65
 わたしと花京院は顔を見合わせて立ち上がると、スタンドを出してから部屋を走り出た。階段の途中でジョセフと合流し、一階を目指す。ロビーを抜けて扉が開いたままの奥の部屋に入ると、足を怪我した承太郎と舌を怪我しているであろうポルナレフ、それからエンヤ婆が床に倒れていた。


「ちょうど、倒したとこだぜ」

「お疲れ様です。……やはりおばあさんが、スタンド使いだったんですか?」

「ああ。ジャスティス、だそうだ。霧状のスタンドで傷口から生き物に侵入して身体を操りやがる」


 今は気絶してる、と承太郎はエンヤ婆を見下ろした。……ぶくぶく泡吐いてるけど、彼女は本当に大丈夫なのだろうか。この先意識障害とか、後遺症で頭がおかしくなることもありそうだが……この歳で泡吹いて倒れたり息子殺されたり、本当にこの人悲惨な運命だなあ……。そんなちょっとしたシリアスな空気をぶち壊すかのごとく、ポルナレフが驚いて声をあげた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! ナマエ、婆さんがスタンド使いじゃねーかって思ってたのか?」

「……うん、まあ、すこし怪しかったからね。わたしだけじゃなくて、花京院くんも空条さんもそう思ってたと思うけど」

「ええッ!? ま、まじかよ!」


 本当に気付いてなかったのか、と周りからすこしばかり冷たい目線が送られていたが、ポルナレフは笑って誤魔化した。いや、誤魔化されては、いない。それからポルナレフはゴホン、と咳払いをして、ジョセフを見る。ん? ……はっ! こ、これはもしかして、伝説の……!


「実はおれも操られちまって、その……汚ぇとこ舐めちまってよォ、消毒してーんだ」

「ん? どこを舐めたんじゃ?」

「だからどこなめちまったか? なんてどーでもいいことじゃあねーかよォ〜。くだらねーことききたがるなあ〜」


 わけのわからないものすごい咳払いの中、小さい声で“ベンキ”と確かにポルナレフは言った。うわお、本当に舐めちゃったんだ。さすがに汚い。えんがちょー! なんていうのはあまりにも子供だし、あまりにも可哀想なため、さすがに口に出したりはしなかった。ポルナレフが困っているようなのでこちらから、すみません、と皆に声をかけた。


「ちょっと、皆さんの荷物回収してきますね。消毒も必要でしょうし。ポルナレフと空条さんは怪我人ですから座っていてください」

「わしも手伝おうか」

「いえ。できればこれからのことについて話し合っていてください。わたしは地理には詳しくありませんし、いてもあまり役には立てないでしょうから」


 花京院が着いてきたそうな顔をしていたが、笑ってスルーしておく。このあとのことを一人で考える時間もほしいのだ。わたしが笑顔で制しているので、多分無理に花京院も追ってこないだろう。階段を二階分上がり、廊下をうろついていると、たたた、と何かが歩く音がして、わたしの心臓が跳ねた。花京院は追ってきていないはずだ。ならば敵か?! ここにはほかの敵なんて出ないはずでは!? あわてて振り返ると足音の原因は見知った人物だった。


「ナマエ」

「ホル・ホース……さん?」


 あらまあ、あれ、ジャスティスのときにホル・ホースって出てたんだっけ?
mae ato

modoru top