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ホテルへ戻ったあとも、ナマエはどこか浮かれたままだった。
新しく用意された柔らかなナイトドレスに袖を通して、「あったかい」と嬉しそうに笑う。

その姿を見ていると、キルアの胸の奥がまた妙にざわついた。

旅先の部屋。
知らない街の夜。
その中でナマエだけが、自分のそばにいることを当然みたいに受け入れて笑っている。

その光景が、ひどく甘くて、ひどく危うかった。

「キルアの上着とは違うけど、なんか似てるね」

その言葉に、キルアはベッドの端で頬杖をついたまま、わずかに眉を動かした。

似てる、というより似せたのだ。

ナマエが安心できるように。
自分がそばにいない時でも、少しでも不安が和らぐように。

そう思って選んだはずだった。

けれど、ナマエがそのぬくもりに頬をゆるめるのを見ていると、胸の奥に生まれる感情は優しさだけではなかった。

自分の不在を埋めるために用意したものなのに、そこに自分の痕跡を残しておきたかったのだと、今さらみたいに気づく。

どこにいても、自分を思い出してほしい。
自分の気配に包まれていてほしい。

そんな願いが、思った以上に深く根を張っていた。

「……そりゃ、まあ」

「キルアの匂いする。ありがとう。これ、好き」

「……そ。ならよかった。ほら、こっち来い」

顔を背けながらも、ベッドの端を軽く叩く。
ナマエが素直に隣へ座ると、そのまま腰を抱いて引き寄せた。

「キルア?」
「……別に。寒いかと思っただけ」

嘘だった。

寒いのは、自分の方だ。

ナマエが少しでも離れた場所にいると、胸の奥が落ち着かない。
ちゃんと見えていないと、触れていないと、また突然いなくなるんじゃないかと、どうしようもなく嫌な想像が頭をよぎる。

それは過去の恐怖でもあり、今の執着でもあった。
失うことを知っているからこそ、手放すことが怖い。

ナマエはそんなことも知らず、安心したようにキルアの胸元へ頬を寄せた。

「眠そう」
「ちょっとだけ……」
「寝ろよ」

「……キルアも一緒にいて。キルアがいると、安心するから」

胸の奥が、甘く痺れた。

自分がそばにいるだけで、彼女は安心して眠れる。

その事実が嬉しくて、同時にひどく危ういものに思える。
安心の拠り所になれていることが、こんなにも甘い。

でもその甘さは、少し間違えれば簡単に依存へ変わる。
キルアはそれを知っている。
知っているのに、拒めない。

「……お前、ほんとそういうこと無自覚で言うなって」

ぶっきらぼうに言ってから、キルアはナマエを抱いたままベッドへ横になる。
ナマエはすぐに胸元へ頬を寄せてきた。

その小さな重みが、どうしようもなく愛おしい。
自分の腕の中でしか見せない無防備さが、たまらなく甘い。

守りたい。

でも同時に、このままずっと自分だけに預けていてほしいとも思ってしまう。







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