31



やいやい言ってくる男たちを鬱陶しいと言わんばかりに、キルアは片手で払った。

「お前ら、朝からうるさい」
「うるさいのはお前の過保護っぷりだっつの」
「過保護じゃない」
「どこがだよ。洗濯物持たせねー、包丁持たせねー、そのうち息するのも止めそうだな」
「止めねーよ」

「でもキルア、ナマエがちょっと動いただけですぐ気づくよね」

ゴンが不思議そうに首を傾げる。
本当に、気づいたことをそのまま口にしただけなのだろう。
だからこそ、逃げ場がない。

キルアは一瞬だけ言葉に詰まって、それから不機嫌そうに視線を逸らした。

「…こいつが危なっかしいだけ」

その言葉は、ナマエに向けられていた。

レオリオは「ほらな」とでも言いたげに肩をすくめ、ゴンはにこにこと笑っている。
ナマエは急に頬が熱くなるのを感じた。

恥ずかしい。
みんなの前でそんなふうに言われると、余計に。

けれど同時に、胸の奥がじんわりあたたかくなるのも止められなかった。

危なっかしい。
だから見ている。
だから止める。
だから、放っておけない。

それは子ども扱いみたいで、少しむずがゆい。
でも、その“放っておけなさ”の中に自分がちゃんといることが、どうしようもなくうれしかった。

「……そんなに危なっかしいかな、わたし」

小さくそう呟くと、キルアは包丁を置きながら、ちらりとナマエを見る。

「自覚ないのが一番危ねーから」
「ひどい」
「ほんとのこと」

ぶっきらぼうに返されて、ナマエは少しだけ頬を膨らませた。
その様子を見て、ゴンが楽しそうに笑い、レオリオは「はいはい、仲良しだな」と呆れた声を落とす。

「ま、ほどほどにしとけよ、キルア。あんまり囲い込みすぎると嫌われるぞ」

その一言に、キルアの眉がぴくりと動いた。

けれど何か言い返す前に、レオリオはもうひらひらと手を振って台所を出ていってしまう。
ゴンも「あとで手伝うね」と明るく言い残して、その後を追った。

二人がいなくなると、急に台所が静かになった。
窓の外では、風に揺れた葉がさらさらとやさしい音を立てている。

少しだけ気まずくなって、ナマエは籠の中の布巾を指先で整えた。
さっきまでのやり取りを思い出すと、まだ頬が熱い。

「……過保護すぎる、だって」

ぽつりとそう言うと、キルアはすぐには答えなかった。
野菜を切る手を止めないまま、少しだけむっとしたように口を開く。

「だから、過保護じゃないって」
「でも、みんなそう言ってた」
「みんなが勝手に言ってるだけ」

「じゃあ、何?」

その問いに、キルアの手がほんの一瞬だけ止まる。

ナマエは自分でも、どうしてそんなことを聞いたのかわからなかった。
ただ、知りたかったのだと思う。
どうしてこんなに気にかけてくれるのか。
どうして少し動くだけで、すぐに気づいてしまうのか。

けれどキルアは、少しだけ視線を伏せてから、結局いつものように言った。

「……お前が危なっかしいだけ」

それはさっきと同じ言葉なのに、今度は少しだけ声が低かった。
ぶっきらぼうで、そっけなくて、でもどこかやさしい。

ナマエは小さく笑った。

「それ、さっきも聞いた」
「何回でも言う」
「そんなに?」
「そんなに」

即答だった。

その短い返事が、胸の奥にやわらかく落ちる。
困る。
恥ずかしい。
でも、うれしい。

そんなふうに思ってしまう自分が、少しだけくすぐったかった。

台所の窓から差し込む昼の光が、キルアの銀色の髪を淡く照らしている。
その横顔を見つめながら、ナマエはそっと息をついた。

守られている。
見ていてもらえる。
放っておかれない。

それはまだ少しだけくすぐったくて、落ち着かない。
けれど同時に、胸の奥をやさしくあたためるものでもあった。

たぶん自分は、思っていたよりずっと早く。
このぶっきらぼうなやさしさに、慣れはじめてしまっている。







戻る


top