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「おはようございます」

「…………おはよう、ございます」


 がーがーと煩いポルナレフのいびきで目を覚ますと、既に起きていたミョウジさんが自分のベッドの上で荷物の整理をしているところだった。目を覚ましたぼくが目覚まし時計をポルナレフにぶん投げたところで気付いたらしく、にっこりと笑って手を振られた。
 昨日はポルナレフが出たあと、先に寝ていてもいいと言われて、起きているつもりだったがぼくもポルナレフもすぐに寝てしまった。だからミョウジさんは一番遅くに寝てはずなのに、一番早く起きているなんて、素直にすごいと思った。しかも既に準備万端と言ったような状態だ。さすが大人だ。ぼくの隣のベッドで眠るやつのことは見ないことにする。


「早いん、ですね」

「起きてから目が覚めるまでに時間がかかるので、ちょっと早く起きるようにしてるんです」

「そうなんですか」


 昨日のことを思い出すとちょっとだけ照れ臭かったが、より仲間として近付けたのではないかと妙な充足感と安心を持ちつつもあった。
 ぼくはミョウジさんを見習って早々に支度をすることにした。さすがに女性のいる部屋では憚られるのでタオルや着替えを持って行き、脱衣場で支度をする。部屋に戻ってみると窓を全開にして、ベランダに出ているミョウジさんの後ろ姿が見えた。ぼくが支度を終えたことに気が付いたミョウジさんが笑顔でぼくを手招くので、誘いに応じベランダに出てみると、そこにはテレビでしか見たことのないような景観が広がっている。


「昨日は着いたのが夜だったから気付きませんでしたけど、なんだかインド、って感じの場所ですよね」

「インドに入ってからは移動と戦闘で、周りを見る暇なんてなかったから、ちょっと楽しいですね」


 顔を見合わせて笑えば、仲間という感じがしてたまらなく嬉しくなった。昨日までのもやもやは嘘のようにその鳴りを潜めている。決して消えたわけではないけれど、共有してくれる人間がいるというのはとても心強いことなのだということがよくわかった。
 不意にドアをノックする音が聞こえ、返事をしながらドアに向かう。開けてみればジョースターさんと承太郎がまとめた荷物を持ってやってきていた。


「そろそろ行くかって話をしてたんだが……ポルナレフはまだ寝てんのか」

「ああ……寝ているね」

「おい、ポルナレフ」


 バシバシと容赦なく顔を叩く承太郎だったが、起きる気配はない。このままだと起きるよりも先に顔が腫れて別人になってしまいそうだ。相当痛そうな音が響いているのにもかかわらずポルナレフは身動ぎひとつしないで寝ている。どうやら承太郎の乱暴な起こし方に慣れてしまったらしい。
 起きないポルナレフに手を焼いていると、いつのまにか窓を閉めたミョウジさんが覗き込むようにしてこちらに顔を出した。


「あらまあ、また起きないんですか」

「まあな……自分で起きるときはさっと起きんだがな」

「わかりました。ならばわたしが起こしましょうか?」

「起こせるのか?」

「やってみないとわかりませんけど、多分」


 苦笑いをしながらミョウジさんはポルナレフの頭の方に近寄っていく。承太郎があんなことをしても起きなかったのに彼女は何をするつもりなのだろう。そう思っているうちにミョウジさんは掌で口を覆い、指で鼻をくっと摘まんだ。息を止めている、と気が付いたときには既にポルナレフは目蓋をばっちりと開いていた。手が離されると、ぶは、と呼吸を再開したポルナレフは虚ろな目付きでミョウジさんを見上げる。


「…うぐ、…ナマエ……?」

「そうですよ、ナマエですよ。さあ早く起きてねー。起きてないんなら、もう一回やろうか?」

「……起きてる、起きてる」

「はいじゃあ起き上がって支度して?」

「おう、……ふあああ」


 ポルナレフは大きな欠伸と伸びをしてから、支度を始めた。一方のミョウジさんは特にそれを手柄だと自慢することもなく自分のまとめた荷物を移動し、ポルナレフの支度の手伝いを始めていた。……なんていうか、お母さん?
mae ato

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