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眠ったのだとわかっても、キルアはしばらく動かなかった。

腕の中の重みは、びっくりするくらいに軽い。
驚くほど軽くて、少し力を込めれば簡単に抱き寄せられてしまう。
そのくせ、胸の奥に落ちる重さはひどく大きかった。

ナマエは眠っている。
さっきまで怯えて震えていたのが嘘みたいに、今は穏やかな顔で目を閉じている。
頬にかかる髪も、わずかに開いた唇も、呼吸に合わせて上下する肩も、全部が無防備だった。

こんなふうに安心しきって、自分の腕の中で眠っている。

その事実に、胸の奥が満たされる。
どうしようもなく、甘く。

好きだと言った。
好きだと返された。
それだけでも十分なはずなのに、腕の中で眠るナマエを見ていると、それ以上の何かが静かに膨らんでいく。

離したくない、と思う。

今だけじゃなく。
明日も、その先も。
こうして自分のそばで安心した顔をしていてほしい。
怖い夜には自分を呼んで、苦しいときには縋って、何もかもを預けてほしい。

そんなふうに思う自分が、まともじゃないことくらいわかっていた。

守りたいだけなら、こんな感情にはならない。
安心して眠る顔を見て、嬉しいだけじゃ済まない。
このままずっと腕の中に閉じ込めてしまいたいみたいな衝動に、喉の奥がひりつくこともない。

キルアは目を伏せ、ナマエの髪にそっと触れる。
起こさないように。
壊さないように。
ひどくやさしく。

それでも、腕は緩められなかった。

少しでも力を抜けば、このぬくもりがどこかへ行ってしまう気がした。
そんなはずはないとわかっているのに、手放す想像だけで胸の奥がざわつく。

「……ほんと、だめだ」

誰にも聞こえないくらい小さな声で呟く。

何がだめなのか、自分でもわかっている。
好きだと認めた瞬間、もう後戻りなんてできなくなった。
守りたいだけじゃない。
そばにいてほしい。
できるなら、ずっと。

腕の中のナマエは、そんなこと何も知らずに眠っている。
その無防備さが愛しくて、同時にひどく危うかった。

雨はさらに弱くなり、夜は静かに更けていく。
その静けさの中で、キルアは眠るナマエを抱いたまま、長いこと目を閉じなかった。

幸福だった。
どうしようもなく。

あの日、檻から助け出したはずの彼女を。
今、自分は別の檻で囲おうとしているのかもしれない。

そんな考えがよぎっても、胸に宿った熱の前では、うまく目を逸らすことしかできなかった。

その幸福は、もう簡単には手放せないところまで、静かに根を張りはじめていた。







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