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その一言は、ひどく静かだった。

ナマエの胸が小さく跳ねる。
けれど、怖くはなかった。
むしろ、その言葉の奥にある熱のほうが、じわじわと伝わってくる。

キルアは少しだけ目を伏せ、それからまたナマエを見た。
もう誤魔化さないと決めたみたいな目だった。

「……今更だけど」

「ナマエ、」掠れた声でそう言って、キルアはナマエの頬にそっと触れた。
触れる指先は驚くほどやさしいのに、その手のひらの熱はひどく強い。

「オレ、お前が好きだ」

その言葉が落ちた瞬間、時間が止まった気がした。

雨の音も、風の音も、遠い。
ただその言葉だけが、まっすぐ胸の奥に届く。

ナマエは息を呑んだ。
驚きはあった。
でも、不思議なくらい嫌じゃなかった。
むしろ、ずっと前から知っていたことを、今やっと言葉にされたみたいな感覚に近い。

キルアが好きだと言う。
自分を見て、離せなくなると言って、それでもちゃんと好きだと口にする。

その事実が、怖さの残る胸の奥に、あたたかく広がっていく。

「……お前のことばっか考える」

「放っておけないし、離したくない」

「そういうの、たぶんずっと前からだった」

キルアの声は低く、少しだけ震えていた。
こんなふうに言葉を選ばずに本音を出すのは、きっと珍しいのだろう。
それがわかるからこそ、ナマエの胸はさらに強く締めつけられる。

「守りたいだけじゃ、もう無理」

最後の一言は、ほとんど吐き出すみたいだった。

ナマエはしばらく何も言えなかった。
言葉にしようとすると、胸の奥がいっぱいになってしまう。

怖い夜だった。
苦しくて、わからなくなって。
でも最後に自分を引き戻してくれたのは、キルアだった。

そのキルアが、今、好きだと言ってくれている。

ナマエは唇を少しだけ開いて、震える息を吐いた。
それから、キルアの服を握ったまま、逃げずにその目を見返す。

「……わたしも」

声が小さく掠れる。
それでも、ちゃんと届いてほしくて、ナマエはもう一度言った。

「好き」

言った瞬間、頬が熱くなる。
けれど、目は逸らさなかった。

「キルアが、好き」

その返事に、キルアの瞳がわずかに揺れる。
信じられないものを見たみたいに、一瞬だけ息を止めて、それからひどく静かにナマエの名前を呼んだ。

「ナマエ……」

その声があまりにもやさしくて、ナマエは胸の奥がいっぱいになる。
怖かったはずなのに、今はもう別の意味で泣きそうだった。

キルアの指先が、頬を撫でる。
そのまま少しだけ顔を寄せてきて、すぐ近くで止まる。

「……キスしていい?」

低く落ちた声に、ナマエの心臓がまた跳ねた。

こんな時なのに、と思う。
でも、こんな時だからこそなのかもしれない。
怖さのあとで、やっとたどり着いたこの距離を、ちゃんと確かめたかった。

ナマエは服を握る手を離さないまま、小さく頷く。

「……うん」

その返事を聞いたキルアが、ほんのわずかに目を細めた。
それから、壊れものに触れるみたいにゆっくり顔を寄せてくる。

ナマエは目を閉じた。

次の瞬間、唇にやわらかな熱が触れた。







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