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 ラバーズがこちらに戻り、ダンの野郎をスタープラチナのパンチで沈め、おれがやられた分の仕返しをして直ぐ様暴行を受けたナマエのところに戻った。噎せ続けているナマエの白い猿轡は、吐き出された血液と鼻から流れる血液で真っ赤に染まっている。慌ててその猿轡を外し、投げ捨てる。猿轡は水っぽい音を立てて、地面に落下した。


「ナマエ!」

「……あ゛…ッ、エ゛ッふ、ぅえ、げ、ぇ゛ッ」


 ナマエは小さな身体を折り曲げて、びちゃびちゃと地面に血を吐き出した。その血に混じって透明の液体も出てきたが、おれにはそれが何かまではわからなかった。苦しそうにしているナマエの背を擦ってやる。十秒もしない間にそれは終わった。腕や足に巻かれたガムテープを半ば乱暴に剥がす。


「……は、…ぁ……あ゛り…が…と………ござ……ま゛…ず…」


 助けに入れなくて悪かった。誠心誠意謝ろうとした言葉は飲み込まれる。顔面も傷だらけにされたというのにナマエは、微笑んでいた。──自分の無力さ、弱さが露になる。俯きながらおれはその隣に座り込んでしまった。どうして、おまえは。おれは、自分の祖父の命を選んで、お前を見捨てたようなものなのに。おまえは、
 ナマエは執拗に喉を蹴られたせいか、完全に声が変わってしまっていた。きっと話すことすら痛いはずだ。にもかかわらず、へらへらとした笑顔でナマエは口を開く。


「しゃべらなくていい」

「だい゛、…じょ…ぶ……」

「馬鹿かてめーは! 大丈夫なわけねーだろうがッ!」

「じん゛ぱい゛……しょう゛でずね」

「……何言ってるか、わからねーよ」


 どうしてそんな状態で、笑う? どうやらおれはダンとの戦いで疲れきっているようだった。頭の中がぐるぐると回る。考えなくてもいいようなことばかり頭の中で回っている。全身傷だらけで立てないであろうと思っていたナマエが不意に立ち上がる。しかめっ面で痛みを堪えるかのように汗をたらしながら、ゆっくりと動き出した。


「ナマエっ、何やってんだッ!」

「ちょ、っど、用が」

「用!? お前、何言って……!」


 引き留めようと立ち上がったおれより先にナマエはよろよろと歩き出し、おれが吹き飛ばしたダンのところに向かっているようだった。ヴィト。ナマエがヴィトを呼ぶ。ふわりと浮かび上がったヴィトに寄りかかりながら、ナマエが歩く。
 ナマエは瓦礫に埋まる気絶したダンを見付けるや否や、まるで何事もなかったかのように背筋を伸ばし、颯爽とダンに近付いていく。


「ヴぃと゛、あ゛いづの゛、くぢ……い゛がい…、と゛めで」

「是」


 バシリ、どこにそんな力が残っていたのかわからないが、ナマエはダンが目を覚ますまで何度も頬を打った。目覚めたダンに、ナマエの口が歯を見せてにっこりと笑う。傷だらけの顔に唇だけで笑うその様は、壮絶にも見える。


「ひどつ、聞ぎたい゛ごとが、ある゛」

「ひ、ひィ! な、なんだよッ!」

「“肉の芽”、ほが、誰に゛埋め゛だ?」


 ダンはやっていないと、必死に自分が他の誰にも埋めてないことをアピールした。ナマエはダンの持っていたはずのナイフをどこからともなく持ち出して突き付け、もう一度問うたがダンの答えは変わらなかった。ぱちん、とナイフを折り畳む。それからナマエはダンに馬乗りになると、今度ははっきりと楽しげに笑った。


「ひ゛とじぢの゛ジョースターざんの分、ラバーズにや゛られだポルナレフど花京院くん゛の分、それから、散々痛めづげられだ空条さんの゛分ッ!」


 少し動かすだけでも辛いだろう身体でダンを殴り続けるナマエを、おれはナマエがダウンするまで止めることができなかった。
mae ato

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