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 怪我をあまりしていない連中を買い物に行かせ、その間におれとナマエはホテルに待機することにした。部屋は二つしか取れず、またわざわざじじいとふたりっきりはごめんだったので、おれは三人部屋に立候補。するとポルナレフが二人部屋が良いと言い出し、ほぼ自動的におれと花京院、それからナマエが同室となった。待機するべく部屋についた途端、ナマエは何故か思いっきり手をあげた。ガキ臭い仕種に、軽い笑みがこぼれた。


「なんだ?」

「お風呂に入って宜しいでしょうか!」

「好きにしろ、別におれだけの部屋じゃねーだろ」

「イエッサー!」


 ナマエの妙なハイテンションは一体なんなのか。荷物を持って風呂場に入っていくナマエを見ながら下らないことを考えた。荷物を床に起き、ため息をつく。ベッドに座ろうかとも思ったが、今日は幾度となくダンの野郎に蹴られているため躊躇われ、ソファへと腰を降ろした。
 深いため息とともに、帽子を外した。ぼうっと、今日のことを考えそうになった。けれど疲労感がすさまじいおれは、そんな疲れることを考えたくないと思ってしまって無理やり思考を終わらせる。そうこうしているうちに、やんわりと眠気が襲ってくる。しかしながら眠る気はない。睡魔も負けじとおれを寝かせようとしていたが、疲労感があるとは言え、眠りたいという気分にはどうしてもなれなかった。
 内ポケットからタバコを取り出し口にくわえ、火をつける。煙が口内の傷に染みたが、気にする程度ではない。深呼吸するように煙を吸い込み、肺に染み込ませていく。そのままの流れで吸い終えると、風呂場のドアが開いてナマエが出てくる。顔は入る前とは違い、ガーゼが剥がされていて痛々しい。その代わり、ナマエのテンションは通常通りに戻っていた。ナマエは穏やかに笑う。


「空条さんも入りますか?」

「いや、今はいい」

「そうですか。あ、なら申し訳ないんですが、背中に湿布貼ってもらってもいいですか? 背中はどうしても自分じゃ貼れそうもなくて」

「ああ、わかった」


 ナマエはおれに湿布を渡すと、ベッドの上に正座し、着ていたTシャツをたくしあげた。白く、細く、薄く、小さい。そんな背中に鬱血した紫の痣や青痣が無数に散らばっていて、見ているだけでも痛々しかった。……本当に嫌になる、自分が。痛みを感じないよう、慎重に湿布を貼ってやる。
 最後の一枚を貼り終え、それを告げようとしながら湿布のごみを拾おうと視線を下げたとき、見えてしまった。横から素肌の胸、が。そしてハッとする。こいつそういえば下着をつけていない、すなわち今の状態はノーブラと呼ばれるものであり、と思考が至ったときとっさに首を曲げてナマエを直視しないようにする。なにを、考えてんだ、おれは!


「……終わった、ぞ」

「ありがとうございます、ってあれ……空条さんどこに?」

「……風呂だ」


 そうですか、なんていうナマエの声を聞き流しながら、荷物を掴みあげて風呂場に入る。頭を冷やそう。落ち着け、おれ。無造作に服を脱ぎ捨て、冷水の状態からシャワーを浴びる。ずっと年下扱いしてきたはずのナマエに、女を感じるわけがない。落ち着け、落ち着け、おれ。あれは女じゃない、ガキだ、……二つか三つは年上だが。それにあいつは小動物みたいな動きをするし、ガキみたいなこともするし、ああ、でも普段見ている感じよりもかなり大きかったような。
 頭を壁にぶつけて、今考えたことを脳みそから追っ払う。ナマエ相手に、なにを、考えてんだ、おれは! 忘れろ! 頼むから!
mae ato

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