきっと、この世界でいちばんあたたかい“嬉し涙”だった。

能力がなくても。
特別じゃなくても。
弱くても。
それでも、自分の手を取ってくれる人がいる。
ここにいていいと、隣にいていいと、言葉と体温で教えてくれる人がいる。

その事実が、胸の奥をやわらかく満たしていく。
長いあいだ自分を縛っていた呪いは、もうどこにもなかった。
“誰かを狂わせるかもしれない自分”ではなく、ただのナマエとしてここにいていい。
そう思えた瞬間、世界は少しだけ違って見えた。
夕焼けの色も、風の匂いも、繋いだ手のぬくもりも、全部がやさしくて、ちゃんと自分のものだった。

キルアは泣いているナマエに気づいて、ちらりと横目で見る。

「……なんで泣くんだよ」

少しだけ困ったような、でもどこか嬉しそうな声。
ナマエは涙を拭いながら、笑った。

「だって、嬉しいから」

その笑顔は、もう何にも怯えていなかった。
誰かの心を狂わせるための笑顔じゃない。
ただ幸せだから咲く、普通の、でも何より尊い笑顔だった。

夕暮れの公園を、二人の影が並んで伸びていく。
繋いだ手のぬくもりは、もう能力なんかに頼らなくても、ちゃんと互いの心へ届いていた。
それで十分だった。

いや、きっと最初から、それだけでよかったのだ。







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