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それは、触れるだけに近い、静かなキスだった。
けれど、そのぬくもりの先にいるのは、確かにキルアだった。
雨の夜の冷たさも、さっきまで身体を支配していた恐怖も、その一瞬だけ遠くなる。
キルアの唇は思っていたよりやさしくて、少しだけ震えていた。
緊張か、恐れか、愛おしさか。
それが自分だけじゃないのだと教えてくれて、ナマエの胸がきゅっと締まる。
短いキスが離れる。
けれど、額が触れそうなほど近い距離のまま、キルアは離れなかった。
混ざり合う呼吸が、まだ少し熱い。
ナマエは目を開けて、すぐ近くの銀色の髪と、揺れる瞳を見る。
キルアは何かを確かめるみたいにナマエを見つめてから、もう一度だけ唇を重ねた。
今度はさっきより少しだけ長く、でもやっぱりやさしいキスだった。
ナマエはそのあいだ、キルアの服を握ったまま、逃げることも忘れて、ただ受け止める。
唇が離れたあと、胸の奥に残る熱がじんわりと広がっていった。
「……大丈夫?」
キルアが小さく聞く。
その問いに、ナマエは少しだけ笑った。
まだ涙の名残があるみたいに、うまく笑えているかはわからない。
それでも、今の気持ちにいちばん近い顔だった。
「うん」
本当に、さっきよりずっと大丈夫だった。
怖さが全部消えたわけじゃない。
嵐もまだ終わっていない。
でも、キルアの声があって、体温があって、好きだと言われて、好きだと返した今、胸の奥には恐怖とは別のあたたかさが満ちていた。
ナマエはそっとキルアの胸元に額を寄せる。
するとキルアは、ためらいなくその身体を抱き寄せた。
さっきまでの、慰めるための抱擁とは少し違う。
もっと静かで、もっと深いところで離したくないと思っているみたいな抱き方だった。
ナマエはその腕の中で目を閉じる。
安心する。
どうしようもなく。
キルアの鼓動が近い。
背中に回る腕があたたかい。
その全部が、もうひとつの意味を持って身体に残っていく。
好き。
その言葉を交わしてしまったあとでは、もう前と同じではいられない。
それでも不思議と怖くなかった。
むしろ、やっとしっくりきた気がした。
外ではまだ雨が降っている。
けれど部屋の中では、二人の呼吸だけが静かに重なっていた。
キルアはナマエの髪に頬を寄せたまま、しばらく何も言わない。
ただ抱きしめる腕だけが、わずかに強い。
その力に、ナマエは気づかないふりをして、そっと身を預けた。
あたたかい。
安心する。
好きだと思う。
そんな幸福の底で、キルアの腕の強さだけが、ほんの少しだけ静かに残った。
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