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「みんな、外に出てみろ」


 承太郎に声をかけられ、ホテルから外へと出てみる。閑散とした荒野に転がる幾多の白骨と無作為に立ち並ぶ墓石たち。こんなところに墓なんて作って、一体どうしようというのだろうか。それとも元はこの墓たちも、町に付随した墓だったのだろうか。エンヤ婆に滅ぼされたのかそれとも元からこうなってしまっていたのか。わたしには知りようもなかったが、それでもこんな死体と瓦礫と自分のスタンドしかないような場所に、エンヤ婆はひとりでいたのだ。数日、もしかしたら一日かもしれないが、それは寂しすぎる時間だ。息子が死に、その復讐のためにただひたすら仇を待ち続け、そしてこれがその有り様だというのだから。
 ジョセフがエンヤ婆を連れていくのだという話をし始めた。ポルナレフが拷問はババアだから楽しくなさそうだのと馬鹿なことを言っているが、そもそもポルナレフに拷問で情報を聞き出せるとは思えない。力加減や調整、冷静さといった言葉からはほど遠いし、何よりポルナレフはいいやつだから無理だろう。
 車が動き出す音。まだいたのかと振り返る。みんなの視線も同じように我々のジープに乗り込んだホル・ホースへ向いていた。


「あっ、ホル・ホースッ! あの野郎ッ、我々のジープをッ!」

「おれはやっぱりDIOの方につくぜッ! また会おうぜ。もっとも、おたくら死んでなけりゃあな」

「てめ──ッ、戻ってこい! ジープをかえせこの野郎ッ!」


 うん、まあ、それで帰ってきたら笑っちゃうんだろうけどね。いや寧ろ逆に笑えないけど。帰ってこないとわかっていても言いたくなっちゃうよね。
 呆然とホル・ホースを見つめるわたしと花京院、睨みをきかせるジョセフと承太郎、怒りを露にし続けるポルナレフ。わたしたちに向かってホル・ホースが少しだけ振り返って右手をあげ、大声で叫んだ。


「ひとつ、忠告しておく! そのバアさんはすぐに殺した方がいいッ! さもないとそのババァを通じて、DIOの恐ろしさを改めて思い知るぜ! きっと! じゃあーなーっ」


 何言ってるんだあの野郎〜〜〜! と頭に血が上りきったポルナレフはさておき、ホル・ホースのことを考える。今の発言から察するに、DIOが肉の芽で裏切り者に成り得そうな人物を暗殺することをホル・ホースは知っていたということになる。ダン本人のことを知っているどうかは別にしても、忠告ができるということは確実に裏切り者を殺していることだけは知っているはずだ。
 ──なのに何故、わたしに直接そのことを伝えなかったのか?
 わたしたちに対して危険がないから、なんてことは言い切れまい。事実、このあとジョセフが襲われるはずなのだから。……安全になるためのスパイで、二重スパイをされたら堪ったもんじゃあない。ホル・ホースとの関係については慎重に考えなければならないようだ。一方的に知っている分、彼のことを信頼したくなってしまう。そんなことをして犠牲者を増やすようなことになるなんてことはあってはならない。もうすこし、彼のことは検討することにしよう。
 頭の中で気合を入れなおしながらも、ジョースター一行として今真っ先に考えなければならないのは、そんなことではない。


「さて、どうしましょうか?」

「そうじゃのう……誰かが通りかかるのを待つのは、リスクが高すぎる。仕方ない、歩いて次の町を目指そう」


 うん、まあ、そうだよね。知ってた。車に乗りたくないっていう気持ちも込めてホル・ホースにジープ奪わせたけど、やっぱり失敗だったかな……。そうしてわたしは現代っ子の体力のなさを見せ付けるべく歩くことになった。正直わたしが一時間も歩けば、下がるのはテンションだけでは済まされないだろうが……やるしかない。体力のなさも筋力のなさも根性のなさもお披露目することになりそうだ……。
 覚悟を決めて歩き出して二時間半。言葉も発せなくなり、ちょっとしたお花畑に脳内が行き着いた頃、後ろから音が聞こえてきた。どうやらそれは馬の走る音と木製の車輪がガラガラと立てる音に聞こえ、わたしは誰よりも早く振り向いた。そこに乗っていたおじさんとジョセフが話し合い、どうやら一台を譲ってもらえることになったらしい。やった……!! ありがとうおじさん!!
 一番後ろにエンヤ婆を乗せ、二列目にわたし、花京院、ポルナレフの順で座らせてもらった。どうせ景色なんて見てる余裕もないので、体格と身長が羨ましい度合いを越えているふたりが前に座ってもなんの問題なかった。


「……花京院くん、あの、申し訳ないんだけど、」

「大丈夫ですよ。ぼくは起きてますから、ゆっくり休んでください」


 全ての言葉を発する前に、察してくれた花京院がわたしを安心させるように笑ってくれた。もうね、花京院、いい子すぎて……。ごめんね、あまりに車酔いが辛いからって、ジープをホル・ホースにあげちゃった報いだね。歩くよりはよっぽどいいです。あと馬車よりもなぁ……うっぷ。ほんとに皆様ごめんなさい。承太郎なんて足怪我してるのにね……事情を説明しなきゃいけないから言えないけど、心の中ではしっかりと謝っておいた。改めてごめんなさい、もう色々限界です、寝ます。
mae ato

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