花京院はきっとこないだ、わたしが死体を見ても何も思わない、と言ったことに対して、変わってしまったと思ったのだろう。しかし何も変わってなどいない。それを伝えれば彼はあからさまにほっとした様子だった。だからこそ、花京院の表情は暗い。そりゃあそうよね、普通に憧れているわたしたちなら、そうならざるを得ないのだ。
「すみません、本当に」
「謝ることなんて何もありませんよ」
「いいえ。ぼくはミョウジさんが変わっていなくて、安心したんです」
そんな自分が恥ずかしいとばかりに眉を寄せ、わたしに深く深く謝った。この子は、如何せんいい子すぎる。同じように考える人間がいるということは、どうしてか楽になるものだ。これが日本人の性なのかもしれない。わたしだって同じように安心していると、花京院は思わなかったようだ。わたしは立ち上がって、俯くばかりの花京院の頭をそっと撫でる。うわ、ふわっふわ。肩がびくりと跳ねたが、無視して頭撫で撫で刑を執行する。
「花京院さん。わたしもね、花京院さんと一緒です。一緒で安心してます」
顔をあげることのない花京院に、なるべく優しく声をかけてやる。原作を見る限りでは、多分、こどもらしく育っていない。だから上手く甘えることができないし、なんとなく頼ることもし難い。だったらせめて、わたしくらいは甘やかしてやろうではないか。すこしばかり、捻れた方向への、甘やかしだけれど。
「いいじゃないですか、それで。駄目ですか?」
「…………世間一般的には、あまりよくないと、思いますけど」
「悲しいかな、世間一般なんてわたしたちには似つかわしくない言葉ですから」
「…………そう、ですね」
そこでようやく花京院が顔をあげて、笑ってくれた。その笑みに悲しさが同居していることなど一目瞭然だ。どうしたらいいかわからなくて誤魔化すように頭をぐしゃぐしゃにしてしまうと、すこし照れたように、やめてください、と言われてしまった。どうやら花京院の気もまぎれたようだ。安心してソファに座り直せば、あの、と花京院がわたしを見ていた。随分とまっすぐな視線に驚いた。こ、今度はなに?
「ぼく年下ですし、さん付けや敬語なんていりませんよ」
「え? ……そう、なの?」
「はい!」
なんで嬉しそうに笑ってるのかはわからないが、正しいかもわからない敬語より使い慣れたタメ口の方が気が楽なのは確かだ。なので、花京院のお言葉に甘えてため口にさせてもらうことにした。だからといって、花京院、と呼び捨てにするのはあんまりだし、典明と呼ぶのもいささか突然すぎる。典明くん、うーん呼び慣れないな。よし、なら花京院くんでどうだ。
「じゃあ花京院くん、きみも敬語はやめようよ」
「え! でも」
「だってポルナレフにはため口でしょ? それから名字にさん付けもなし! あまりにもよそよそしいし……ね?」
わたしがそう言うと花京院は呻きながら困ってしまった。そこまでか。そんなになるほどなのか! ポルナレフにはため口で良くて、わたしには敬語じゃないと嫌だってことは、よっぽどポルナレフの位置は低いのだろう。年齢的にはそれなりに上なのに。わたしはあまりに悩み抜いている花京院に思わず苦笑する。
「じゃあまあ、敬語は、そのうち、ゆっくりでいいよ」
「す、すみません、……その、……ナマエさん」
花京院の頬が、うっすら赤くなる。え、照れてんの? 初心過ぎない? 花京院はこの世で、超希少な人類ではないだろうか。いっそ天然記念物じゃないの? イケメンなのにこの年で初心ってそんなことがあっていいのか。いや、全然いいのだけども!
不意にドクシャアン、とすごい音が下の階から聞こえた。すっかり忘れていたけれど、そういえばエンヤ婆と皆さん、戦ってたんでしたっけね!
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