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「……なんてことを! このバアさんはてめーらの仲間だろうッ! ──ばあさんッ!」

「う、うう、うそ、うそ……う…うそじゃDIO様がこのわしにこんなこと…………するはずが……ない」


 ポルナレフが叫び、おばあさんは息絶え絶えに伸びる触手を否定している。ぼくが庇ったナマエさんは、やはりどこか平静だった。少しだけ悲しそうにばあさんのことを見ていたが、何について悲しんでいるのかは、ぼくにはわからない。出来ることならば、自分の異常性に傷付いて悲しんでくれていてほしい。ひとりは、もう、いやだから。
 前を向き、グロテスクになってしまったおばあさんを見る。いまだに触手にいたぶられて、顔をぐちゃぐちゃにされている。おばあさんの体から出ているものが、スタンドでないと気付き叫べば、おばあさんはそれを肉の芽だと言った。ポルナレフがチャリオッツを使い、触手を切り裂く。空中に浮いたそれが音を立てて消滅した。


「こ…これは! 太陽の光で溶けたぞッ! “肉の芽”! DIOのヤツの細胞だッ!」

「いかにも! よーく観察できました。それはDIO様の細胞、“肉の芽”が成長したものだ。今、このわたしがエンヤ婆の体内で成長させたのだ」


 壁に寄りかかり悪びれた様子もなく自分の犯行であることを明かす、ダンという男は自己顕示欲が強いのだろう。だから一々話の合間に自分の言葉を入れてくる。自分が注目されていないと我慢できないような、どうしようもないやつだ。


「エンヤ婆……あなたはDIO様にスタンドを教えたそうだが、DIO様があなたのようなちっぽけな存在の女に心をゆるすわけがないのだ。それに気づいていなかったようだな」


 しかしながらその能力は未知数で、尚且つおばあさんの有り様を見てしまえば、ああはなりたくないと思う恐ろしい敵でもある。ジョースターさんがばあさんに駆け寄り、DIOの能力を聞き出そうとするが、おばあさんは言わなかった。死ぬ寸前まで、DIOを信頼していた。おばあさんが敵であっても、どれだけゲスだとしても、信頼できるということ自体は素晴らしいことだと、ぼくは思う。だからぼくは、それを笑うダンに気分を害された。ナマエさんはぼくよりも強いかもしれないが、一応背に隠してダンの前に立つ。


「おれはエンヤ婆に対しては妹との因縁もあって複雑な気分だが、てめーは殺す」

「5対1だが躊躇しない。覚悟してもらおう」

「立ちな」


 しかしダンは我関せず、とこちらを気にすることもなく紅茶をのみ、戦う気迫すらみせることはない。承太郎がその後挑発するものの、ダンは左の口の端だけをあげて笑った。


「どうぞ。だが君たちは、この“鋼入りのダン”に指一本さわることはできない」


 直後、承太郎のスタープラチナがダンの腹に拳を叩き込み、ダンはあえなくそのまま店のガラスへと突っ込んだ。何が言いたかったんだ、と思考を巡らすよりも早く、ジョースターさんがダンと同じ動きで後ろに飛んでいった。ダンは忌々しそうに承太郎を見ながら唾を吐く。


「このバカが…………まだ説明は途中だ。もう少しできさまは自分の祖父を殺すところだった、いいか……、このわたしが、エンヤ婆を殺すだけのために君らの前に、このわたしの顔を、出すと思うのか……」

「き…きさま“恋人”のカードのスタンドとかいったな……い…いったい、なんだそれは!?」


 ダンはジョースターさんの言葉を馬鹿らしいとばかりに鼻で笑う。目線が全員に向くように顔をあげ、顔を醜悪に歪めてゲスに相応しい悪党らしい笑みを作った。


「もうすでに戦いは始まっているのですよ、ミスタージョースター」

mae ato

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