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その日は珍しく、ゴンとキルアの師匠であるビスケが、二人に稽古をつけていた。

朝からみっちり身体を動かし、昼を過ぎるころには、少しだけ風もやわらいでいた。
先ほどまで稽古をしていた庭先では、今日の修行から解放されたゴンが何かを話していて、その向こうでナマエが小さく笑った。

その声に、キルアは無意識に顔を上げる。

腰を下ろしたまま、武器であるヨーヨーの調節をしていた指先が、ほんのわずかに止まった。
視線の先では、ゴンが身振りを交えて何かを説明している。
ナマエはそれを聞きながら、ときどき頷いたり、困ったように笑ったりしていた。

ただそれだけの、穏やかな光景だった。
危険なんて何ひとつない。
誰かに追われているわけでも、無理をしているわけでもない。

それでも、キルアの目は気づけば何度もそちらへ向いてしまう。

ちゃんと立てているか。
顔色は悪くないか。
無理して笑っていないか。
風に当たりすぎていないか。

そんなことを、ひとつひとつ考えているつもりはない。
ただ、視界の端に入っていないと落ち着かないだけだ。

ナマエが少し身じろぎする。
それだけで、キルアの意識が先に反応する。
けれど次の瞬間には、ただ座り直しただけだとわかって、何でもなかったようにまた指先を動かした。

「……あんた、さっきから何回あっち見てるのよ」

すぐ横から落ちてきた声に、キルアは露骨に眉をひそめた。

いつの間に来たのか、ビスケが縁側の柱にもたれてこちらを見ている。
見透かしたような目だった。

「見てねーし」
「見てるわよ」

即答されて、キルアは舌打ちしそうになるのを堪えた。
ビスケは面白がるように肩をすくめる。

「自覚ないの?」
「ない。気のせい」
「ふぅん」

ビスケはそれ以上すぐには何も言わず、庭のほうへ視線を流した。
ゴンが何かを言って、ナマエがまた笑う。
その笑い声は風に乗って、やわらかくここまで届いた。

キルアはまたそちらを見てしまってから、はっとしたように視線を戻す。
その一瞬を、ビスケは見逃さなかったらしい。

「ほら、今も」
「うるさいな」
「別に責めてるわけじゃないわよ」
「じゃあ何」
「そんなに気になるのねって思っただけ」

キルアは答えなかった。
ヨーヨーの紐を弄る手元に視線を落とす。

気になる。

そう言われれば、否定はしづらかった。

ナマエのことは、いつだって気になる。
ちゃんと眠れているか。
食べられているか。
無理をしていないか。
少しでも顔色が悪ければ気づくし、ふらつけばすぐわかる。

それは今のナマエが危ういからで、念を失って、まだ本調子じゃないからで。
だから見ているだけだ。

そう思っている。
そう思っていた。

「守りたいのは本当でしょうけど」

ビスケの声が、ふいに少しだけ低くなる。

キルアは顔を上げた。

「それだけじゃないわよね」

何もかも見透かしたような表情。
ゴクリ、息を飲んだのは、自分か。







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