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 そりゃあもう、最高でしたとも。承太郎がすっごく嫌そうにやったヒゲダンスを見ながら、わたしと花京院は必死に笑うことを耐えていた。しかし歌いながらというのが的確にわたしたちのツボにハマってしまい、あえなく二人でお腹をおさえて大爆笑してしまった。い、息がしづらい。これで承太郎はまた黒歴史に新しいページを刻んでしまったわけである。
 そのあとやり返そうとした承太郎に、連戦連勝中。負ける気がしない、というよりもこのままじゃ負けるわけがないのだけれども、どうやら冷静で有名な承太郎さんもまだ子どもであったことには変わらないらしく、負けが込んで頭に血が上っているようだった。たぶん一発目に変なことやらせたもんだから、引くに引けなくなったんだろうな。ご愁傷様ぁ!
 というかね、さっきから簡単なイカサマしてるのに見抜けないってのが問題で。確かにお互いがそれなりにいい勝負になるように手札を調整して作ってるけど、ここまで連勝してたら普通におかしいし、イカサマ疑うでしょ? そろそろスタプラさん出そう? ……承太郎にダービーと勝負させるのすごい怖いんだけど大丈夫かな。


「……空条さん、もうやめませんか。このままだとあられもない姿になりかねませんし」

「うるせえ、次だ、次」

「なんか意外だな。ミョウジさんがカードゲームに強いのもですけど、承太郎がこうも熱くなるっていうのが。承太郎、本当にギャンブルとかやったら抜けられなくなるんじゃない?」


 罰ゲームも思い付かなくなったため、承太郎の帽子と学ランは既にわたしがいただき済みである。やはり引くに引けなくなってしまったんだろうな……。まだやるの、なんて思いながらも付き合ってあげるわたしはいいお姉さんである。いや、逆に悪いお姉さんかも。負けてあげる気なんて全くないのだから。


「承太郎!」


 花京院がカードを配ってくれてお互いさてどうするか、と考え始めたところでドアが思い切り開いた。そこにいたのはこの部屋にいなかった仲間たち、ジョセフとポルナレフだった。
 ネーナ戦が終わったらしい。ならすぐにでもホテルから逃げ出さなければいけないのだろう。しかし承太郎は今や連戦連敗中。人でも殺すんじゃないかってくらいにキツい視線で祖父を一瞥した。


「いいか、じじい。おれは今忙しいんだ、後にしやがれ」

「ホテルから出るぞ! 早くしろ! ナマエちゃんと花京院もじゃ!」


 そう焦るジョセフの後ろにはどんよりとしたポルナレフが立っていた。意中の女の子があんな状態になったら、そりゃあどんよりしたくもなるだろう。わたしは特に理由も聞かず、被っていた帽子と学ランを承太郎に返還した。
 承太郎に何か文句を言われる前に部屋に行って、大して量もない荷物を持ち、ジョセフたちのところに戻った。そのまま慌ててチェックアウトし、ジョセフたちの用意した車に乗り込むと、聖地ベナレスを後にした。車中、訝しげな目線を交えて承太郎が問う。


「じじい、どういうことか説明してもらおうか」

「……あのネーナって女が、エンプレスというスタンドの使い手でな。勿論倒したがわしの腕の出来物の正体がエンプレスだった。そいつが医者を殺したんじゃが、わしがやったことになってしまっての。警察に追われとる」

「それで、ポルナレフも落ち込んでるのか………」

「だってよぉーッ! あの美人、人面疽だったんだぜ!? しかも中はぶっさいくなババアが入ってたっつーオチ!」


 最悪だぜ! と俯いたポルナレフに、花京院はとにかく冷たい視線を送っていた。女性になんてことを言うんだという気持ちと、お前が下心丸出しで一人行動するからだろ的な気持ちがその目線に込められている気がする。
 急いでいるため、またも酔いそうなので酔う前に寝ておくことにした。次に目が覚めたとき、ちょうどブレーキがかかり、目的地らしき場所に到着した。ここはどこなんだろう。地図帳を見るのは好きだったけど、実際に回ると自分がどこらへんにいるのか全然わからない。


「今日はデリーで宿をとろう。特に何もなければ、明日は休む。いいな?」


 ジョセフの言葉に皆が頷いて、ホテルに足を踏み入れた。しかしながらホテルは既に満室で、どこも空いていないと言われてしまう。仕方なく違うホテルに行くと、空いているのは二部屋だけだそうだ。わたしが女性だからわたしだけ部屋を分けるとかそんなの危なくて論外なので、二部屋でOKである。


「ナマエちゃん、旅の間、むさい男と同じ部屋にしてホンットーにすまん!」

「大丈夫ですよ。安全面を考えれば、その方がありがたいです」


 ジョセフはわたしが女性であることを考慮してすまなそうに謝ってくれたけど、むしろ一人部屋とか敵以前の問題で、英語も話せないわたしでは一人でいる方が怖いのである。わたしがそう伝えると、ジョセフは申し訳なさそうなまま、「旅が終わったらいい家を用意するからな」と言ってくれた。やったね! 不動産王のお墨付きだぜ! なお維持費については考えないこととする。
mae ato

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