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「おれも、殴っちゃくれねぇか」


 勝手な行動をしたから、とわたしたちを見てきた。どうやらポルナレフがわたしに触発されたらしい。よくわからないが、ポルナレフ別に悪いことしてないような?
 わたしがハテナを浮かべている間に、花京院が問答無用で一番にビンタを噛ました。めちゃくちゃ痛そうな音がした。ポルナレフは、お前は一回やってんだろ!と涙ながらに訴えていた。承太郎とジョセフからも、少々……いや、どぎついとも言える強さでやられると、次にこちらを見る。わたしがポルナレフを見ると、視線をふい、とそらされた。


「ナマエちゃんも、やってくれ。がっつり本気で」

「本気で、ですか?」

「ああ!」


 わたしはポルナレフに対し、何か思うところは全くない。でもわたしがけじめとして叩いてほしかったように、彼もまたそうなのだろう。
 ゆっくり頷くと、ポルナレフはわたしが届くように屈んでくれた。そしてわたしは、力いっぱい叩いた。
 ぱぁんッ! と甲高い音が響き渡る。わたしのできる、一番痛いやり方で。その証拠に周りが引いているのと、ポルナレフが涙目になっている。


「大丈夫ですか?」

「ナマエ、ちゃん……すっげーいてぇんだけど……」

「痛くしてほしいと思ったので、痛くしました」


 わたしの言葉を聞いたポルナレフは目を見開いて、ありがとう、と言った。承太郎はそのやり取りを見届けると、歩き出した。わたしも含め、皆はそのあとを追っていく。
 バス停で五分ほど待つと、長距離バスがやってきた。チケットは既に買ってあったらしく、次々にバスへと乗り込んでいく。ネーナが先に後ろの方へ座るや否や、ポルナレフがその前の席を陣取っていた。たしかに、ネーナは美しい。そのように作っているとはいえ、想像通りに作ることができるのは本人の力量だ。


「ミョウジさん、隣に座りませんか」


 花京院が気を使ってくれたので、ありがたく横に座らせてもらう。わたしたちの前にはジョセフと承太郎が座り、前は見えない。ジョセフが承太郎にアヴドゥルのことをこっそり話している間、後ろではぴーちくぱーちくとポルナレフがネーナを口説こうとしている。元気に見えるが、たぶん空元気。その声をBGMにして、わたしは花京院と他愛もないことを話ながらも、酔いそうだなと思っていたら案の定、酔った。


「ミョウジさん、顔色が悪いみたいですけど、大丈夫ですか?」

「大丈夫、と言えたらいいんですけど……ごめんなさい、ちょっと酔っちゃって、バスは酔いますよね……船の次に……」

「よかったらぼくの肩、使ってくださいね。寄りかかった方がいくらか楽になるでしょうから」


 なんだか知らないけれど花京院が女神に見えるんですけどわたしの目は平気? お言葉に甘えて肩を借りていると、承太郎が休んどけと声をかけてくれた。わたしができるのは手を振ってそれに返答するだけで、あとはひたすらぐったりしているしかない。ほんと、バス駄目。匂いも揺れも良くない。うう。
 ジョセフはジョセフで腕に何かが出来てきたらしい。エンプレスだ。エンプレスは、パス。彼らで解決できる内容だ。関わらない方がいいだろう。
mae ato

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